名店を求めて、ちょっとそこまで食散歩――。
料理評論家・山本益博さんが、関東近郊の食の名店と、その土地ならではのお土産を紹介する本シリーズ。秋葉原編として、特別編を全4回CNET Japanにも連載します。
特別編第3回となる今回は、昼によし、夜によしの和酒がそろう和食店、神田須田町「吟ばん」を訪れました。
日本料理「吟ばん」は、神田須田町かつての連雀町にあります。先日、火事になってしまった「やぶそば」の斜め向かいに店を構えています。
この「やぶそば」は昔、と言っても私が子供の頃までは、通称「連雀のやぶ」と呼ばれていました。「振袖火事」と言われる江戸の大火の後、この地が避難地として幕府から指定され、それまで住んでいた江戸の人々がいまの三鷹に移住させられました。その名跡が、いま三鷹の上連雀、下連雀として残っています。
神田の「やぶそば」の火事を知って、すぐに思い浮かべたことはこのことでした。
さて、「吟ばん」ですが、この地に進出してまだ10年も経っていません。老舗の多いこの町内ではまだまだ新参者ですが、店の賑わいを見ると、すでに町にすっかり溶け込んでいる風情があります。
私はお茶の水と小川町のちょうど間にある「鷹ばん」という銘酒ぞろいの居酒屋のお昼ごはんでいただける「ぶり丼」で店のファンになり、そこで姉妹店「吟ばん」を教えていただきました。
「吟ばん」でも、はじめは昼時に出かけ「海鮮三色丼」(1100円)を注文しましたが、近所のビジネスマンやOLたちが何とも美味しそうに「焼き物(のどぐろの一夜干し)・揚げ物(天然ぶり唐揚げ)盛り合わせ定食」(1000円)を食べていました。
昼がこんなにも美味しいのだからと、次は仲間を誘っての夕食です。これがまた、大評判でした。コースによって料理の内容が違いますが、造り(刺身)も焼き物も煮物も、食いしん坊たちを納得させ、話が盛り上がり、さらに、お勘定の段になって、とてもリーズナブルな値段にびっくりし、私は鼻高々でした。
「鷹ばん」が全国の銘酒をそろえているところから、「吟ばん」の酒のリストも充実しています。リストの表紙に「和酒」と書かれているのが何とも嬉しいですね。普通は「日本酒」です。私は「日本酒」という言葉には少々抵抗があって、おしゃべりのときには使っても原稿を書くときには「清酒」と書いて「日本酒」を避けています。フランス人は自国のワインを「フランスワイン」と呼ばないのと同じ理屈です。「日本茶」、「日本そば」も同じ、もっと自分の国の食材、料理に誇りを持ちたいと思っているのです。
「和酒」は、店主に伺うと、「清酒」ばかりでなく、ワインもウィスキーも日本のもののみをそろえているところから名づけたそうです。このセンスが素敵じゃないですか。
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