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北里大学の研究グループが、深海に生息するシンカイヒバリガイ類を含むイガイ科二枚貝に共通する血球の種類と貪食作用を解明 ~深海生物の共生メカニズムを生体防御の視点から解明するための基礎的な知見~

北里大学 2015年04月09日 08時05分
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北里大学海洋生命科学部 海洋生物多様性研究分野の研究グループは、国立研究開発法人海洋研究開発機構(以下「JAMSTEC」という)および株式会社マリン・ワーク・ジャパンと共同で、深海の熱水域や湧水域に生息し、エラ細胞内に細菌を共生させるイガイ科二枚貝シンカイヒバリガイ類3種類について、生体防御機構(※1)で重要な働きをする血球が3種類あり、各種で外来細菌の貪食作用(※2)に違いがあることを初めて解明した。


 深海の湧水域や熱水域に生息する重要な生物種として、イガイ科二枚貝に属するシンカイヒバリガイ類がある。イガイ科二枚貝にはシンカイヒバリガイ類のように、深海に生息して細菌との共生関係を持つ種類もよく知られている。また浅海に生息して、食用となるために有名なムール貝やムラサキイガイなどでは、細菌との共生関係を有していない。一方でイガイ科二枚貝をはじめ生物には外からの細菌を防御する生体防御機構が備わっていることから、この生体防御機構と体内で細菌を受け入れる「共生」というメカニズムとが、どのような進化の結果、両立しているのかを解き明かすことは、深海生物の生態を理解する上で重要な課題の一つとなっている。しかし、これまでの研究では、生体防御機構を理解する上で重要な血球の分類や名称が研究者によって異なるなど混乱した状況にあった。

 研究グループでは、これまで知られているイガイ科二枚貝類の血球の分類を比較・整理した結果、全てのイガイ科二枚貝に共通した3種類の血球があり、その血球ごとに貪食作用における役割の違いがあることを明らかにした。今回の研究成果から、イガイ科二枚貝において、共生と生体防御の関係を研究する基礎を作ることができたと考えている。今後、共生する細菌と外来の細菌に対してどのような生体防御が働くか、など血球の機能が解明されることにより、二枚貝の共生メカニズムに関する理解が進むと期待される。

 本成果は、科学誌「Fish and Shellfish Immunology」に4月9日付け(日本時間)で掲載された。

タイトル:Phagocytic activities of hemocytes from the deep-sea symbiotic mussels Bathymodiolus japonicus, B. platifrons, and B. septemdierum.
著者名:Akihiro Tame1, 2, 3, Takao Yoshida2, 3, Kazue Ohishi3, and Tadashi Maruyama2, 3
所属:1マリン・ワーク・ジャパン、2北里大学、3海洋研究開発機構

【背 景】
 深海の熱水域や湧水域に生息するイガイ科二枚貝であるシンカイヒバリガイ類は、エラ細胞内に化学合成細菌(※3)を住まわせて、化学合成細菌が生み出すエネルギーにより生命を維持していることが知られている(図1)。このように、細菌と宿主動物が互いに持ちつ持たれつの関係にある状態を「共生」と言い、共生関係を築く種類には、細菌の共生する場所によって、細胞外共生(外部共生)と細胞内共生(内部共生)がある。イガイ科二枚貝には、その両者の共生関係を持つ種類が存在し、シンカイヒバリガイ類は細胞内共生を行う宿主動物の一つである。一方、同じイガイ科の二枚貝でも、浅海に生息し食用にもなっているムール貝やムラサキイガイなどには細菌との共生関係がない。

 一般に、動物は、病原性の原生生物、細菌やウイルスに対して、血球を中心とした生体防御機構を備えることで感染から身を守っており、イガイ科二枚貝類も、ヒトなどの脊椎動物の白血球に相当する何種類かの顆粒血球(※4)を持っている。顆粒血球は、病原体を認識し(非自己認識)、血球内に取り込んで排除する貪食作用を持ち、生命維持に欠かせない生体防御機構の中心を担っていることが知られているが、イガイ科二枚貝類における血球の種類とその機能については、これまで系統的な研究が行われてこなかったため、研究者によっては血球の種類の名称に違いがあるなど、血球の種類やその機能の解釈が難しく、少し混乱した状態になっていた。また、浅海に生息するムール貝やムラサキイガイについては、食用の習慣のある欧米を中心に研究が進んでいたが、深海の熱水域や湧水域に生息するイガイ科二枚貝であるシンカイヒバリガイ類では、共生と感染症の関係など、生体防御の視点から興味はもたれていたものの、血球の種類やその生体防御機構についてはほとんど知見がなく、共生者を持たないムール貝等の血球とどのような関係にあるのかは分かっていなかった。

 そこで、研究グループは、3種のシンカイヒバリガイ類(図2、シンカイヒバリガイ[Bathymodiolus japonicus]、ヘイトウシンカイヒバリガイ[B. platifrons]、シチヨウシンカイヒバリガイ[B. septemdierum])を用いて、血球の形態学的な解析とともに、血球の貪食作用を解析し、さらに、細菌を共生しないイガイ科二枚貝類の血球との比較を行い、イガイ科における血球の種類と機能を解析した。

【成 果】
 本研究では、日本近海の熱水域や湧水域に生息する3種類のシンカイヒバリガイ類の血球細胞の種類を分類し、その貪食作用を明らかにするために、光学顕微鏡観察と電子顕微鏡観察を行った。その結果、いずれのシンカイヒバリガイ類においても、1種類の無顆粒球と2種類の顆粒球(好塩基性顆粒球と好酸性顆粒球)の3種類の血球を持ち(図3)、好塩基性顆粒球と好酸性顆粒球の細胞内には、両者に大きさの違いは見みられるが、細胞内の消化に関わる消化酵素を含むリソソーム(※5)を多く持っていることが明らかとなった(図4)。

 これらの血球と緑色蛍光標識した大腸菌を混合し、貪食作用を調べたところ、2種類の顆粒球に貪食作用が見られ、消化酵素を含むリソソームとの融合が観察された(図5)。また、無顆粒球に貪食作用は見られず、好塩基性顆粒球は低い貪食作用、好酸性顆粒球は高い貪食作用を持つといった、異なる活性を示すことが明らかとなった。さらに、好酸性顆粒球は大腸菌の貪食後に速やかなリソソームとの融合が見られるが、好塩基性顆粒球では貪食からリソソームとの融合までの時間が長くかかることがわかった。これらの結果は、血球の種類によって異物排除に関わる機能に差があることを示唆している。

 これらの実験結果とこれまでに報告されている浅海のイガイ科二枚貝類の血球の種類を比較すると、いずれのイガイ科二枚貝にも共通して、1種類の無顆粒球と異物排除に関わる2種類の顆粒球が存在することが明らかとなった。以上のことから、生息場所や生息環境、共生の有無に関係なく、イガイ科二枚貝類においては、3種類の血球を主とした生体防御機構が広く普遍的に備わっていることが明らかとなった。

【今後の展望】
 これまでの研究で、藻類を共生させている二枚貝と共生者を持たない近縁種の二枚貝で血球の種類を比較すると、シャコ貝など光合成をする藻類と共生している二枚貝には、特有な血球があることが知られており、共生者と何らかの関係があることが示唆されている。

 しかしながら、イガイ科二枚貝類については、共生者を持つ・持たざるにかかわらず、生体防御機構の中心を担う血球について、共通した種類を持つことが本研究成果から明らかとなった。

 シンカイヒバリガイ類は、環境中から化学合成細菌を体内に取り込み、共生関係を築くと考えられている。共生者となる化学合成細菌は、血液を介さないでエラ細胞に直接取り込まれることも考えられる。しかし、共生者が外部から侵入して血液中に入れば、外来の細菌として認識されて今回のように顆粒球で貪食されて排除されてしまうはずである。本研究で明らかにした、2種類の顆粒球(好塩基性顆粒球と好酸性顆粒球)の異なる貪食作用が、共生者となる化学合成細菌に対する場合に、どのように外来の細菌と区別しているのか、また区別した後の反応として、攻撃するのか、受け入れるのかなど、一連のメカニズムは解明できていない。本研究成果は、そのような研究につながる基礎が作られたと言える。

 今後、シンカイヒバリガイ類の血球の機能を詳細に調べることで、外界から感染する細菌と共生する化学合成細菌を認識して区別するメカニズムを明らかにする糸口が掴めると考えている。研究グループでは今後、二枚貝類の血球が作られる組織や、血球の分化と成熟の過程を明らかにし、これら重要な問題の解明に貢献していきたいと考えている。

[用語解説]
※1 生体防御機構
 体に侵入してくる異物(病原体など)に対する防御システムのこと。自己と非自己を認識し、体外に排除または無毒化しようとする働きのこと。

※2 貪食作用
 細胞が細菌や異物を細胞の中に取り込み分解すること。

※3 化学合成細菌
 硫化水素等の無機物やメタンの酸化によりエネルギーを作り出し有機物質を合成する細菌。

※4 顆粒血球
 白血球の種類の1つ。血球の中に、消化酵素がつまった袋(リソソーム)を持ち、非自己の細菌を認識して細胞内に取り込む。

※5 リソソーム
 真核細胞が持つ細胞内小器官の一つ。生体膜につつまれた袋状の構造を持ち、袋の内部に消化酵素を持ち、貪食などにより細胞内に取り込まれた物質を分解する機能を有する。

▼本件に関するお問い合わせ先
 国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
 海洋生物多様性研究分野 主任技術研究員 吉田 尊雄
 TEL: 046-867-9560
 海洋理工学研究開発センター 上席研究員 丸山 正
 TEL: 046-867-9656
(報道担当)
 広報部 報道課長 松井 宏泰
 TEL: 046-867-9198


【図版説明】
図1 シンカイヒバリガイ類の細胞内共生
 シンカイヒバリガイ類は、エラ組織の細胞内に化学合成細菌との共生関係を築いている。化学合成細菌は、環境中から取り込まれ共生関係を築くと考えられている。(作画:吉原成行)

図2 本実験で用いた3種類のシンカイヒバリガイ類
 シンカイヒバリガイとヘイトウシンカイヒバリガイは相模湾初島沖の湧水域(水深850m付近)から採取した。シチヨウシンカイヒバリガイは伊豆・小笠原海域の明神海丘の熱水域(水深1300m付近)から採取した。

図3 シンカイヒバリガイ類の血球の光学顕微鏡による染色写真
 A,B,C:シンカイヒバリガイの3種類の血球。D:ヘイトウシンカイヒバリガイの3種類の血球。E:シチヨウシンカイヒバリガイの3種類の血球。三角印の部分は、仮足を示している。染色剤により塩基性を示す部位は、青色に染まり、酸性を示す部位は、赤紫色に染まる。核は塩基性を示すために青く染まる。

図4 シンカイヒバリガイの血球3種類の電子顕微鏡による細胞内の微細構造写真
 A,C,E:細胞の全体像。B,D,F:細胞内部の拡大像。A,B:無顆粒球。C,D:好塩基性顆粒球。E,F:好酸性顆粒球。n:核、p:仮足、er:小胞体、va:小胞、g:ゴルジ体、mi:ミトコンドリア、三角印:顆粒(リソソーム)を示している。好酸性顆粒球の顆粒は大型で細胞内に高密に多く存在するのに対し、好塩基性顆粒球の顆粒は小型で比較的細胞内に散在している(D、Eの三角印)。いずれの顆粒も、一重の膜に包まれ高い電子密度(黒っぽい)を示すことから、微細形態上の性質は類似している。

図5 シンカイヒバリガイの血球3種類の貪食作用とリソソームの融合の解析写真
 A,B,C:大腸菌(緑色の蛍光)を加えて2時間後にリソソーム(赤色の蛍光)との融合を調べた血球像。D,E,F:大腸菌(緑色の蛍光)を加えて24時間後にリソソーム(赤色の蛍光)との融合を調べた血球像。A,D:無顆粒球、B,E:好塩基性顆粒球、C,F:好酸性顆粒球。好塩基性顆粒球と好酸性顆粒球では貪食作用により大腸菌が細胞内に取り込まれていることが分かる。さらに大腸菌(三角印)がリソソームと融合し消化されると黄色になる(矢印)が、好塩基性顆粒球では大腸菌を添加してから24時間後にようやく消化されている(E)のに対し、好酸性顆粒球では2時間後には既に消化されている様子が確認できる(C)

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