震災関連調査報告その1「中堅・中小企業の業績への影響と今後の見通しについて」

株式会社ノークリサーチは、東日本大震災が中堅・中小企業に与える影響についての包括的な調査を実施した。

中長期的に業績への影響を及ぼす間接的な要因は何か?を見極めることが重要
▼落ち込みは2010年2月の水準に留まるが、今後の推移に注意が必要
▼比較的規模の大きい中堅上位企業で業績の落ち込みがやや大きい
▼企業業績に最も影響を与えるのは心理的要因による消費活動低下
▼半数の企業が6ヶ月で回復を見込むものの、中長期の懸念も存在
▼業種毎の直接要因/間接要因を踏まえた現状と今後の把握が大切

PRESS RELEASE(報道関係者各位)

ノークリサーチQuarterly Report特別編1

調査設計/分析/執筆: 岩上由高

東日本大震災に関する調査結果報告その1
中堅・中小企業の業績への影響と今後の見通しについて


株式会社ノークリサーチ(本社〒120-0034 東京都足立区千住1-4-1 東京芸術センター1705:代表伊嶋謙ニ03-5244-6691 URL:http//www.norkresearch.co.jp)は、東日本大震災が中堅・中小企業に与える影響についての包括的な調査を実施した。本リリースはそのうちの「中堅・中小企業の業績への影響と今後の見通し」に関する結果をまとめたものである。

調査対象企業: 年商500億円未満の国内民間企業1000社の経営層および管理職
調査対象地域: 東日本大震災の被災地を含めた日本全国
調査対象業種: 組立製造業/加工製造業/建設業/流通業/卸売業/小売業/IT関連サービス業/一般サービス業/その他
調査実施時期: 2011年5月

※図表につきましては下記URLをご参照ください
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中長期的に業績への影響を及ぼす間接的な要因は何か?を見極めることが重要
▼落ち込みは2010年2月の水準に留まるが、今後の推移に注意が必要
▼比較的規模の大きい中堅上位企業で業績の落ち込みがやや大きい
▼企業業績に最も影響を与えるのは心理的要因による消費活動低下
▼半数の企業が6ヶ月で回復を見込むものの、中長期の懸念も存在
▼業種毎の直接要因/間接要因を踏まえた現状と今後の把握が大切


【各種DI値の変化】落ち込みは2010年2月の水準に留まるが、今後の推移に注意が必要

以下のグラフはIT投資DIと経常利益DIの変化をプロットしたものである。震災の影響により、2011年5月の経常利益DIは大幅な下落を示している。現段階では2010年2月と同水準に留まっているが、原発事故の収束や消費の冷え込みが長引けば、2009年11月の水準までさらに落ち込む可能性もある。IT投資DIの落ち込みは経常利益DIと比べるとやや緩やかだが、これは震災による影響が急激であったことに起因している。IT投資DIへの影響が経常利益DIから遅れたタイミングで顕在化することも考えられるため、今後の推移を引き続き注視しておく必要がある。

[IT投資DIの定義]
今四半期以降のIT投資予算額が前四半期と比べてどれだけ増減するかを尋ね、「増える」と「減る」の差によって算出した「IT投資意欲指数」

[経常利益DIの定義]
前回調査時点と今回調査時点を比較した場合の経常利益変化を尋ね、「増えた」と「減った」の差によって算出した「経常利益増減指数」

以下では東日本大震災の影響を踏まえた中堅・中小企業の業績に関する詳細な分析結果について述べる。


【年商別の各種DI値遷移】比較的規模の大きい中堅上位企業で業績の落ち込みがやや大きい

以下のグラフは経常利益DIおよびIT投資DIの変化を年商別にプロットしたものである。2011年5月の経常利益DIについては全年商帯で減少となっており、年商300~500億円の中堅上位企業での落ち込みが比較的大きい。同企業帯は規模の上でも大企業に近く、生産拠点を全国に展開しているケースが少なくない。そのため、被災地からの部品/原材料の調達が滞ったことでの影響をより大きく受けたものと考えられる。IT投資DIについては年商5億円未満の小規模企業を除き、いずれも減少となっている。年商5億円未満の小規模企業におけるIT投資DI値が横ばいである理由は既にIT投資を最大限抑制していることによる。そのため、同企業帯における震災の影響が軽微であったわけではない点に留意すべきである。
次頁では東日本大震災に関連した業績低下の要因に関する詳細な分析を行っている。


【業績低下の主な要因】企業業績に最も影響を与えるのは心理的要因による消費活動低下

以下のグラフは「2011年2月時点と2011年5月時点を比較した場合に経常利益がマイナスとなった」と回答した企業に対して、その理由を尋ねた結果である。「東日本大震災に端を発する影響」という回答が突出して多くなっており、震災の影響の大きさをあらためて確認した結果となっている。
「東日本大震災に端を発する影響」の具体的な内容をさらに尋ねた結果が以下のグラフである。「震災に伴う自粛ムードによる消費活動の低下」が最も多くなっている。注意すべきなのは、この項目が地震や津波の被害を直接的に受けた被災地(本調査では岩手県/宮城県/福島県/茨城県/千葉県の5県として定義)と、それ以外の地域のいずれにおいても30%を超える高い値を示している点だ。心理的要因を含めた間接的な影響が日本全国に広がっており、これが中堅・中小企業の業績に大きな影響を与えている実態がうかがえる。
原発事故の収束や計画停電の再度の実施といった先の見えない状況が続く中では、消費活動を回復させる手立ては見出しにくい。ITソリューションを提供する側としては、こうした状況下でも比較的堅調なスマートフォン需要をうまく活用し、ソーシャルや位置情報といった機能を活かし、これまでとは異なる消費の形態や購買のステップを提案することで消費への心理的な障壁を緩和するなどといった新しい工夫を検討する必要があると考えられる。
一方で、被災地と被災地以外とで数値が異なる項目もある。「工場や事務所といった事業インフラの喪失/障害」は被災地以外では13.7%に留まるが、被災地では38.9%と高い値を示している。また、「被災地域の顧客企業からの発注や入金の停滞」についても被災地以外の22.2%に対し、被災地では33.3%に上っている。このことから、被災地については事業インフラの早期回復と、それに伴う地域の中堅・中小企業間での経済活動の再開が最優先事項といえる。
被災地では16.7%とそれほど高くないが、被災地以外では31.6%と高い値を示している項目が「部品や原材料の欠損/不測(調達元が被災地であるため)」である。被災地では自動車部品を始めとする非常に多くの生産工場が林立している。それらの稼働が停止し、被災地外への部品/原材料の供給が滞ったことが震災の影響を波及させる大きな要因であったことが確認できる。いずれの業種においても被災地の工場は順次稼働を再開させており、この項目による影響は徐々に解消していくものと期待される。


【震災による影響の今後】半数の企業が6ヶ月で回復を見込むものの、中長期の懸念も存在

以下のグラフは「東日本大震災による影響が今後どれだけ続くか」を尋ねた結果である。農林水産業といった第一次産業は事業の再開までに長い期間を要するが、本調査の対象となるのは組立製造業/加工製造業/建設業/流通業/卸売業/小売業/IT関連サービス業/一般サービス業/その他であり、これらの業種における事業所や生産設備の復旧が進んでいることから、約半数の企業が「6ヶ月以内には回復する」と回答している。だが、消費マインドの変化などの不確定要素も存在するため、あくまで企業側の予測である点に留意しておく必要がある。
企業業績を大きく左右する経済環境全般が回復するために最も重要な事柄は何か?を尋ねた結果が以下のグラフである。「原発事故の収束」「電力不足の解消または節電対策の安定化」の二点が多く挙げられている。これらはいずれも消費者心理に大きな影響を及ぼす項目といえる。前頁でも述べたように中堅・中小企業の業績を悪化させている最も大きな要因は消費者心理の冷え込みである。これを解消するためには原発事故や電力不足といった不安要素を解消することが極めて重要であるといえる。
だが、これら二点はいずれも個々の中堅・中小企業やITソリューションを提供する企業の力だけでは対処が難しく、政府の力量に負うところが大きく、根本的な解決は政府の対応を待たざるを得ない。だが、前頁にも述べたような新たな工夫に取り組むことも重要になってくると考えられる。
また、「電力不足の解消または節電対策の安定化」は企業の操業に大きな影響を与える。特に製造業にとっては深刻な問題となる。これについても各企業が節電に取り組んでいるが、エネルギー政策そのものの転換への機運が高まっており、節電対策の実施が常態化する可能性もある。今後は長期に持続可能な節電対策と業績回復の両立が求められ、それを達成する道具の一つとしてのIT活用が模索されることになると予想される。


【企業の業績見込み】業種毎の直接要因/間接要因を踏まえた現状と今後の把握が大切

以下のグラフは業種別に「経常利益実績のDI値」(2011年2月時点と2011年5月時点を比較した場合の経常利益増減のDI値)と「経常利益見込みのDI値」(2011年5月以降における経常利益増減見込みのDI値)をプロットしたものである。この結果と業種毎の震災による影響を分析することにより、各業種の現状と今後の見通しを把握することができる。

[組立製造業および加工製造業]
震災に関連した経常利益減少の要因としては「部品や原材料の欠損/不足(調達元が被災地であるため)」が多く挙げられている。
ただし、被災地での工場操業再開などの動きを踏まえ、依然としてマイナスではあるが、両業種いずれも経常利益見込みのDI値は経常利益実績のDI値から10ポイント程度の改善が見込まれている。
[流通業]
震災に関連した経常利益減少の要因としては「被災地域への部品出荷や原材料調達の停滞/停止」「被災地域における船舶/道路といった交通網の寸断」に加えて、「ガソリンや天然ガスなどのエネルギー資源の高騰」が挙げられている。いずれも改善の方向へと向かっているが、中東情勢など国際的な要因による原油高も続いているため経常利益見込みのDI値は経常利益実績のDI値と同じ値の横ばい状態となっている。
[建設業]
建設業は復興需要により業績が伸びると考えられがちだ。だが、実際には中堅・中小の建設業に関しては建設資材が被災地に優先的に供給されることなどによる部材不足が業績悪化の要因となり、経常利益実績のDI値は全業種で最も低くなっている。今後の震災の懸念に加え、原発事故や計画停電なども住宅購入意欲を押し下げる一要因であるため、経常利益見込みのDI値についても大きな改善は見込めない。
[卸売業]
卸売業は他の業種と比べると影響がやや少なく、経常利益見込みのDI値も依然マイナスながらも改善に向かう兆しを見せている。震災発生直後は被災地における物資の出入が停止/停滞したことの影響を受けたが、主要な交通網が普及したことによって従来の流通が回復してきたものと考えられる。
[小売業]
被災地を除き震災による直接的な影響は他業種に比べると若干軽微だが、「震災に伴う自粛ムードによる消費活動の低下」といった間接的な影響を大きく受けている。原発事故の収束や電力不足の解消にはまだ時間を要することから、経常利益見込みのDI値も現時点よりも若干の悪化が見込まれている。
[IT関連サービス業/サービス業]
これら二業種は「震災の影響を直接/間接に受けた企業からの発注減少」の影響を最も大きく受ける。今回の震災は被災地が広範に渡ったこともあり、「被災地域からの発注減少」を挙げる回答も多い。サービス業に対する影響は他業種の業績悪化の結果として遅れて顕在化することから、両業種ともに経常利益見込みのDI値は現状よりも若干の悪化を見込んでいる。

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調査設計、分析、執筆:岩上由高
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用語解説

[IT投資DIの定義]
今四半期以降のIT投資予算額が前四半期と比べてどれだけ増減するかを尋ね、「増える」と「減る」の差によって算出した「IT投資意欲指数」

[経常利益DIの定義]
前回調査時点と今回調査時点を比較した場合の経常利益変化を尋ね、「増えた」と「減った」の差によって算出した「経常利益増減指数」

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