都市と地方の「ブロードバンド格差」という新たな課題
それでは、ネットワーク政策の具体的に何を議論しているんだ、という点ですが、ユビキタスの中にいろいろな論点が入ってくると思いますが、まずはブロードバンドの一層の普及。これはDSLやFTTH、ケーブルインターネットを核として、さらに無線(Wireless-LAN、FWA)が入ってくることになると思いますが、これらの利用者の増加を図る施策ですね。それから、ブロードバンドを巡る課題としてデジタルデバイドといいますか、都市と地方との普及の格差が最近意識されるようになってきています。インターネットであれば、ほぼ全国どこでも使える状態が整備されていますが、ことブロードバンドになると、使えないところが結構地方には多いのです。
今までは一部の都会だけがブロードバンドが使える状態でしたが、現在は地方都市でも整備が進んでいるので、「おらが町でブロードバンドが何故使えないんだ」という事を仰る政治家の先生方も多くなりました。近い将来、この問題が政治問題になる事もあるかもしれません。具体的に数字をあげれば、総務省で立ち上げている研究会に「全国均衡のあるブロードバンド基盤の整備に関する研究会」というのがありますが、この中の資料(PDF)を見ていただきたいのですが、ブロードバンドといえば、通常はDSL、光ファイバ、ケーブルというのが代表的な手段で、基本的にこの3つで数字を出しているわけですが、今年の6月末の段階で1619万加入に達しています。e-Japanの当初の目標が高速インターネット接続に可能な環境が3000万世帯、超高速インターネットが1000万世帯でしたが、これらの目標は既に達成していて(今年1月段階で高速:5800万世帯、超高速:1800万世帯)今後は実加入数をさらに積み増そうという事ですね。ただし、e-Japanの評価専門調査会からは、あまりにも有線に偏りすぎていて、無線にもっとフォーカスしなさい、という提言があり、ユビキタスという点では無線も重要ですから、目標を上方修正しつつ、そこに無線を入れているところです。光ファイバは、現在150万加入といったところですかね。
それで、数字だけ見ると順調に進んでいるように見えるのですが、細かく見ていくと、都市と地方との格差という点が結構如実に出ているんですね。例えばDSLの普及状況について、市町村別で見たデータがあるんですが、(上記資料7ページ)市では100%サービスされているんですが、町村部に行くと76.9%に落ち込みます。人口規模的に見ると人口が多いところほどサービスされている状況がもっと分かり易く出ています。また、過疎地域に限ったデータ(8ページ)では、町村部における普及状況が半分くらいに止まっていることが分かります。
あと、この調査にはトリックがあって、当該市町村のどこか1カ所でもサービスエリアであれば、その市町村ではDSLがサービスされているとカウントしているのです。地方に行くと、市役所や役場の周りだけでしか、ブロードバンドが使えないという例が結構あるんですね。なので、この数字も過大評価なので、NTTの局舎別の提供状況(9ページ)を見てみると、さっき、市部では100%でしたけど、局舎で見ると一気に75%と4分の3になってしまいます。町村部の場合は、77%だったのが49%と半数を割ってしまう状況です。(過疎地域のデータはもっと厳しい:10ページ)しかも、これもその局舎で1件でもサービスしていると、その局舎はサービスしているというカウント方法なので、利用者についての正確なデータというわけではないのですが、それでも市町村サービスエリアのカウントよりはかなり精度が上がっていると思います。
いずれにせよ、DSL一つ取ってもこういう状況ですが、光ファイバ(FTTH)の提供状況(12ページ)では明確な差が出ています。先ほどのDSLと同じサービスエリアからみた市町村別の状況を見ると、市では75%が提供されている一方で、町村部に行くと14.9%とガクンと落ち込んでいます。これを過疎地域に限ると市でも23%、町村部では2.1%と更に悲惨な状況です。私も今、集合住宅に住んでいて、光ファイバを使っていますが、一旦光ファイバを使い出すと元には戻れないですから、これが都市から地方への移住を妨げ、地方との格差を広げる一つの理由になってくるかも知れません。
一方で、ケーブルテレビの普及率はどうかというと(16ページ)、ケーブルテレビ局がそもそもないと、サービスされないと言う点があるのでそこは他と比較が難しいのですが、市でいうと、6割程度、町村部は2割程度がサービスされている状況で、ここでも人口が多いところの方がサービスされている、というパータンが繰り返されています。もっとも、ケーブルテレビは首長の意向で「おらが町はテレビを絶対にやるぞ」ということで、人口が少ないところでもサービスをしている場合もありますが、統計で出してみると差は明らかになっていて、過疎地のデータ(17ページ)市が15%で町村部が8%程度ですか、もう全然サービスされてないですね。このように、ブロードバンドにおけるデジタルデバイドという問題意識はかなり強くなってきています。
ただし、このような状況を改善するために国が何ができるかというと、総務省の情報通信インフラの予算は補助金支援の枠組みも用意してるんですが、合計で100億円くらいしかないんですね。一方で市町村からの支援要請はたくさん来るようになっていて、我々も危機感を強めているところです。ご存じのように、三位一体の改革ということで、補助金は削減するのが基本方向ですから、この手の予算が増えることはあまり見込めません。その対応策はいろいろ考えていますが、まったくの私案ということで申し上げれば、一般歳出(48兆円)の予算の半分以上を占める社会保障費(20兆円)と文教費(6兆円)、この辺から1%以下でも良いので、総務省の情報通信インフラの予算に回して欲しいのですが、現実には公共投資の予算を1%変動させるだけでも大騒動になる状況ですから、難しいですね。
例えば、米国では、ユニバーサル・サービス基金という枠組みがあって、売上高に応じて通信事業者が資金を拠出し、過疎地域における通信インフラの整備費にその基金から補助が出るという仕組みがあります。この補助の対象として、学校・図書館を対象にした遠隔教育や医療機関を対象にした遠隔医療用の特別割引が1998年から導入されました。ネットワークを活用すれば、トラベルコスト、病院や学校に通うコストが節約できるわけですから、社会保障費や文教費から予算を支出するという枠組みはできない話ではないと思います。このように、社会保障費や文教費を活用して、過疎地における通信費を援助する制度を導入できないか、と個人的に妄想しています(笑)。現在の補助金のような仕組みが限界を迎えつつある中では、このような基金制度も検討されて然るべきではないかと思います。
(※参考資料2:「全国均衡のあるブロードバンド基盤の整備に関する研究会」)
以上のような問題が、u-Japanにおけるネットワーク政策分野における主な課題というところでして、先ほどの3つの「u」を使って政策を分類してみると、以下のようになります。
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このような内容を盛り込みつつ、12月の取りまとめに向けてu-Japanの議論を進めているという状況です。
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