便秘症治療薬による腸管バリア機能の修復が非アルコール性脂肪肝疾患治療に有効であることを発見

横浜市立大学 2020年08月20日 11時00分
From Digital PR Platform


 横浜市立大学医学部 肝胆膵消化器病学教室の結束 貴臣 助教、中島 淳 主任教授らの研究グループは、便秘症治療薬ルビプロストンによる腸管バリア機能の修復が、非アルコール性脂肪肝疾患(Nonaclcoholic fatty liver disease: NAFLD)の治療に有効であることを示しました。
 本研究は、『Lancet Gastroenterology&Hepatorogy』に掲載されました。(日本時間 8月15日オンライン)

研究成果のポイント

ルビプロストンは、腸管バリア機能を修復することで非アルコール性脂肪肝疾患を改善する。
腸管バリア機能は、非アルコール性脂肪肝疾患の新たな治療ターゲットとなる。


リンク

研究の背景
 飲酒習慣のない脂肪肝を「非アルコール性脂肪肝疾患 (Nonaclcoholic fatty liver disease: NAFLD)」と呼びます。わが国では2000万人ほどの患者がいるとされ、肥満社会に伴いその罹患率は増加しています。その約10-20%は進行型の非アルコール性脂肪肝炎 (Nonalcoholic steatohepatitis: NASH)で、これを原因に肝硬変や肝臓がんを発症すると肝移植が必要となります。しかしながら、NAFLDに対する薬物治療は未だ確立されたものはなく、肝臓内の脂肪や炎症、線維化をターゲットとした薬剤の開発が進んでいます。
一方、NAFLD進行のメカニズムとして、腸内細菌が産生するエンドトキシン(毒素)の関与が報告されています。腸管壁のバリア機能が正常な状態ではエンドトキシンは腸管内に留まるが、NAFLD患者の場合、このバリア機能が破綻している(リーキーガット*1:Leaky gut)ためエンドトキシンが血液中に流出し、NAFLDの増悪に関与するとされています。
 便秘症治療薬のひとつであるルビプロストンは、腸管バリア機能の改善効果が報告されています。非便秘患者に対するルビプロストンの投与は報告がなく安全性を考慮して便秘症を合併するNAFLD患者を対象とし、我々は、ルビプロストン投与による腸管バリア機能の改善効果が便秘症を合併するNAFLD患者に有効であるか検討しました。

研究の内容
 150名の便秘症を有するNAFLD患者を1日1回12週間、24μgまたは12μgのルビプロストンを内服する群とプラセボ*2を内服する群の3群に分け、ランダム化、二重盲検*3、プラセボコントロール第2相試験を行いました。有効性の評価は、血液中の肝機能マーカーやエンドトキシンを測定するとともにMRエラストグラフィーを用いて肝臓中の脂肪量・硬さを測定した。腸管バリア機能はラクツロースマンニトールテストを行い尿サンプルから測定しました。
 本試験における有効性評価では、ルビプロストン投与群において、プラセボ群と比較して肝機能マーカーやエンドトキシン、肝臓中の脂肪量・硬さ、腸管バリア機能が著明な改善を示しました。特に、ルビプロストン投与群の中でも腸管バリア機能が改善したグループにおいては、肝機能マーカーや肝臓中の脂肪量・硬さ、NAFLDの増悪に関与する血液中のエンドトキシンの影響が明らかに減りました。一方で、ルビプロストン投与による腸内細菌叢の変化は認められなかったため、エンドトキシンの改善は腸内細菌の変化によるものではなく、腸管バリア機能の修復が関連している裏付けとなりました。
 安全性評価では、試験全体で17%の患者に有害事象を認めました。一番多い有害事象は下痢14%でしたが、生活に支障をきたすような重篤なものは認めませんでした。ルビプロストン12μg/日投与群は、24μg/日投与群より有害事象が少なく、同等の有効性を示しました。
 これらの結果は、ルビプロストンによる腸管透過性の改善効果が、NAFLD患者における肝機能改善に有効であることを示しています。

今後の展開
 NAFLDでは、腸管バリアの破綻が起きていることが報告されているため、今後、便秘症を持たないNAFLD患者において、ルビプロストンの有効性と安全性を検討する必要があります。
 本研究の結果を受け、肝臓の脂肪、炎症、線維化といった、現在開発が進んでいるNAFLD治療のターゲットに腸管バリア機能の是正が新たな選択肢の一つとして加わる可能性があります。本研究ではルビプロストンの服用期間は12週間と短いため、今後はもう少し内服期間の長い研究が必要です。

用語説明
*1 リーキーガット(Leaky gut): 腸壁のバリアが破綻することで、本来、腸(Gut)を透過しない未消化物や老廃物、微生物成分などが血液を通って体全体に漏れ出す(Leaky)状態を指す。
*2 プラセボ: 偽薬のことで、内服している患者さん、処方している医師も実薬と区別がつかない。プラセボを用いて行われる無作為対照試験は、最も質の高い(精度の高い)研究のデザインになる。患者さんをランダムに2つの群に振り分けることを無作為割り付けといい、誰もどちらの群になるか予想できないため、治療法の公平な比較を行うことができる。
*3 二重盲検: 治験の参加者と治験を担当する医師の両者が、新しい介入処置を受ける群と対照群のどちらで治療を受けているかわからない状態にして行う臨床試験。

※本研究は、マイランEPD合同会社より資金提供を受け行われました。

論文情報
Lubiprostone in patients with non-alcoholic fatty liver disease: a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2a trial
Takaomi Kessoku, Kento Imajo, Takashi Kobayashi, Anna Ozaki, Michihiro Iwaki, Yasushi Honda, Takayuki Kato, Yuji Ogawa, Wataru Tomeno, Shingo Kato, Takuma Higurashi, Masato Yoneda, Hiroyuki Kirikoshi, Kazumi Kubota, Masataka Taguri, Takeharu Yamanaka, Haruki Usuda,
Koichiro Wada, Noritoshi Kobayashi, Satoru Saito, Atsushi Nakajima
The Lancet Gastroenterology & Hepatology, August 14, 2020
DOI: リンク(20)30216-8

本プレスリリースは発表元企業よりご投稿いただいた情報を掲載しております。
お問い合わせにつきましては発表元企業までお願いいたします。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]