働き方改革関連法の改正に伴い、2024年4月から適用されたトラックドライバーの時間外労働の上限が規制されることで輸送能力が低下することを懸念する、いわゆる物流の2024年問題。今の時代、生活に欠かせないEC業界を下支えしている物流業界の問題だけに、ECを利用するユーザーにとっても、商品を売る側にとっても影響が気になるところだ。
こうした社会問題が昨今注目を集めてきたが、日本における業界のリーディングカンパニーである楽天は、以前よりECの健全な成長のためにユーザー利便性の向上や配送の効率化を追求した取り組みを行ってきているという。そこで今回は、「楽天市場」において、ユーザーへのよりよいお買い物体験の提供を追求しているマーケットプレイス事業 楽天市場企画部 ヴァイスジェネラルマネージャーの海老名雅貴氏と、楽天市場出店店舗向けの物流サービスを運営するロジスティクス事業ディレクターの佐藤敏春氏という、2人のキーマンにお話を伺った。
「物流の2024年問題は今年の4月に法改正されたタイミングを受け、大きな社会問題となっていますが、働き方改革関連法は2018年に成立しており、5年以上前から物流業界においても、このような課題が起きることは想定できていました。この『物流2024年問題』が注目されているからということではなく、我々が提供するECというサービスにおいて物流は、ユーザーへの配送の観点で、切っても切れない関係にあります。配送サービスの体験の良し悪しはECでのお買い物の満足度に大きく影響することを認識しており、配送サービス体験・利便性の向上に加え、配送パートナーとの連携やデジタル技術の活用による配送の効率化を進めることで、物流業界の健全な成長への貢献に努めてきました」と語るのは海老名氏だ。
「楽天市場」は、さまざまな店舗がインターネット上のショッピングモールに出店するビジネスモデル。各出店店舗が、商品の注文受付から発送まで独自に対応していると思われがちだが、楽天としても、出店店舗と密に連携し、出店店舗や物流事業者の負荷軽減、ユーザー体験の向上のために様々な取り組みを行っている。
その1つが、配送・受け取りの選択拡充による利便性の向上。
「商品を購入する際、いつ届くのか、送料はいくらなのかなどのわかりやすさが、ユーザーの購買行動に大きく影響を与えているため、実際に商品を届けてもらうという体験もさることながら、その手前の購買時の体験から改善していく必要があります」と海老名氏。
まず取り組んだのが、2020年3月に導入された「共通の送料込みライン」だ。3,980円(税込)以上の注文の際に別途ユーザーから送料費目を取らない形で商品を販売する取り組みで、送料のわかりやすさを実現。現在95%以上の店舗で導入されており、導入店舗の流通成長率は、未導入店舗より15.9ポイントも上回っている。
次に取り組んだのが、納期のわかりやすさだ。2023年6月から「最短お届け可能日」を商品ページ上に表示している。海老名氏は「それまでは、『注文後、何日以内に発送します』と記載されていたのですが、ユーザーにとっては、いつ発送されるかではなく、いつ届くかが重要であり、ユーザー目線に立って、何時までに注文していただければ何日に届きますということを、しっかり明示していく方針に切り替えました」。
最短お届け可能日が表示されることで、ユーザーが商品を受け取るタイミングを把握でき、再配達の削減につながるだけでなく、購買転換率は9%改善したという結果も出ている。ユーザー側だけでなく、店舗側にもメリットがある施策だ。
さらに一歩進んで、この7月からスタート予定なのが、幅広い受け取りの選択肢を提供できる商品に「最強配送」と書かれたラベルを表示し、ユーザーに配送品質の高い商品をよりわかりやすくする取り組みだ。
海老名氏は「送料や納期のわかりやすさに加え、ユーザーが商品を受け取りたい時に受け取れることを目指しています。翌日に受け取りたい方もいれば1週間後でもいいという方もいて、ユーザーの状況や買うものによってそのニーズは大きく変わってくると思います。そういったユーザーのニーズに合わせて、翌日配送や日時指定など幅広い受け取りの選択肢を提供している配送品質の高い商品に「最強配送ラベル」を表示することで、ユーザーによりわかりやすく、よりよい購買体験を提供していきます。
再配達を減らす取り組みとして、「最短お届け可能日」を表示し、商品がユーザーに届く日をわかりやすくしたことに加えて、「お買い物かご」の仕様を変更し、受取可能な日付指定を推奨するようにした。
「おかげさまで、ユーザーに受取可能な日時について意識していただく機会が増え、ご自身で受取可能な日を選ぶことで、 結果として再配達率が下がるといった結果も出ています。昨今、物流の負荷軽減のためには配送が遅ければ遅いほどいいような雰囲気もありますが、決してそんなことはないと考えています。早くても遅くても、モノが移動することに変わりなく、そこには人がかかわっているので、配達を1度で済ませられる仕組みが、2024年問題の解決に寄与すると考えています」と海老名氏。
ユーザーが受け取りたい時に商品を受け取れることが重要ではあるものの、それを実現するために店舗側に負担をかけるというのも、持続的な発展には繋がらない。
海老名氏は「注文を受けるという行為と配送するという行為は、今までワンセットとして考えられていました。これらをうまく切り離すことができれば、例えば大型セールなどのタイミングで一気に注文を受け、その後なだらかに配送するといったように、店舗さんが無理なく対応できるようになると思っています。」。
様々な配送施策の実施によるユーザー利便性の向上を目指している一方で、出店店舗をサポートすべく、店舗のオペレーションを自動化し、配送に関わる店舗の負荷を軽減する取り組みもしっかり行っている。その自動化の選択肢の1つとして、佐藤氏が担当しているのが楽天スーパーロジスティクス(RSL)という物流のアウトソーシングだ。
楽天スーパーロジスティクス(RSL)は、2019年に千葉県の流山と大阪府の枚方に大型拠点を構え、その後拠点を増やし、千葉県の習志野、神奈川県の中央林間、大阪府の八尾、福岡県の粕屋町の計6拠点が現在稼働中だ。
「EC事業者の方々が抱える物流の課題を解消することで、EC店舗運営を支えるためにサービス運営に取り組んでいます」と佐藤氏。「自社で商品を出荷しなければならない場合、人手が足りなくてこれ以上売ると出荷できないというEC事業者がたくさんいらっしゃいます。そのために、セールのときに販売に制限をかける店舗さんは珍しくありません。そういった店舗さんには、我々に物流をアウトソースいただくことで、出荷能力を気にすることなく販売できるようになります」と語る。
RSL利用店舗の成長率は、未導入店舗に比べ12.5ポイント高く、高水準で推移している。「楽天市場」における年間のベストショップを表彰する「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」で賞を受賞した店舗からも、RSLを利用していなければ受賞できなかったという声が多数寄せられており、ユーザーの満足度や店舗売上の向上に寄与していることがうかがえる。佐藤氏は「雇用が確保できていて、自前の出荷でできる範囲の部分はそのまま続けていただいて、セールなど注文が集中するときには我々に任せていただくという共存も可能です」と店舗ごとの立場に応じた柔軟性があることを強調した。
RSLでは、順調に利用企業数が増えており、取り扱う在庫の量や荷物の量も増加しているとのこと。佐藤氏は「単純に楽天として物流のアウトソース事業に取り組むだけではなく、2021年に設立した、日本郵便株式会社との合弁会社であるJP楽天ロジスティクス株式会社とも連携することによって、物流内部の効率化、配送や輸送の効率化、センター内における作業の効率化を図っています」と語る。配送はラストワンマイルが重要だが、強力なパートナーシップにより最寄りの配達局への直送の取り組み(局直送)が拡大し、輸送や作業の生産性向上が図られている。局直送とは、例えばRSLの倉庫からユーザーに配達する場合、従来のルートで行くと郵便局を2~3つ経由していくところ、倉庫から間の郵便局を経由せず、最寄りの郵便局まで直接配送するという取り組みだ。経由地を減らし、最適な輸送ルートで配送を行うことで、配送の効率化やドライバーの負荷軽減に貢献している。
さらに、AIを活用することでセンター内の作業効率化も行っているという。「日々の出荷量や注文量には波があります。その波をしっかりと予測して、各倉庫でどのぐらいのスタッフが必要なのか、各倉庫から出ていく車両台数をどのぐらい確保すべきかを最適化し、日々の運営に取り入れています。また、倉庫の中にある大量の在庫や商品も、出荷頻度に合わせて倉庫内での置き場所を変えたり、宛先に合わせて出荷する倉庫を変えたりするなど、最適な在庫配置により作業効率の向上に取り組んでいます」と佐藤氏は語った。
楽天は、長年こうした取り組みをしてきており、健全なEC物流の未来に向けて、慌てることなくしっかり対応できている理由がここにある。
ECは現代社会にとって必要不可欠な存在だ。今後、人材確保が難しくなっていくなか、ユーザーへはよりよい購入体験を提供しつつ、店舗側の負担を軽減し、効率の良い物流を維持していくために、楽天では目に見える部分、目に見えない部分の両面で、さまざまな改善を試みていることがわかった。
「我々が目指しているのは、ユーザーが受け取りやすい環境で、商品を受け取れるという体験です。モノが届くという観点において、できるだけストレスなくユーザーが受け取れる環境作りが我々の仕事だと思っています。また、配送の効率化の観点では、できるだけ最短距離をモノが移動する仕組みを考える必要があると思います。それが結果的には2024年問題の解決にも寄与しますし、サービス品質向上と効率化をどう両立し、実現するかが大きなテーマだと考えます」と海老名氏は語った。
佐藤氏は「物流というインフラサイドから考えると、今後もECを運営されている事業者さんが人手不足で困る時代が訪れると思いますし、物流の担い手側の人手不足も繰り返し起こると思います。そこも含めて、ECを持続的に発展させていくために、物流をより効率的に行える環境を出店店舗さん向けに着実に提供し続けていき、ユーザーの手元にしっかりと荷物が届けられるような環境を継続できるよう、努力し続けていきます」と語った。
ECの健全な成長を実現すべく、より便利に、よりよい社会を目指す楽天の取り組みに期待したい。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
「もったいない」という気持ちを原動力に
地場企業とともに拓く食の未来
地味ながら負荷の高い議事録作成作業に衝撃
使って納得「自動議事録作成マシン」の実力