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横浜市立大学が、遺伝子発現を抑えるヘテロクロマチン構造の形成機構を解明~がんの発生やiPS細胞産生の原理解明に向けて

横浜市立大学 2016年03月08日 08時05分
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横浜市立大学の研究グループは、名古屋市立大学の中山潤一教授らとの共同研究で、遺伝子の発現が抑えられるヘテロクロマチン構造形成に関与するタンパク質の結合機構を解明し、タンパク質から伸びた紐様構造のタンパク質同士が結合し、タンパク質の結合を強くしていることを世界で初めて明らかにした。がん細胞やiPS細胞ではヘテロクロマチン構造が異なることが示されているため、がんの発生やiPS細胞産生の理解につながる。この成果は、Nature Publishing Group『Scientific Reports』に掲載された(平成28年3月3日英国時間10時にオンライン掲載)。


【研究成果のポイント】
● ヘテロクロマチン形成に関与するタンパク質の化学修飾「リン酸化」の役割の解明
● 乳がんの生成と転移に関与するタンパク質HP1αの構造的理解
● 教科書でよく知られているタンパク質の球状構造ではなく、細長く伸びた紐構造の役割を解明。

【研究の背景】
 DNAは細胞の核の中で折り畳まれたクロマチン構造を取っている。クロマチン構造としてユークロマチンとヘテロクロマチンの2種類が知られている。クロマチンは4種類のヒストンタンパク質(H2A、H2B、H3、H4)が2個ずつ集まった球状のヒストン8量体(オクタマー)の周囲に146塩基対からなるDNAが巻きついたヌクレオソームが基本構造になり、数珠状につながっている。ユークロマチンでは数珠状構造が緩んでいてDNAはむき出しになり、その部位の遺伝子が活発に発現しているのに対し、ヘテロクロマチンではヘテロクロマチンタンパク質(HP1)によって数珠状構造が凝縮してDNAが外からは見えなくなり、遺伝子の発現が抑えられる。
 ユークロマチンとヘテロクロマチンの違いはヒストンの化学修飾の違いで説明できる。例えばユークロマチンはヒストンH3のN末の4番目のアミノ酸のリシンがメチル化されているのに対し、ヘテロクロマチンではヒストンH3のN末の9番目のアミノ酸のリシンがメチル化(H3K9me)されている。ヒストンH3K9meはHP1によって認識され、HP1がヌクレオソームを会合させる。
 HP1がヒストンH3K9meに結合する領域をクロモドメインと呼ぶ。クロモドメインは球状の構造を取り、HP1の20番から80番のアミノ酸がその球状構造を形成している。HP1のクロモドメインとヒストン H3K9meの結合様式は2002年に米国のグループが明らかにし、ヒストンH3の5番目から8番目のアミノ酸がクロモドメインの溝にはまり込み、9番目のメチル化リシンがポケットに納まっていた。
 ところが、現在名古屋市立大学の中山教授のグループが2004年にクロモドメインの球状構造のN末の11番目から14番目にあるセリン残基がリン酸化されるとヒストンH3K9meとの結合が非常に強くなることを見出した。これは、N末領域はクロモドメインから紐のように突き出ていて、その紐のリン酸化によりヒストンH3K9meの紐との結合が考えられるが、なぜHP1のふらふらした紐のような領域のリン酸化がヒストンH3K9meのふらふらした領域の結合を強くするのかが不明だった。

【研究の概要】
 今回、横浜市立大学に設置した世界最高級感度を誇るNMR分光器による紐の部分と球状構造の解析、スーパーコンピュータを使用した紐と紐の相互作用の分子動力学計算による解析、さらに実験室内小型X線小角散乱装置による紐の長さの解析によって、HP1のリン酸化された紐がヒストンH3K9meの紐とお互いがふらふらした伸びた紐同士で結合をしている様子を明らかにした。これは、今までタンパク質の働きは球状の構造体が重要であるという生物学の教科書で確立していたパラダイムを大きく変革する成果である。

【研究の詳細】
 HP1クロモドメイン単独(Y20)では解離定数が13.3μMだが、N末を伸ばしてリン酸化するとD10_sep解離定数が0.04μMと330倍ヒストンH3K9meとの結合が強くなった。N末まで伸ばすと結合が少し弱くなるが、リン酸化すると非リン酸化に比べて約10倍結合が強くなった。この現象は今までのクロモドメイン単独の球状構造では説明ができず、クロモドメインから伸びた紐がヒストンの紐と相互作用していることを意味している(図)。
 NMRでリン酸化された構造(赤)とリン酸化されていない構造(青)を決定したが、クロモドメインの領域の構造には全く差がないが、紐のダイナミクスに差があった。リン酸化された方の紐がリン酸化されていない紐に比べてより伸びた構造であった(図1)。
 実際に紐が伸びた構造かどうかをX線小角散乱で確認した。X線小角散乱の実験から、クロモドメイン単独では球状構造(黒)だが、リン酸化されていない紐がついていると(青)伸びた紐構造に由来するシグナルが見えた。リン酸化体(赤)では更に紐が伸びた構造であった。溶液中のX線小角散乱の実験からも紐の挙動が解明された(図2)。
 伸びた紐が実際にヒストンH3K9meの紐とどのように相互作用しているかをNMRで解析した結果、図3の(a)に示すようにHP1のリン酸化された紐の領域とヒストンH3K9meの紐の領域がふらふらとお互いに揺らいでいたが、その中には図4に示すようにお互いが結合している構造もあった。
 紐と紐の結合は非常に動的で静的な安定構造ではなかったので、レプリカ交換分子動力学計算(REMD)でその挙動を調べた。REMDでも図4の右に示すように赤で示したHP1のリン酸化された紐と黄色で示したヒストンH3の紐が静電的に結合していた。このように紐と紐の相互作用をNMR解析と分子動力計算より、初めてその実態を解明することが可能となった。

【今後の展開】
 HP1は乳がんに関連することが知られている。紐と紐の結合の実態に基づいて乳がん治療候補化合物のデザインが将来可能になる。また、iPS細胞ではヘテロクロマチン構造を変化させることが重要なので、ヘテロクロマチン構造形成を制御することが可能となればiPS細胞の制御も可能になることが期待される。
 さらに、今までは教科書的にはタンパク質の働きは球状構造の変化が重要だとされ、その静的な構造変化を結晶化して構造解析を行うことが現在のパラダイムであるが、今回の研究等により、タンパク質の紐と紐の動的な結合が働きに重要であることが分かってきたので、今後教科書的な考え方のパラダイムシフトを起こす必要がある。 

【論文情報】
 Hideaki Shimojo1, Ayumi Kawaguchi1, Takashi Oda1, Nobuto Hashiguchi1, Satoshi Omori1, Kei Moritsugu1, Akinori Kidera1, Kyoko Hiragami-Hamada2, Jun-ichi Nakayama3, Mamoru Sato1 and Yoshifumi Nishimura1*
1 Graduate School of Medical Life Science, Yokohama City University, 1-7-29 Suehiro-cho, Tsurumi-ku, Yokohama, Kanagawa 230-0045, Japan
2 Division of Genome Technologies, RIKEN Center for Life Science Technologies, 1-7-22 Suehiro-cho, Tsurumi-ku, Yokohama, Kanagawa 230-0045, Japan
3 Graduate School of Natural Sciences, Nagoya City University, 1 Yamanohata, Mizuho, Nagoya, Aichi 467-8501, Japan
Extended string-like binding of the phosphorylated HP1α N-terminal tail to the lysine 9-methylated histone H3 tail
論文掲載URL: www.nature.com/articles/srep22527

※ 本研究の成果は、文部科学省「先端研究基盤共用・プラットフォーム形成事業」と文部科学省及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構 創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業)の支援により得られた。

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 公立大学法人横浜市立大学大学院生命医科学研究科
 学長補佐 西村 善文
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 E-mail:nisimura※tsurumi.yokohama-cu.ac.jp(送信の際に、※を@に変更ください。)
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