施設建築、事業創造を支援するPM(プロジェクトマネジメント)/CM(コンストラクションマネジメント)を展開する山下PMCが開発し、2022年10月に提供を開始した「健康住宅Lively7(ライブリーセブン)認証」。この認証は、心身の健康に寄与する快適な住環境の基準を提示するものさしとして開発された認証プログラムで、分譲マンションや戸建住宅などで認証取得の動きが広がっている。
認証プログラムの策定には、疲労医学、地域社会医学などの第一線で活躍する研究者、専門家によって組成された委員会が関わっており、人々の心身の望ましい状態に影響を及ぼす「感覚」「運動」「認知」「生体恒常性・代謝」「活力」「心の健康」「衛生」の7領域30項目(※高齢者住宅版は31項目)の評価項目をもとに、住まう人の健康に良い影響を与え得るかという視点から物件の評価、認定を行っている。
そして、この7月からは、日本の高齢化率の上昇を背景に、高齢者特有のニーズを評価指標に反映した「健康住宅Lively7認証 高齢者住宅版」の提供が新たに開始された。
本記事では、高齢者住宅版の提供の背景や狙い、住環境や住まい選びに求められる視点について、健康住宅Lively7認証委員会の副委員長を務める、東京疲労睡眠クリニック院長の梶本修身氏と、山下PMC 執行役員 経営戦略本部 総合マーケティング戦略部/グローバル事業本部の合内祥之氏に話を伺った。
――医学的な見地から、高齢者の健康上の課題にはどのようなものがあるのでしょうか?
梶本氏:若い時は会社や仕事に通っているので、通勤しているだけでもかなりの運動をしています。外の人との触れ合いも当然多いのですが、退職すると急に友達が減ったり、1日の平均歩数もかなり変わって運動量も自然に少なくなってしまいます。例えば、郊外に住んで都心に通勤している人は、1日8000歩程度歩いていると言われていますから、かなりの運動量で、それだけで運動しなくていいぐらいです。それが退職してしまうと突然足腰が弱ったりしますし、人間関係の触れ合いの部分であるコミュニケーションや出会い、外出機会も減ってしまいます。最近はコンビニなどが近くにあったりして遠くまで買い物に行く必要もないという状況が生じていたりします。そうなると、なかなか能動的に動こうという動機づけがなくなってしまいます。年齢を重ねた時に住む環境は、ハード面だけではなく、みんなで集う場所づくりなど、ソフト面も含めて行動の動機づけをしてくれるような環境が必要になってきます。
――実際の需要というところで言うと、若い方が求める住宅との違いや変化は感じられますか?
合内氏:そうですね。弊社では2022年10月から「健康住宅Lively7認証(以下「Lively7認証」)」の提供を始めました。この「Lively7認証」自体は、もともとは年齢層に関係なく、例えばファミリー向け、若い世代向けの住宅にも適用していくことを想定したものになりますので、この部分での大きな違いはないと思っています。
梶本氏:ただ、年齢層の高い方々は、健康やそれに直結する、“安心・安全・快適”を価値として求めているのは感じますね。
合内氏:年齢を重ねないと、その価値を実感しづらいのかもしれません。弊社が「Lively7認証」の提供を始めてもうすぐ2年経ちますが、実際の需要としても、高齢者が利用する施設から認証の仕組みを詳しく知りたいというお問い合わせを頂くことが増えています。
梶本氏:高齢者向けに限らず、そもそも今、若い年齢の方には住宅の購入がしにくい時代になってきているというのも背景にあると思います。特に東京都内だったりすると、40代で初めて家を買う人も多いですよね。購入した時には元気な状態だと思いますが、例えば35年ローンで購入されたら、払い終わるのは70~80代くらい。おそらくほとんどの方が最終の住処にもなる。
そうなってきた時に、そこに住み続けられるかが大きな問題となってくると思います。自分の健康状態が今後どうなっていくか、あるいは家族構成がどうなっていくか、自分の介護を誰がしてくれるのか、足腰が弱った時にどうするのか。そういったことを考えると、いつまでも元気で、できる限り健康寿命を延ばしたい。そのほうが幸せですよね。
合内氏:日本の高齢化が進むにつれて、実際に高齢者向けの住宅の需要は増えてきています。例えば、サービス付き高齢者向け住宅は13年ほど前に始まった制度ですが、現在約8000棟が運営されています。
従来の老人ホームだけではなく、高齢者向けの分譲マンションなども増えてきていますね。今後も高齢者向けの住宅は数も増えてくるでしょうし、多様化していくと思います。そういった需要が増えてきている中で、高齢者住宅の状況や課題を踏まえてしっかりと取り組んでいく必要があるというところで、提供を始めたのが今回の「Lively7認証 高齢者住宅版」になります。
梶本氏:高齢者向け住宅に関しては、まずは予防という観点が非常に大事で、その次が変化ですね。自分の身体の機能の変化であったり、あるいは家族構成の変化であったり。そういった変化に柔軟に対応できるような仕様になっていることが求められます。
例えば床のフラットな仕様にしても何にしても、後から改築すると大掛かりになってしまうところが結構あります。30年後にどうなっているかを含めた対策が、我々が今進めている認証の根本にあります。つまり、今快適かどうかではなく、10年後、20年後、30年後まで住むことを前提とした上で、自分が高齢になった時にどうかということも住まい選びの大きなテーマの1つだということですね。
実はこれには、私の失敗談も関係しているんです。私は40歳の時に、家を建てようと設計会社に依頼したのですが、完成したのが45歳だったんです(笑)。5年かかっているうちに娘たちは全員外に出てしまい、夫婦2人になっているという状況で。40歳の当時は元気だったから家の中の段差とかも全然考えておらず、まあいいやぐらいの感じでしたが、いざ45歳になって、大きな荷物を1階から2階へ移動させなければならなくなった時に、夫婦間で戦いのジャンケンが始まるんですよ(笑)。そういうことが起こりうる。実は今、マンションに住み替えたいと思っていて実際に探してもいるんですが、若い時に買いたかったマンションと今の買いたいマンションとでは違ってきています。
――今だと具体的にどのような住宅を探していらっしゃるのですか?
梶本氏:タワーマンションの高層階よりもむしろ低層階の落ち着いたところがいいと思っていて、結局、豪華さではないんですよね。若い時はお金があったら高級車を買おうみたいな思考があるじゃないですか。それと同じで、若い時はマンションで言うと、豪華さであったり、広さや高さなどが基準になっていたのですが、だんだんと高層マンションに住んでいても、外出する機会が減りそうなどと考えたり。
自分で住んでみてわかることもあるでしょうし、実際体験したことによって価値観も変わってくる。自分の周りの環境も変わってきます。最終的に安心、安全、快適が大きな価値観になる。それはこの年になって初めてわかるのだと思います。
合内氏:「Lively7認証」自体が最終的に評価するものは施設・建物ですが、目指しているのは人の健康です。今、梶本先生がおっしゃった、安全と社会参加的な意味合いも従来の評価ポイントに加えています。
高齢者になってくると体の異変が起こりやすいですから、しっかりとモニタリングして、少しでも異変を感じたらケアできるようにしておく。高齢者施設などでは、第三者がケアできるよう、モニタリングできる状態にしておくことによって、悪くなる前に持ち直せる、ケアができるというところも大切だと思います。
もう1つ、社会参加の観点では、仕事で人と知り合っていた機会がなくなってしまうことから、コミュニティ形成であったり、グループをつくるような企画だったりを施設が運営していく。これは、認知機能の維持なども含めて必要になってくるという考えから、高齢者住宅版に関しては、この2点を大きな軸としてプログラムを策定しています。
梶本氏:“安心・安全・快適”という言葉自体は、実は私が従事している「疲労研究」の分野でも非常に大事なポイントで、疲れにくい、よく休める、睡眠にとって質の良い環境を提供するには、安心・安全・快適という3つのキーワードが非常に重要なのです。
例えば動物で言うと、サバンナの動物たちは、どこかに移動しても、そこですぐ寝るわけではなくて、周りの安全を確保し、安心できる状況になってから寝ます。暑ければ木陰で寝る。そうしたことを野生動物でもやっているわけです。
住処の快適性を求めるのは細菌や真菌でも同様だと言われています。ですから、人間であれば当然、安心・安全・快適な場所を求めます。若い時はそれに対応する形で住み替えればよいのですが、45歳頃を超えると求めるものが安心・安全・快適を重視した環境に変わるので、評価や価値ポイントも変わるのではないかと思っています。
合内氏:高齢者に限らず、住宅は購入手続きが済み、住むようになると「Lively7認証」の有無をあまり意識しなくなるかもしれません。ただ、最初の設計段階でしっかりと配慮しておかないと、改修が難しいケースもあり、住んでいる人はそのまま受け入れるしかない、という状況になります。15年後や20年後にリフォームするかもしれないですが、それぐらい長いスパンで我慢し続けないといけないという状況を避けるためにも、できれば採り入れていただけたらなと思います。
梶本氏:いつまでも元気ではないということですよね。あと、家族構成が変わるのは結構大きい。子どもがいる時はやはり子どもがメインなので、子どもが独立して夫婦2人で暮らす家を想像するのはなかなか難しい。
さすがに夫婦2人で四六時中ずっといるのはと感じる方もいらっしゃると思いますし、お互い趣味を楽しめるような空間をつくっておくのは大切だと思います。空調の体感差まで考えた上で間取りも含めて臨機応変に対応できる家が理想です。
家を買うときは気づかないことだと思いますが、買ってからのシミュレーションはとても大事。それを、住宅を提供する側から考えることが本当の意味での価値なんだろうなと。このプロジェクトの開発意義をひとことでまとめると「居住空間における予防医学」とも言えます。
合内氏:設計する段階で、施主の方がそこまで想像しながら議論できるかはなかなか難しいですよね。そういう指針を「Lively7認証」の中に入れているというのがわかりやすいかもしれません。
「Lively7認証」は、“健康への寄与”を住宅の性能として捉えています。例えば省エネ住宅で言うと、構造や環境負荷、断熱品質などの基準がありますが、それと同様に、スコアをつけて心身の健康への寄与度合いを評価しています。これからはそうした視点からの“ものさし”が必要になってくると考えています。
梶本氏:イメージとしては、今までは壁や床に例えば大理石を使うといった付加価値をつけていたところを、「Lively7認証」では幸せで健康に過ごせる、安心・安全・快適な空間づくりを評価しています。いわゆるプライスレスな価値と言われるものですが、主観的なイメージで評価するのではなく、さまざまなエビデンスに基づいて、健康への寄与を客観性をもって評価するところにこの認証の価値があると考えています。
――Lively7認証の導入は始まっていますか。
合内氏:Lively7認証は、相鉄不動産様が手掛けた神奈川県平塚市の「グレーシア湘南平塚海岸」や小田急不動産様による東京都狛江市の「リーフィア狛江 蒼翠の街」などで採用いただいています。高齢者向けでは、関西地域で導入が決まっており、現在建設が進んでいる状況です。
住まう人の健康に良い影響を与え得るかを評価していますが、駅から近すぎず、遠すぎず、ほどよい距離があると、歩く動機づけができるので、物件の場所や周辺環境も加味して評価をしています。
梶本氏:先ほど「Lively7認証」はプライスレスな価値と言いましたが、それをもう少し補足すると、プライスレスだけれどエビデンスベースであることが「Lively7認証」の特徴です。快適に感じるための安心、安全をきちんと数値化し、それに基づいて安全性を高める。これをつくり上げるために、専門的な裏付けや委員会での議論、評価を経た上で提供されている認証プログラムとなっていますので、健康的な暮らしを住まいからサポートするものとして捉えていただければと思います。
――梶本先生、合内様、本日はありがとうございました
※本認証を受けた住宅に居住するだけで、居住者の疾病が治癒したり、健康が増進することを保証するものではありません。
<健康住宅 Lively7認証>の詳細はこちらから
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