2025年2月26日にオンライン開催したCNET Japan Live 2025は、「イノベーションが導く社会課題解決」がテーマ。ICT、製造、宇宙、AIと多岐に渡る分野の6社が登壇し、各社の特徴的なイノベーションへの取り組みを披露した。
ここでは、2024年11月に羽田空港近くに設置されたソーシャルイノベーション共創拠点「CO-CREATION PARK - KAWARUBA」(カワルバ)と、それによって実現を目指すイノベーションや社会課題解決について語った、川崎重工のセッション内容をお届けする。
128年前の造船に始まり、鉄道車両、航空機、工業プラント、モーターサイクルと、日本の経済成長を工業分野で支えてきた川崎重工。同社は2030年に向けた次なる注力フィールドを「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」の3つに定め、KAWARUBAで取り組む社会課題解決の観点では「水素・カーボンニュートラル」と「ソーシャルロボット」の2点にフォーカスしている。
前者の水素は、日本の低いエネルギー自給率と化石燃料依存から脱却するにあたり有望なエネルギー源とされている。再生可能エネルギーなどから製造可能でカーボンフリー、かつ長期貯蔵が可能ということで、水素をつくる、はこぶ、ためる、つかうといったサプライチェーンの構築が川崎重工のミッションの1つとなっている。
LPG・LNG運搬船と、陸上で液化ガスを保管するタンクの製造について川崎重工は長年にわたる多数の実績と技術もある。それらを応用した液化水素の輸送・貯蔵技術や、水素から電気を得るための発電設備を開発し、実証を始めている、とも同社企画本部の原氏は説明する。
一方、ロボットについては、1969年に国内初となる産業用ロボットの生産を開始したことでも知られるように、こちらも川崎重工の得意分野の1つ。ものづくり現場を中心として人と協働するロボットや遠隔操作可能なロボットも手掛けてきたが、今後深刻化する労働人口減少に対するソリューションとして、人に寄り添い、人と協調しながら仕事をするソーシャルロボットの開発も手がけている。
ソーシャルロボットは、少子高齢化や労働人口の減少、物流増や災害への対策に貢献する可能性を秘めている。同社は、なかでも介護、医療の分野における課題解決を目指すソーシャルロボットの開発から着手しており、病院において看護師の一部業務を代替する自律走行ロボットの導入も実現したばかりだ。
しかしながら、川崎重工が単独でそうしたソリューションを作り上げ、社会実装していくことの難しさも見えてきた。これまでに挑戦したことのない領域も含まれ、そこでは新たな技術開発が必要になることもある。
加えて、世の中にそれを必要とする困りごとにどんなものがあるのか、社会課題に関する「解像度を上げる」ところにも時間がかかる、と原氏。いかに素早く社会実装していくかが鍵となるなかで、1社単独の取り組みでは間に合わずリソースも足りない。
そこで、社会課題解決に「挑戦したい」という意思を持つ人たちが集まる場所を設け、一緒に取り組んでいけるようにすることが必要ではないか。そう考えて川崎重工が2024年11月に立ち上げたのが、羽田空港に隣接するソーシャルイノベーション共創拠点「CO-CREATION PARK - KAWARUBA」だ。
目指しているのは、このKAWARUBAを軸にしたエコシステムの構築だ。事業や技術の種を持つスタートアップや大学・研究機関、それと社会課題解決を目指している事業会社や政府・自治体等とを、KAWARUBAという「場」でつなげ、羽田イノベーションシティや羽田空港、あるいは近隣地域を実証フィールドとして活用する。それによって社会実装を加速していく、というものだ。
人や情報がグローバルに行き交う羽田という地で実証の成果を発信していくことで、社会課題解決に参画したい人、共感を抱く人が集まり、さらに共創が広がることを目指す。原氏はさらに、「その先で社会課題を自分ごと化する世の中にしたい。社会課題は我々の世代で解決しなければならない、そんな空気を日本社会で作っていければ」という思いをもっていることも明かす。
KAWARUBAの具体的な活用シーンとして原氏が考えているのは、事業を「1から10」にしていくところでの共創促進だ。アイデアやビジネスモデルの仮説を作り上げていく「0から1」、事業化してそれを成長させていく「10から100」の部分は、すでに他のインキュベーション組織や企業の取り組みでカバーされている。
しかし、事業性検証や事業構築を行う「1から10」がいまだボトルネックになっており、「日本でイノベーションが生まれにくい」原因にもなっている。その解決に貢献する場がKAWARUBAというわけだ。
例えば、基礎的な技術はできあがったが、それをスケールアップして実際のフィールドに落とし込んで仮説検証していく場面。あるいは技術をどの様に製品に落とし込んでいくかを探っていく場面。社会実装するにあたりどういったフィールドでどういったステークホルダーと手を組めばいいのかを検討する場面。
「1から10」の段階においては、そのようにクリアしなければならない高いハードルが多数あり、「1社だけで解決していくのは非常に困難」だという。KAWARUBAでの共創によってそれを加速させ、「社会実装をより確実に、より早く行えるようにしたい」というのが原氏の願いだ。
川崎重工がこうした「場」を作る取り組みは、原氏によると同社の歴史の中で初めてとのこと。現在は事業共創のためだけに利用するのではなく、他の共創施設や研究会との連携や地域との交流などのイベントも開催し、社会課題解決に関する認知を広げる活動も行っている。「外部の方と積極的にコミュニケーションを取り、我々だけでは解決できない課題やその解決方法に気付いて、社外の方と手を繋いで社会に実装していきたい」とし、スタートアップや事業会社へ参画を呼びかけた。
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