CNET Japanは2月26日、年次イベント「CNET Japan Live 2025」をオンラインで開催した。2025年は「イノベーションが導く社会課題解決」をテーマに、ICT、製造、宇宙、AIと多岐に渡る分野で6セッションを展開。各分野における特徴的なイノベーションへの取り組みを披露した。
ここでは、NTTコミュニケーションズ株式会社 プロデュース部門長を務める黒田和宏氏が登壇したセッション「ExTorchが描く共創の未来~社会課題解決の実践事例とその可能性~」の内容をお届けする。スタートアップとの共創で社会課題の解決を目指すオープンイノベーションプログラム「ExTorch(エクストーチ)」の5年間に渡る軌跡とその実績を紹介した。
日本における最も代表的な企業群と言えるNTTグループ。その一員であるNTTドコモグループ傘下で、主に法人向けの事業を展開しているのがNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)だ。登壇した黒田氏は、R&Dとしての機能をもつ同社イノベーションセンターに所属している。
黒田氏が所属するプロデュース部門は、社会課題の解決に向けたビジネスを作る「社内イノベーションの推進支援」を主なミッションの1つとし、「docomo STARTUP」と「ExTorch」という2つのイノベーションプログラムを実施している。前者のdocomo STARTUPは、社員のアイデア起点のボトムアップ型の新規事業創出プログラムで、後者のExTorchは社外との共創型プログラムとなる。
今回のセッションの主題となったExTorchの目的は、NTT Com自身やNTTグループがもつアセットなどを、スタートアップをはじめとするパートナー企業のユニークなアイデアや技術と掛け合わせることで、顧客の課題や社会課題の解決につながるソリューションを社会実装していく、というもの。
それにあたりExTorchの運営事務局では、NTTグループ内のベンチャーキャピタルなどとも連携して日常的に世界中のスタートアップの情報を収集するとともに、年1回のピッチ・マッチングイベントを開催。勉強会や情報共有といった社内向けの活動も行っている。
一方で、社外のパートナー企業にとってExTorchの最も特徴的なポイントといえるのが、膨大なアセットや手厚い支援が受けられることだ。法人事業に強みをもつNTT Comならではの販売網から、NTTグループのクラウド、ネットワーク、セキュリティ、IoT、AIなどのICTサービス、データセンターや通信局舎のような設備まで、多様かつ大規模なアセットの利用機会が得られる。
また、実際に共創を進めていくところでは、企画立案段階での壁打ちや伴走、調査レポートの提供をExTorch事務局が行う。業界動向調査、ビジネスモデルなど事業戦略の検討、事業立ち上げに向けたPoCの支援、外部メンターの起用といった、共創の成功率を高める充実したサポートも受けられる。事業化を果たした後も、ビジネス拡大に向けた営業・マーケティング活動の最適化などの面で協力が得られるとする。
スタートした2019年から2年間の第1期では6つのプロジェクトを、2021年から2年間の第2期では5つのプロジェクトを、それぞれ採択するなど順調な滑り出しを見せたExTorch。しかし黒田氏は、イベント形式で実施してきたことで、課題が見えてきたと話す。
NTT Comの提示するテーマに対してスタートアップが応募する公募制で、「応募いただいた以外のスタートアップとマッチングできない」ことが1つ。共創開始からゴールまで2年はかかり、イベント型では「公募期間以外で他のスタートアップが参加できない」のもネックだった。また、反対にNTT Comとしてもスタートアップを探す活動がしにくく、「社内から新しいアイデアが生まれてもそれをマッチングさせることが難しい」悩みもあった。
そうした課題を解決するべく、2022年の中途からは期間を区切らず、通年の共創マッチングプログラムにリニューアル。公募ではなく、社内やグループからのニーズに応じてスタートアップとのマッチングを行う現在のスタイルに移行したという。
それによって「社内やグループの事業部に寄り添って伴走できるようになった」と黒田氏。「事業部が目指している方向性や課題について、スタートアップとうまくマッチングさせることで新しいビジネスにつなげるという、本来の活動ができている」とも話し、手応えを感じている。
そのように大きく方針転換したExTorchにおいて、事業化を果たしたプロジェクトも生まれてきている。1つは、グループ会社であるエヌ・ティ・ティ・ビズリンク株式会社にて提供中の 「Beamo(ビーモ) 」 。市販の360度カメラとスマートフォンを使って商業施設や生産施設などを撮影し、そのデータを一元管理できるようにするサービスである。組織内で建物や空間に関するビジュアル情報を共有する際、従来は作業工程が多くデータ管理も煩雑だったが、これにより大幅に省力化できるという。
2つ目はプライバシーに配慮しながら人流解析できる「butlr(バトラー)」。温度を検知するサーモセンサーによって人の位置を把握する仕組みで、監視カメラを不要としているのが特徴だ。電池で動作するため天井に設置するだけで使い始めることができ、AIによって人とそれ以外を高精度に判別する。
すでにNTT Com社内でも導入しており、「オフィススペースの利用状況を継続的に把握することで、どのように什器を配置すればより効果的な施設利用につながるのかなど、検討していきたい」と話す。
3つ目は、マリス creative design 社が開発した歩行アシスタントAIカメラ「seeker」のプロジェクト。seekerは頭部に装着したカメラとセンサーからの情報をエッジAIで処理して周囲の状況を検知し、振動で歩行者に危険を知らせる仕組みで、視覚障がい者や高齢者の外出をサポートする。
このプロジェクトでは、そこにNTT Comのアセットである「Smart Data Platform」を組み合わせている。カメラとセンサーから得られたデータをセキュアなネットワークを通じてクラウドに蓄積することで、外部からの見守りなどを想定した機能提供を行っているという。
実績を積み重ねつつあるExTorchだが、目下の課題は認知度を上げることだ。NTT Comによるオープンイノベーションプログラムの存在はいまだ広く知られているとは言えず、2024年度は国内外のスタートアップを招待するマッチングイベントを開催したり、オウンドメディアを通じて発信したりなどプロモーションにも力を入れてきた。特に社内に対しては「泥臭く社内を回って、どんなニーズがあるか話を聞かせてもらいながらExTorchの認知拡大に努めている」ところ。
こうしたオープンイノベーションで新規事業創出を目指していくうえで、黒田氏は「熱意が一番大事」と話す。「事業を作っていくのは一見華やかに見えて、泥臭いことも多く、大変なことも多い。そういった中でもくじけず粘り強くやっていくためには、これを実現したいんだという熱い思い、熱いビジョンみたいなものが大事だと思う」と続ける。
それと同時に、ビジネスとして「お互いに利益がある状況を作り出していくこと」も重要であると付け加える。「われわれの共創はスタートアップと社内組織をマッチングし、その上でお客様にソリューションを提供するもの。三方良しのWin-Win-Winの形を作らなければいけないし、結果的にわれわれもWinになる『四方良し』を狙わなければいけない」と決意を新たにしていた。
2005年、NTTコミュニケーションズ入社。OCNサービスの企画・運営、人事部での若手育成策定を経て、2016年よりNTTコム オンラインへ出向。「空電プッシュ」事業責任者として売上を約10倍に成長させ、認知拡大にも貢献。2024年よりイノベーションセンターにて新規事業創出およびオープンイノベーションプログラム「ExTorch」の責任者を務める。
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