トランプ政権、アメリカのAI覇権死守へ「行動計画」発表--5つの重要なポイント

Jon Reed (CNET News) 翻訳校正: 編集部2025年07月24日 10時55分

 トランプ大統領が打ち出したのは、AI企業やデータセンターに対する規制の緩和だ。しかし批判する人々は、この大胆な計画に深刻なリスクが潜んでいると警鐘を鳴らす──。

(ホワイトハウスの公式Xアカウントより) (ホワイトハウスの公式Xアカウントより)
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 トランプ政権は7月23日、米国が「世界のAI覇権」を握り続けるための行動計画を明らかにした。「AIアクションプラン」(AI行動計画)と名づけられた同計画は、AI技術の開発や、それを支えるインフラ整備を大幅に加速させるため、関連企業への規制を大胆に削減するというものだ。

  1. AIインフラの規制を大幅削減
  2. AI技術の規制も削減
  3. イデオロギーと大規模言語モデル
  4. 「AIに職を奪われる」への対処も
  5. 政府自身もAIを積極活用へ

 しかし、その狙いを疑問視する声もある。「これはシリコンバレーと石油業界への大盤振る舞いだ」と指摘する批判者たちは、計画が進めば、消費者の安全や環境保護、さらには気候変動対策のために不可欠な規制が骨抜きにされてしまうと懸念を示している。

 このアクションプラン自体は法的拘束力こそないが(内容は数十にわたる政策提言にとどまる)、一方でトランプ氏はその一部を実現するための大統領令3つに署名した。この一連の動きは、ここ半年ほどでトランプ政権が示してきたAIやテクノロジーへの姿勢を改めて鮮明にしたものだ。つまり、テック企業はほぼ自由放任とし、中国との競争に勝つことを最優先に掲げ、環境規制を後回しにしてでもデータセンターや工場、化石燃料発電所などの整備を推し進めるという方針だ。

 この動きは、ChatGPTの登場に始まり、その後GoogleやMetaによる生成AIブームという勢いに乗じたものだと見られている。

 23日夜、トランプ氏は「わが政権は、世界最大かつ最先端のAIインフラを構築・維持するために、使えるあらゆる手段を講じる」と力強く宣言。その壇上で、3つの大統領令に署名した。

 政権の関係者やテック業界団体はこの計画を絶賛している。IT業界団体のCEO、ジェイソン・オックスマン氏は「トランプ大統領のAIアクションプランは、米国に新たなAI支配の時代をもたらす青写真だ」と称賛した。

 一方で、消費者保護を訴える団体からは懸念が噴出している。「規制撤廃に偏重しすぎており、消費者を守るために必要なルールを弱体化させてしまう恐れがある」というのだ。

 「連邦の土地を環境負荷の大きいデータセンターに開放したり、連邦取引委員会(FTC)に過去の決定を掘り返させたり、規制が少ないことを条件に連邦資金を投入しようとしたりと、問題が多すぎる。この動きは、AI活用が急拡大し、それに伴うリスクも高まっている今こそ必要な消費者保護の取り組みを、全く違う方向にそらしてしまう」(全米消費者連盟のAI・プライバシー部門責任者、ベン・ウィンターズ氏)

AIインフラの規制を大幅削減

 このアクションプランによれば、AIの急速な成長には半導体工場やデータセンター、さらには新たな電力源など、大規模なインフラ整備が不可欠だという。しかし同時に、その妨げとなっているのが環境規制だと指摘。そこで、AI関連施設の建設については、水質や大気保護を目的とした環境規制から免除する方針を提案している。さらに、連邦政府所有の土地をデータセンターや関連発電所の建設用に開放することも提言している。

 大量に電力を消費するデータセンターを支えるため、この計画は「重要な発電設備の早期廃止を防ぐ」方針も掲げている。これは、主に石炭火力発電などの化石燃料ベースのインフラを長期間稼働させ続けることを意味していると考えられる。実際、トランプ氏は演説で石炭および原子力発電への支持を明言している。

 政権はさらに、核分裂や核融合、先進的な地熱発電といった「安定的で信頼性のある電力源」を電力網に優先的につなぐことを求めている。今月初めには、風力や太陽光などの再生可能エネルギーへの税制優遇措置を予定より早く廃止する法案にも署名している。現在米国の電力網に新規追加されている電源の多くが、まさにこの風力や太陽光であることを考えると、この動きは極めて象徴的だ。

 気候変動防止団体Climate Justice Allianceの代表、KDチャベス氏はこう警鐘を鳴らす。「このアクションプランはテック業界と石油業界が結託するきっかけを作るだけではなく、あらゆる規制のドアを完全に取り外し、地域社会が自分たちを守る権利さえ奪ってしまうだろう。AIの覇権獲得を口実に、企業は人権や環境を踏みにじってきた過去の過ちを繰り返しかねない。今われわれに必要なのは、規制緩和ではなく、企業や環境へのより厳格な監視体制だ」

AI技術の規制も削減

 連邦議会は先日成立させた税制・歳出法案から、州によるAI規制を一時凍結する内容を盛り込まなかった。しかしホワイトハウスは、今回のアクションプランを通じて引き続き規制緩和を推し進める姿勢だ。プランはこう宣言する──「AIは、連邦であれ州であれ、官僚的な手続きで息の根を止められるにはあまりにも重要だ」。

 こうした方針のもと、政府は複数の連邦機関に対し、すでに存在する規制や新たなルール案が、AI開発や普及を邪魔していないか検証するよう指示。また連邦政府が資金提供を判断する際には、「州がAIに対して友好的な規制環境を作っているかどうか」を重視すると明言した。さらに、連邦取引委員会(FTC)の調査や命令も再検討し、「AIの革新に重すぎる法的責任を押しつけるような規制」を排除するとまで踏み込んでいる。

 しかし、この大胆な規制緩和は、AIが引き起こす様々な問題から消費者を守るためのルールさえ破壊しかねないと、多くの専門家が警鐘を鳴らしている。

 消費者団体コンシューマー・リポートのジャスティン・ブルックマン氏は次のように指摘する。「企業はAI企業を含め、自らの製品が危険な用途に使われないよう、法的な責任を負っている。製品の設計や管理で危険性を高めるような選択をしたのなら、企業自身がそのリスクを負うべきだ」

イデオロギーと大規模言語モデル

 アクションプランは、「言論の自由」や「アメリカ的価値観を守る」名目で、連邦政府がこれまで進めてきた「多様性・公平性・包摂(DEI)」政策の巻き戻しを図る姿勢も示している。具体的には、NIST(国立標準技術研究所)のAIリスク管理指針から、「誤情報」や「気候変動」といった言葉を完全に排除することまで求めている。

 さらに連邦政府がAI開発企業と契約できる条件として、「トップダウン型のイデオロギー的偏向がなく、客観性が保たれたシステム」を提供することを義務付けるとした。

 トランプ政権はすでに、AnthropicやGoogle、OpenAI、xAIの4社に、それぞれ最大2億ドルという大型契約を打ち出している。しかし、このうちイーロン・マスク氏率いるxAIのAIモデル「Grok」は、最近、反ユダヤ主義的発言やヘイトスピーチを繰り返したことで世間の猛批判を浴びたばかりだ。

「AIに職を奪われる」への対処も

 プランは、AIが今後あらゆる業界・職業を根底から揺さぶると予告する。そして、労働者がこの変革期を乗り切れるよう、本気で支援する必要があるとしている。そのため労働省を中心に、「AI導入による雇用喪失のダメージを緩和する政策」を強化するよう勧告。労働統計局や国勢調査局、経済分析局は既存データを駆使し、AIが雇用に与える影響をリアルタイムでモニタリングする役割を担う。

 もっとも、具体的な労働者救済策は、「AIによって職を失った人々を他分野で再訓練する」ものが大半を占める。各州レベルの再就職支援策への連邦政府の後押しも盛り込まれた。また、AIの発展に不可欠なデータセンターや半導体工場の建設で需要が増える電気技師や空調技術者などの専門人材育成にも触れている。

 こうした労働力対策や教育現場でのAI活用推進に対し、テック業界団体のSIIA(ソフトウェア&情報産業協会)は、「AIが社会にもたらす恩恵をすべてのコミュニティに広げるための重要な一歩だ」と歓迎している。

政府自身もAIを積極活用へ

 今回の計画では、政府自体がAIをより積極的に活用するための構想も提言された。その一環として、AIに精通した職員を省庁間で柔軟に交換できる「人材交流プログラム」を立ち上げる。

 さらに一般調達局(GSA)は、政府全体が使えるAIモデルの「ツールボックス」を構築。あらゆる省庁の職員がAIツールを業務で活用できるよう、アクセスとトレーニングの提供を義務化するとしている。

 また、国防総省に対しては一段と踏み込んでおり、AIや自律型システム向けに「仮想試験場」を設置する計画を掲げた。実際にAI企業各社はすでに国防総省との契約を進め、軍事利用を目的としたAI開発を進めている。

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この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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