logo

マウスiPS細胞から皮膚器官系の再生に成功 ~難治性皮膚、脱毛疾患への応用に期待 -- 北里大学

北里大学 2016年04月02日 08時05分
From Digital PR Platform


理化学研究所(理研)多細胞システム形成研究センター器官誘導研究チームの辻孝チームリーダー(東京理科大学客員教授、北里大学医学部客員教授、東京歯科大学客員教授)、株式会社オーガンテクノロジーズの杉村泰宏社長、北里大学医学部の武田啓主任教授、佐藤明男特任教授、東北大学大学院歯学研究科の江草宏教授らの共同研究グループ※はこのたび、マウスiPS細胞(人工多能性幹細胞)[1]から、毛包や皮脂腺などの皮膚付属器を持つ「皮膚器官系」を再生する技術を開発。本研究成果は米国のオンライン科学雑誌『Science Advances』(4月1日付:日本時間4月2日)に掲載された。


 皮膚は生体を防御するほか、汗の排せつなどの機能があり、生体の恒常性維持に重要な役割を担っている。皮膚には、毛包や皮脂腺、汗腺など複数の皮膚付属器が存在し、上皮層や真皮層、皮下脂肪層を持っており、皮膚器官系として3次元的に複雑な構造をしている。皮膚に関わる疾患は、外傷や熱傷、先天性乏毛症、脱毛症、分泌腺異常など数多く知られている。しかし、皮膚器官系が複雑なために皮膚の完全な再生はいまだに実現していない。共同研究グループは、皮膚疾患に対する新たな再生治療法を確立するため、iPS細胞から皮膚器官系を形成する技術の開発を目指した。

 共同研究グループは、マウスiPS細胞から胚葉体(EB)[2]と呼ばれる凝集塊を形成させ、この凝集塊を複数個合わせてコラーゲンゲルに埋め込み、マウス生体へ移植してさまざまの上皮組織を形成する「Clustering-Dependent embryoid Body:CDB法」を開発した。この移植物内部には、上皮層や真皮層、皮下脂肪層、毛包や皮脂腺を持つ天然皮膚と同様の皮膚器官系が再生されていることを明らかにした。さらに、このiPS細胞由来皮膚器官系から毛包を10~20本含む「再生皮膚器官系ユニット」を分離し、別のマウス皮下へ移植すると、移植組織はがん化することなく生着し、神経や立毛筋などの周囲組織と接続して、機能的な毛包を再生することも示した。

 開発した手法をヒトに応用するには、生体内移植を経ずに生体外で皮膚器官系を再生する手法へと発展させることが必要である。本研究は将来、皮膚の外傷や熱傷の完全な再生に加え、先天性乏毛症や深刻な脱毛症、皮膚付属器に関する疾患の治癒につながると期待できる。

 本研究成果は米国のオンライン科学雑誌『Science Advances』(4月1日付:日本時間4月2日)に掲載された。

※共同研究グループ
理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 器官誘導研究チーム
  チームリーダー  辻 孝(つじ たかし)
  (東京理科大学 総合研究機構 客員教授、北里大学 医学部 客員教授、
   東京歯科大学 客員教授)
株式会社オーガンテクノロジーズ
  代表取締役社長  杉村 泰宏(すぎむら やすひろ)
  研究員      小川 美帆(おがわ みほ)
  (理研 多細胞システム形成研究センター 器官誘導研究チーム 客員研究員)
北里大学 医学部
  形成外科・美容外科学
  主任教授  武田 啓(たけだ あきら)
  寄附講座 再生医療形成外科学(オーガンテクノロジーズ)
  特任教授  佐藤 明男(さとう あきお)
東北大学大学院 歯学研究科 口腔修復学講座 分子・再生補綴学分野
  教授    江草 宏(えぐさ ひろし)

1.背景

 皮膚は、上皮層と真皮層、皮下脂肪層の3層からなり、個体の体表面全体を覆っている。皮膚には、皮膚付属器として毛包や皮脂腺、汗腺などの複数の器官が一定の規則性を持って配置されており、体の中で最も大きく、複雑な器官系である。皮膚付属器は、それぞれ神経支配や生理活性物質を介して機能しており、生体の恒常性の維持に重要な役割を担っている。毛包は、毛幹を萌出することによって、体表の保護や保温、皮膚創傷治癒時の細胞の供給源としての役割を担っている。一方、皮脂腺は皮脂の分泌による生体の保護、汗腺は水分供給と排せつを調節していることが知られている(図1)。

 皮膚は、個体の恒常性に重要であり、皮膚付属器を持った構造の複雑性のために、さまざまな疾患に関係している。その例として、外傷や熱傷、免疫疾患をはじめ、毛包における脱毛症、皮脂腺での皮脂の分泌異常や感染症などが挙げられる。これらの疾患は薬物や外科的治療で治癒可能なものも多くあるが、重症の熱傷や外傷、先天性乏毛症、汎発性脱毛症など難治性の先天性皮膚疾患の治療には、再生医療の適用が期待されている。例えば、重度熱傷に対する治療として再生上皮細胞シートが用いられている。しかし、皮膚器官系の完全な再生は、その複雑さのためにいまだに実現していない。

 ほぼすべての器官は、胎児期の上皮・間葉相互作用[3]によって誘導される器官原基から発生する。これまでに辻孝博士らは、胎児期に存在する器官誘導能のある組織幹細胞を用いて、3次元的な細胞操作技術である「器官原基法」を開発(注1)し、歯(注2)や毛包(注3)、唾液腺(注4)、涙腺(注5)の器官再生が可能であることを実証してきた。しかし、器官再生の細胞シーズは毛包を除いて胎児期にしか存在せず、ES細胞(胚性幹細胞)[4]やiPS細胞からの誘導が期待されている。

 そこで共同研究グループは、これまで課題であった重篤な皮膚疾患に対する新たな再生治療法の確立を目指し、iPS細胞から毛包や皮脂腺、汗腺を持つ天然皮膚と同様な皮膚器官系を再生する技術の開発を目指した。

注1)K. Nakao, R. Morita, Y. Saji, K. Ishida, Y. Tomita, M. Ogawa, M. Saitoh, Y. Tomooka, and T. Tsuji, “The development of a bioengineered organ germ method,” Nature methods 4(3), 227-30 (2007).
注2)E. Ikeda, R. Morita, K. Nakao, K. Ishida, T. Nakamura, T. Takano-Yamamoto, M. Ogawa, M. Mizuno, S. Kasugai, and T. Tsuji,
”Fully functional bioengineered tooth replacement as an organ replacement therapy,” Proc Natl Acad Sci USA. 106(32), 13475-80 (2009).
注3)KE. Toyoshima, K. Asakawa, N. Ishibashi, H. Toki, M. Ogawa, T. Hasegawa, T. Irié, T. Tachikawa, A. Sato, A. Takeda, and T. Tsuji. ”Fully functional hair follicle regeneration through the rearrangement of stem cells and their niches,”Nature Communications. 3, 784 (2012).
注4)M. Ogawa, M. Oshima, A. Imamura, Y. Sekine, K. Ishida, K. Yamashita, K. Nakajima, M. Hirayama, T. Tachikawa, and T. Tsuji, ”Functional salivary gland regeneration by transplantation of a bioengineered organ germ,”Nature Communications. 4, 2498 (2013).
注5)M. Hirayama, M. Ogawa, M. Oshima, Y. Sekine, K. Ishida, K. Yamashita, Ikeda K, S. Shimmura, T. Kawakita, K. Tsubota, and T. Tsuji, “Functional lacrimal gland regeneration by transplantation of a bioengineered organ germ,” Nature Communications. 4, 2497 (2013).

2.研究手法と成果

 共同研究グループは、iPS細胞から胚葉体(EB)を誘導し、そのEBから外胚葉性上皮組織を形成する技術を開発し、「Clustering-Dependent embryoid Body:CDB法」と名付けた。この方法はiPS細胞単独移植や単一のEBを移植した場合と比較して多種類の上皮組織を形成し、その内部には皮膚付属器である毛包や皮脂腺、汗腺などを持つ皮膚器官系が形成された。この皮膚器官系が天然皮膚と同様の組織構造を持つことを明らかにするとともに、再生した皮膚器官系を生体内に移植することにより、その生理機能を再生できることを実証した。

1)CDB法による外胚葉性上皮組織の誘導
 マウス歯肉の細胞から樹立したiPS細胞株を、1週間、低接着培養することによりEBを形成させた。このEBから外胚葉性の上皮組織を形成するため、コラーゲンゲル内に30個以上のEBを立体的に配置したものを免疫不全マウスの腎皮膜下に移植した(図2)。

 移植30日後には、移植したEBはテラトーマ[5]様の組織を形成した。この移植物を組織学的に解析したところ、移植物は外胚葉や内胚葉性の上皮組織からなる空洞構造(嚢胞)を多数持っていた。CDB法を用いると、iPS細胞単独移植や単一のEBを移植した場合と比較して、約4倍の上皮組織からなる嚢胞を形成した(図3)。

2)CDB法による移植物における皮膚器官系の再生
 CDB法による移植物内の上皮組織をより詳しく解析すると、移植物の上皮組織の一部に、天然の皮膚と同等の組織構造が形成され、毛包や皮脂腺などの皮膚付属器を持つ皮膚器官系が再生されていることが分かった。この皮膚器官系には、毛穴を介して毛幹が萌出している様子も観察された(図4左および中央)。これらの結果から、iPS細胞から形成させたEBをCDB法により移植した移植物には、天然皮膚の組織と同様の構造を持つ皮膚器官系が再生されていることが明らかになった。さらに、器官発生を制御する生理活性物質であるWnt10bによって刺激したEBを用いたCDB法では、Wnt10bで刺激しない場合と比べて、形成された移植物の毛包数が多く、より成熟していた(図4右)。この結果から、皮膚器官系の再生には、Wnt10bシグナルが効果的であることが分かった。

3)マウスiPS細胞由来皮膚器官系の組織学的解析
 移植物内に形成された再生皮膚器官系に含まれる付属器官の組織構造を詳しく解析したところ、毛包器官内に毛包上皮性幹細胞や毛乳頭細胞が正常に再生され、毛包に付随する立毛筋も適切な位置に配置されていることが分かった(図5)。このことから、iPS細胞由来再生皮膚器官系は、天然の皮膚器官系と同等の組織構造を持つことが示された。

4)マウスiPS細胞由来皮膚器官系の分離と移植
 再生皮膚器官系が正常な機能を持つかどうかを解析するため、再生皮膚器官系から毛包を10~20本含む全層組織を1つの再生皮膚器官系ユニットとして外科的に分離し、ヌードマウスの皮下へ移植した。その結果、移植した再生皮膚器官系は、移植されたヌードマウス(レシピエント)に生着し、少なくとも3か月にわたりがん化することはなかった。移植14日後には、再生毛がレシピエントの皮膚表面より萌出し、その後、天然毛と同様に成長していく様子が観察された(図6)。

 再生毛が、iPS細胞から誘導した皮膚器官系由来であることを確認するため、雄マウス(性染色体:XY)由来の再生皮膚器官系ユニットを、雌マウス(性染色体:XX)に移植してY-染色体 in situハイブリダイゼーション[6]により皮膚組織の由来を解析した。雄マウスの再生皮膚器官系ユニットを移植した部位では、Y染色体を持つ表皮や真皮、皮下脂肪、毛包や皮脂腺の細胞の局在が観察され、Y染色体を持たない雌マウスであるレシピエントの上皮組織内に生着していることからiPS細胞に由来することが確認された(図7)。

 また、毛包には立毛筋が接続し、寒さや緊張により収縮することが知られている。立毛筋が正常に機能、収縮するためには立毛筋と神経の接続が必要である。再生皮膚器官系の毛包には立毛筋が接続しており、さらに再生皮膚器官系を移植した部位では、立毛筋と神経組織が接続していることが分かった(図8)。

 これらのことから、再生皮膚器官系は分離、移植が可能であり、レシピエントの皮膚組織と適切に接続して生着し再生毛包を形成することが示された。

5)再生毛包の機能的評価
 iPS細胞から再生された皮膚器官系が、天然の皮膚を再現したかどうかを解析するために、皮膚に含まれる体毛の種類について解析した。マウスの体毛にはZigzag、Awl/Auchene、Guardという3種類の毛種があり、それぞれが一定の割合で、一定の距離に配置されている。再生皮膚器官系ユニットの移植によって再生された毛包について詳しく調べてみると、萌出した毛種は天然の皮膚と同様に萌出していることが分かった(図9)。この結果から、再生毛包は、正常な発生に基づく皮膚器官系として再生されたことが明らかになった。

 さらに、再生毛包の機能解析を行った。マウスの体毛はおよそ20日間という一定の毛周期[7]で生え替わる。再生毛包の毛周期を解析したところ、マウスの天然の体毛と同様に約20日間の毛周期で生え替わることが明らかとなり、機能的な毛包再生が可能であることが示された(図10)。

3.今後の期待

 共同研究グループは、マウスiPS細胞から作製した複数のEBをコラーゲンゲルに埋め込み、生体へ移植してさまざまな上皮組織を誘導するCDB法を開発し、天然皮膚と同様の機能を持つ皮膚器官系を再生することに成功した。この成果は世界に先駆けて、上皮・間葉相互作用を介して誘導される複数の器官を持つ複雑な皮膚器官系が再生可能であることを示している。

 今回の手法をヒトへの臨床応用として発展させるには、実験系を生体内移植系から生体外移植系へと発展させること、また、移植物がテラトーマ様組織を形成することなく皮膚器官系を誘導する実験系へと発展させることが必要である。本研究は将来、皮膚の重度の外傷や熱傷などの完全な再生を可能にするとともに、先天性乏毛症などの深刻な脱毛症や皮膚付属器に関する疾患の再生治癒につながると期待できる。

 さらに卵巣や眼で発症するデルモイドと呼ばれる嚢腫は、嚢腫内に上皮組織や毛包、皮脂腺、歯などの器官ができることが知られている。しかし、その発症メカニズムの多くは、いまだ不明なままである。今回の研究成果を利用することによって、その発症メカニズムの解明につながる可能性がある。

4.論文情報

<タイトル>
Bioengineering a 3D integumentary organ system from iPS cells using an in vivo transplantation model
<著者名>
Ryoji Takagi, Junko Ishimaru, Ayaka Sugawara, Koh-ei Toyoshima, Kentaro Ishida, Miho Ogawa, Kei Sakakibara, Kyosuke Asakawa, Akitoshi Kashiwakura, Masamitsu Oshima, Ryohei Minamide, Akio Sato, Toshihiro Yoshitake, Akira Takeda, Hiroshi Egusa & Takashi Tsuji
<雑誌>
Science Advances
<DOI>
10.1126/sciadv.1500887

5.補足説明

[1] iPS細胞(人工多能性幹細胞)
 体細胞に特定の遺伝子を導入することで得られる、多様な細胞に分化できる分化多能性と自己複製能を獲得した細胞。これまでに網膜や腎臓細胞、血球細胞など、さまざまな機能細胞への分化誘導法が開発され、幅広い再生医療の実現に向けて研究開発が進められている。

[2] 胚様体(EB)
 ES細胞やiPS細胞などを浮遊培養すると球体の細胞塊を形成する。この状態で2週間程度培養すると、さまざまな細胞種への分化が観察される。細胞の分化多能性を調べる一般的な方法の一つとして用いられている。EBとはEmbryoid Bodyの略。

[3] 上皮・間葉相互作用
 ほとんどの器官は胎児期に、上皮細胞と間葉細胞が互いに刺激をし合うことによって誘導される器官原基(器官のもととなる細胞凝集塊)から発生する。この時の反応を「上皮・間葉相互作用」と呼ぶ。

[4] ES細胞(胚性幹細胞)
 哺乳類の着床前胚(胚盤胞=ブラストシスト)に存在する多能性幹細胞(内部細胞塊)から樹立した細胞。分化多能性と自己複製能を持つ。

[5] テラトーマ
 未分化型の細胞からなる腫瘍で、内部にさまざまな種類の組織を含む。多能性幹細胞を生体に未分化のまま移植すると、テラトーマが形成される。

[6] Y-染色体 in situハイブリダイゼーション
 ドナーが雄(染色体XY)、レシピエントが雌(染色体XX)の移植実験系において、ドナー細胞(Y染色体を持つ雄由来の細胞)を移植した後に、レシピエントにはじめから存在する組織と識別するため、組織の切片にY染色体を検出させる試薬を用いて解析する方法。Y染色体が検出された組織はドナー由来のものと分かる。

[7] 毛周期
 体毛には毛周期と呼ばれるサイクルがあり、一定の周期で常に生え変わっている。毛周期は3つの段階に分かれており、成長期・退行期・休止期と進む。

6.発表者・機関窓口

<発表者> ※研究内容については発表者にお問い合わせ下さい。メールアドレスの「(at)」は「@」に置き換えてください
理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 器官誘導研究チーム
  チームリーダー  辻 孝(つじ たかし)
  (東京理科大学客員教授、北里大学医学部客員教授、東京歯科大学客員教授)
  TEL:078-306-3447 FAX:078-306-3449 
  E-mail:t-tsuji(at)cdb.riken.jp

株式会社オーガンテクノロジーズ
  代表取締役社長  杉村 泰宏(すぎむら やすひろ)

北里大学 医学部
  形成外科・美容外科学
  主任教授  武田 啓(たけだ あきら)
  寄附講座 再生医療形成外科学(オーガンテクノロジーズ)
  特任教授  佐藤 明男(さとう あきお)

東北大学大学院 歯学研究科 口腔修復学講座 分子・再生補綴学分野
  教授  江草 宏(えぐさ ひろし)

<機関窓口>メールアドレスの「(at)」は「@」に置き換えてください
理化学研究所 広報室 報道担当
  TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715
  E-mail:ex-press(at)riken.jp

学校法人北里研究所 総務部広報課
  TEL:042-778-7883 FAX:042-778-8187
  E-mail:kohoh(at)kitasato-u.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター リンク

本プレスリリースは発表元企業よりご投稿いただいた情報を掲載しております。
お問い合わせにつきましては発表元企業までお願いいたします。

今日の主要記事