名店を求めて、ちょっとそこまで食散歩――。
料理評論家・山本益博さんが、関東近郊の食の名店と、その土地ならではのお土産を紹介する本シリーズ。秋葉原編として、特別編を全4回CNET Japanにも連載します。
特別編第4回となる今回は、とんかつのすべてが理解できるとんかつ屋、神田小川町「ポンチ軒」を訪れました。
神田小川町「ポンチ軒」の前身は赤坂にあった「フリッツ」です。「揚げもの」のことをフランス語で「フリット」と呼ぶところから、オーナーがとんかつを中心とした揚げもの専門店の名にしたそうです。
そのオーナーがフランス料理のシェフ斎藤元志郎さん。とんかつ好きが嵩(こう)じて、あちこちの名店を食べ歩いているうちに、自分でとんかつの店を開いてしまったというわけです。斎藤さんいわく、「ポンチ軒」の「ポンチ」は「いかれぽんち」の「ぽんち」なのだそうですが、往年の洋食屋の名店の名前でもあります。
「とんかつ」は「すし、そば、てんぷら、うなぎ」と並ぶ東京の郷土料理です。東京下町、上野や浅草にとんかつ屋は数知れずあるのですが、神田・秋葉原周辺にも「勝漫」「やまいち」「丸五」ととんかつの名店がそろっています。「ポンチ軒」は新参者ではありますが、味の実力では勝るとも劣りません。
この店のいちばんのお薦めは、夜のメニューにある沖縄県産寿豚の「特ヒレ丸ごと一本揚げ」です。そのメニュー通り、豚肉のヒレを切って揚げるのではなく、丸ごと一本揚げてくれます。
そもそもヒレ肉は脂身がない赤身肉なので、小ぶりに切ってしまうと、ジューシーさがほとんどなくなってしまいます。こうして丸ごと揚げると、時間をかけても芯まで火が通りながら、しっとりした肉質が失われません。香りも生きています。
「ヒレって、こんなに美味しかったっけ?」とロース派のとんかつファンも唸(うな)るほどの出来栄えなんです。約500グラムもありますから、とてもひとりでは食べきれません。ですから、「ポンチ軒」へはぜひ、2名以上で出かけてこの逸品を召し上がっていただきたいと思います。
もし、3、4名でテーブルを囲むことができたのならば、「厚切りロースとんかつ」を一人前注文することをお薦めします。何と言っても「ロース」がとんかつの醍醐味ですから、「特ヒレ丸ごと一本揚げ」のあとにこれを召し上がられると、とんかつのすべてが理解できるというものです。
ランチでしたら、私は「上ロース豚かつ」をいただきます。でも、一番人気は「カツと特製カレー」で、いわゆる「カツカレー」になって出てきます。ただし、1000円の人気メニューゆえ、一番早く品切れになってしまうのもこの一皿です。
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