今でこそ全国区の知名度をもつ出雲大社だが、以前は地域の人たちに愛される地元の神社のような存在。正月の初詣などで大いに賑わうくらいで、1年を通じて訪れる人は極端に多いわけではなかった。2011年までの年間参拝客数は200万人前後とほぼ一定で、これは決して少なくない人数ではある。
しかしながら参道の商店街にとって致命的だったのは、1990年に最寄りにあった大社駅が廃止になったことだ。駅前から出雲大社につながる参道の人通りはすっかり途絶え、沿道にあった店舗が休業、廃業に追い込まれる例が増え始めた。
転機が訪れたのは2013年。60年に一度、修繕した本殿に御神体を引っ越しする「平成の大遷宮」が全国的に話題となり、その年の参拝客数は約800万人に膨れ上がった。2013年に向けては、あらかじめ参拝客が増えることを見越して行政も参道を再整備しており、そうした努力が功を奏したところもあるだろう。ただ、それに加えて大遷宮の盛り上がりに一役買ったのが、2012年に開業した「ご縁横丁」だ。
「出雲のいいもの、おいしいもの」をコンセプトにしたご縁横丁は、参道の北端、出雲大社の鳥居の目前に立地している。テナントとして集まる11店舗全てが地元企業の運営によるもので、出雲や島根ならではの名産がその場で手に入り、味わえるとして人気を集めた。開業5年目で100万人の買い物客が訪れるまでになり、現在も増加傾向が続いている。
そんなご縁横丁設立の旗振り役となったのが、地元の老舗和菓子屋「坂根屋」の三男、三木康夫氏。地元で生まれ育ったひとりとして、さびれた参道をどうにかして変えたいという想いがあったのだ。ご縁横丁の設立は、「出雲大社の参拝後に、何を買ったり、食べたりすればいいのかわからない」という観光客の声から、「出雲にある良いものをすぐに楽しめる場所を作るべきでは」と考えたのがきっかけだったという。
大遷宮以降、参拝客数はコンスタントに年間600万人前後を記録し、ご縁横丁を訪れる人は引きも切らない。ただ、この状況に安穏としているわけにはいかなかった。というのも、全国的には商店街の空き店舗率は上昇傾向にあり、ご縁横丁や参道の神門通り商店街も再び同じような状況に陥る可能性がゼロではないからだ。
そうならないためにも、ただ商売するだけでなく、「人を呼び込めるよう、常に魅力あるコンテンツにアップデートしないといけない」と三木氏は考えた。とはいえ新たなコンテンツを作るには、ご縁横丁の各店舗が知恵を絞ってアイデアを形にしていかなければならず、日々の店舗運営に忙殺される状況ではその時間を捻出するのも難しい。
しかもちょうどその頃、2019年10月からの消費税率10%引き上げの時期も迫っていた。軽減税率やキャッシュレス・ポイント還元事業などに絡む会計処理の複雑化、設備投資の問題もあり、この対応のために店舗の負担が大きくなるようであれば、新しいコンテンツを考える時間を生み出すのはますます難しくなる。
そこで三木氏が決断したのが、ご縁横丁へのモバイルPOSレジアプリの導入だった。選んだのはリクルートライフスタイルがサービス提供する「Airレジ」。iPadやiPhone、連携できる市販のキャッシュドロアなどを購入して無料のアプリをインストールするだけで、月額のシステムの利用料金はかからず、最小限のコストでスタートできるのが決め手となった。一緒に使うとより便利になる同社のサービスには、カード・電子マネー・QR・ポイントなど29種類の決済手段に対応可能なお店の決済サービスの「Airペイ」もあり、キャッシュレス・ポイント還元事業による顧客への還元に対応しやすいこともメリットだった。
2020年3月現在、店舗の性質上導入が不可能なところを除き、ご縁横丁の11店舗中9店舗がAirレジを、6店舗がAirペイをそれぞれ採用している。ポイント還元の影響もあって、以前のクレジットカードのみの対応だったときに比べ、Airペイ導入後2ヶ月でキャッシュレス決済比率は1.6倍に達し、三木氏は「機会損失が減っている」と実感。2020年にはおよそ全体の半数がキャッシュレス決済になると見込んでいる。
また、元々の悩みのひとつだった「新しいコンテンツを生み出すための時間づくり」という意味でも、Airレジを導入した効果は大きかった。例えば毎月1回ご縁横丁のテナントの店長たちが集まって実施している店長会議では、各店舗の売上動向の報告や、今後の運営方針などに関わる情報共有を行っている。従来は手作業で売上データを整理して会議に持ち込んでいたが、多忙を極める三木氏や店長だけに、会議の日までに必要な資料を全て用意できない場合もあった。不完全な情報では今後の方針を立てるのにも不安がつきまとう。
しかし、クラウドサービスであるAirレジにしたことで、各店舗の売上データを可視化して即座にiPadで参照できるようになり、時期ごとの昨年比較なども容易に。店長同士のアイデア共有や意見交換が活発化し、客観的な数字や分析結果による裏付けから建設的な議論も可能になった。結果的に三木氏や店長らの作業負担が大幅に低下して、新たなコンテンツを考える時間の余裕が生まれたという。
こうしたAirレジの導入による業務の効率化、省力化のおかげで、ご縁横丁に早くも次なるコンテンツが生まれようとしている。「観光客や地元の方が交流できる、空間のある宿やクラフトビール店をオープンする予定です」と三木氏。早い時間に店じまいするところの多い神門通り商店街において、夜間営業の可能性も含めて柔軟な運営方法を検討しているところだ。
Airレジ、Airペイに続いて、シフト管理を支援する「Airシフト」を導入する店舗も増え始めた。Airレジと同じIDで一緒に使えるこうしたさまざまな関連サービスについても、ご縁横丁の各店舗で今後必要に応じて導入を進めていきたいとしている。
さらに神門通り商店街の人が、ご縁横丁の実例を見て自分の店舗へのAirレジ導入に前向きになるなど、全員で商店街を盛り上げていこうという機運が高まりつつある。このような誰でも簡単に使えるテクノロジーが、いずれは島根県、日本全国へと波及していき、世の中のシャッター商店街を蘇らせていくきっかけになることを三木氏は期待している。
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