CNET Japanは2月26日、年次イベント「CNET Japan Live 2025」をオンラインで開催した。2025年は「イノベーションが導く社会課題解決」をテーマに、ICT、製造、宇宙、AIと多岐に渡る分野で6セッションを展開。各分野における特徴的なイノベーションへの取り組みを披露した。
ここでは、セック代表取締役社長を務める櫻井伸太郎氏が登壇したセッション「チャンスは蓄積できない!挑戦する風土が未来を創る」の内容をお届けする。リアルタイム技術を軸に宇宙探査や自動運転、IoTなどの先端分野で社会課題解決に挑むソフトウェア開発会社のセックにおける、先端分野にチャレンジする企業風土と、チャレンジを恐れない人材のつくり方について紹介した。
2024年1月に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型月着陸実証機「SLIM」が、世界初となる月面へのピンポイント着陸に成功し、大きな話題となった。その際に、JAXAとタカラトミー、ソニーグループ、同志社大学の4者が共同開発したロボット「SORA-Q」が、月面上を自律走行してひっくり返ったSLIMの様子を撮影している。JAXAのパートナーとして参画したセックは、そのロボットの中に組み込まれたソフトウェアを開発したという。
セックは創業当初から宇宙領域に挑戦し、「はやぶさ2」のソフトウェア開発も担当した実績を持つ。そのほかの分野でも、携帯電話ではワンセグ放送ブラウザーや電子マネー機能の基盤開発、GPSを活用した緊急通報の仕組み、さらに電気自動車の充電設備開発や国際規格に準拠したロボット用ミドルウェアなどを開発してきた。このように同社は、これまで長きにわたり新しい分野に挑戦し、さまざまな日本初・世界初となる仕事を数多く手がけているという。
セックは、1970年に大学院生3人が設立した技術特化型のソフトウェア開発会社で、2004年にJASDAQに上場し、2022年にプライム市場に移行している。国内で多くのソフトウェア開発・システム開発会社が事業を営んでいるなかで、同社が得意とするのが、高度な信頼性が求められる“リアルタイム技術”である。
リアルタイム技術とは、「人が間に入らなくても、24時間365日動き続けられるようにする技術」(櫻井氏)を指す。例を挙げると、人工衛星、自動走行、ロボット制御などに適用されるもので、セックは創業以来、センサーなどの入力に対して瞬時に応答する「センサーベース」のソフトウェア開発技術を得意としてきた。
ソフトウェア開発会社としてのセックの特徴は、全体の作業の中でプログラミングの比率がわずか1割で、上流工程の設計が5割、試験が4割とコードを書く以外の作業に大きな比率が置かれていることだ。
デモやPoCを重ねてしっかりと課題を解決するための設計を行い、24時間365日動き続けられることを確認するためのテストも十分に行っている。さらに開発するソフトウェアのコードは、動作をさせるために必要な機能の部分は2割に過ぎず、残りの8割は、想定できないことが起こった時にどう動くかを規定するためのコードであるという。「そこをしっかりとできるのが当社の強み」と櫻井氏は語る。
事業分野は、大きく分けて4つ。まず社会の発展領域の「宇宙先端システム」および「インターネット」と、社会の安全領域の「社会基盤システム」および「モバイルネットワーク」となっている。
「当社の売り上げは、社会基盤とインターネットが支えている。その上で、宇宙先端とモバイルネットワークという最先端領域に着手できるという事業構成になっている。しっかりと事業が成り立つようなベースがあって、その上で事業を広げているという形で、社内で役割はしっかりと明確になっている」(櫻井氏)
ソフトウェア開発においては、「品質こそが競争力の源泉」であるとの考えのもと、社員全員が「同じ言葉」「同じ開発手法」「同じ品質意識」を持つことを重要視しているという。人材育成についても独特な方針を持っており、「きちんとした基礎なくして高度な専門性なし」との考え方から、新卒採用にこだわっている。しっかりとした育成を行うがゆえに、中途募集をかけても応募者が同社の求める合格レベルに至らないと説明する。
「私たちの教育は、4月1日に入社してから6カ月間の集合教育で研修をする。この間にソフトウェアの言語を勉強するというよりは、コンピューターの原理原則を学んでもらい、議論の仕方や報告書の書き方を学ばせて、それぞれの新入社員の潜在能力を顕在化させる。プロになったら、『教える』と『育てる』はない。生意気な言い方かもしれないが、『学ぶ』と『育つ』姿勢の社員を育てるのがセックの文化になっている」(櫻井氏)
そのような人材確保の方針があるため、セックでは常に先端分野にチャレンジする企業風土とそれを支える人材を確保できている。
「チャンスは蓄積できない。チャンスが来たら全て全力でモノにする。私たちは、『社会の安全と発展のために』という会社の理念に沿ったものであれば、新たな分野でも積極的にチャレンジするという考え方を持っている。特に日本初や世界初という難しいことに挑み、決してあきらめずにリスクをお客様と共有してやり遂げるのが、当社の企業文化だ」(櫻井氏)
イベントのテーマであるイノベーションによる社会解決の具体的な事例として櫻井氏は、「量子コンピューター」「宇宙×ロボット」「エッジコンピューティング」という3つの事例を紹介。
量子コンピューターは、現在のコンピューターでは解決が難しい問題を解決できると期待されているが、現在国内ではまだ3台しかマシンが設置されていない状況にある。その中で、そのうちの1台を保有する大阪大学に対して、1人の社員が人脈ゼロの状態からアプローチをし、研究や学習の成果が認められて大阪大学と論文の執筆と共同研究を開始。その後ソフトウェア技術者としての経験を利用して、量子プログラムを高速化する量子マルチプログラミング機能を開発し、クラウドサービスとして提供している。
「量子マルチプログラミングをクラウドサービスで提供するのは、世界初の事例。この分野において引き続き世の中を先導する役目をしっかりと果していきたい」と櫻井氏は語る。
宇宙×ロボットでは、無重力状態で動くロボットシステムの開発をしている。櫻井氏は「宇宙とロボットの両方にチャレンジしているのがセック。宇宙空間や宇宙ステーション、惑星の表面で活躍するロボットを開発して、社会課題の解決に寄与していきたい」と思いを語る。
代表的なロボットは、実用化されたものとしては現在国際宇宙ステーション(ISS)上の実験棟で動いているボール型の撮影用ドローン「Int-Ball2」があり、そのほかに、2本の足で体を支えもう1本のアームで荷物を移動させる、JAXAからの委託でシステムインテグレーション全体を担っている運搬用ロボットの「PORTRS」を開発中である。更にこれから、地上からコントロールする医学系の双椀ロボットのソフトウェア開発を始める予定であるとのこと。
「無重力空間で動くロボットに関しては、PostISS向けに提案していきたいと考えている」(櫻井氏)
エッジコンピューティングについては、クラウドにつながらないという特性を生かして、反応速度の向上やコストの削減、セキュリティ強化の取り組みに挑戦しているという。具体的には、「瓶や缶、お皿、コップの打音検査によってその中身の材質の情報をチェックするような取り組みをしている」(櫻井氏)という。
プレゼンの最後に櫻井氏は、ソフトウェアが自動車を定義する「ソフトウェア・ディファインド・ビークル」(SDV)というイーロン・マスク氏の言葉を借りて、「今はソフトウェアの時代。ソフトウェアで価値を再定義する『ソフトウェア・ディファインド・バリュー』の時代に突入した」と述べ、ハードウェアを開発する国内企業・組織に対して協調型の製品開発を訴えた。
「個人・企業・国の競争力は、ソフトウェアで決まる時代になった。セックは戦略技術を究め、ソフトウェアで価値を再定義し、社会の安全と発展に尽くすことを考えている。そして垂直統合型の1社開発ではない、水平協調型による日本発の世界に届くソリューションを作っていきたい。量子コンピューター、宇宙×ロボット、エッジコンピューティングで人類の夢を叶えたいと考えている。ぜひ一緒にビジネスをドライブできたら」(櫻井氏)
セッションの後半では、櫻井氏が主催者側からの質問に回答した。
まず新人教育については、セックは社員数が375人という中で、2025年度は新卒を33人採用している。内訳は大学院卒の博士が7人、修士が25人、学部卒が1人で、この10年では院卒が80%以上という構成であるという。研修ではプログラミングよりもコンピューターの原理原則を教え、アセンブラや機械語などの低級言語を使ってOSを作らせて、その上で動作するミドルウェアやアプリケーションを開発して卒業となるとのこと。中には3か月で卒業できる社員もいるというが、「卒業できる早さは関係なく、その後のOJTの質の濃さがポイントになってくる」と見解を述べた。
セックと一緒に仕事をしたい企業・組織はどのようにアプローチすればいいかという問いに対しては、「とにかく声を掛けて欲しい」と回答。「いろいろ提案していただいたお話の中から、お互いの潜在能力を顕在化させることで社会に貢献できる事業が生み出せると思っている。これからは水平分業でオープンアライアンスが基本になってくるので、一緒に検討していきたいと考えている」と述べつつ、最後に視聴者に対して、「今日は、セックのファンになってもらいたいという目的でいろいろと話をさせていただいた。私たちの考え方に同調いただける方は、ぜひご連絡をいただきたい。真摯に対応させていただく」と語りかけた。
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