最新の研究が明らかにしたのは、職場でAIを活用する人には思わぬ「社会的コスト」が伴うという事実だ。しかし、対処法は存在する──。
世界中の企業経営者たちが「生成AIこそ未来を握る鍵だ」と声高に主張する。企業規模に関係なく、経営陣から発せられるメッセージは明白である。AIがあなたの仕事を完全に奪わないとしても、その仕事の中身を大幅に変えてしまうことは間違いない。
しかし、そこには予期せぬ落とし穴がある。実際に職場でAIを利用すると、同僚はもちろん、場合によっては上司までもが、あなたのことを「サボり気味の人間」だと見なす可能性があるのだ。さらに厄介なのは、そもそも採用の段階でそんな評価を下されてしまうことさえある点だ。こうした状況を裏付けるのが、米デューク大学の研究チームが今月学術誌『PNAS』で発表した最新の研究成果だ。
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研究チームは計4つの調査を通じ、職場でAIを使う人が抱える「他人から怠け者や無能だと思われるのでは?」という懸念が本当に正しいかどうかを検証した。その結果、研究を主導したデューク大学のジェシカ・ライフ氏はこう述べている。
「AIを使っていると表現された人々には、『能力が低い』『努力を怠っている』『怠けている』というイメージが共通してつきまといました。これは、AI以外の検索手段や補助を利用している人々とは明らかに異なるネガティブな社会評価です」
今回の研究は、AIを巡る華やかな期待と、現場で働く人々が感じるリアルな懸念──。その対比を鮮やかに描き出している。経営陣やAI企業が、AIによって多くの作業が自動化され、人間は純粋にクリエイティブな活動に集中できるという理想的な未来を語る一方で、実際にAIを活用する労働者は慎重かつ懐疑的だ。
米ピュー研究所が最近行った調査でも、「AIが仕事の進め方を良くすると考える」米国成人はわずか23%に過ぎない。このような懐疑的な態度が、AIを使っている同僚を見る際の厳しい評価に直結しているのだ。
デューク大学の研究チームはまず、従業員が仕事でAIツールを使っていることを周囲に打ち明ける際、どの程度ためらいを感じるのかを調べた。
最初に行った4つの調査のうちの一つでは、オンラインで集められた500人の参加者は、「生成系AIツールを使っている」と言った場合、通常のツールを使っているときよりも上司や同僚から「怠けている」「代わりはいくらでもいる」「能力が劣る」と思われるのではないかと強く懸念していることが分かった。
次の調査で、この不安が現実の評価に反映されることが明らかになった。研究チームは1215人の参加者に架空の従業員についての簡単な説明を読ませ、その人物が「どれだけ怠けているか」「能力や勤勉さ、自立心や野心があるか」「自信やリーダーシップがあるか」といった印象を評価してもらった。
説明の内容は、AIの支援を受けたケース(例えば、弁護士がAIツールで情報をまとめてもらう)や、非AIの支援(パラリーガルなど)を受けたケース、そして特に支援を受けていないケースに分かれていた。その結果、AIのサポートを受けていると説明された人は、他の2つのグループよりも「怠け者で能力が低い」「あまり勤勉ではない」「自立心や自信に欠ける」という、明確にネガティブな印象を抱かれていた。
AIを使う弁護士とパラリーガルに頼る弁護士のケースはほんの一例でしかない。実際、研究チームは職業やツールを変えた384種類ものシナリオを用意し、広く検証を行ったが、ほぼすべての職種において同じ傾向が確認されたという。「職業を問わず、AIの使用は否定的な評価につながるケースが多かった」と筆頭著者のジェシカ・ライフは指摘する。
続く3回目の調査では、1718人の参加者にマネージャーの役割を与え、ある業務のために候補者を選ばせる実験を行った。候補者の中には「日常的にAIを使う人」と「まったくAIを使わない人」がいた。またマネージャー自身のAIの使用頻度も尋ねたところ、普段からAIを積極的に使っているマネージャーはAIを使う候補者を好む傾向があった。一方、AIを使わないマネージャーは逆にAIを使わない候補者を評価した。
ただ、この3回目の調査では「その仕事にAIが本当に役立つかどうか」が明示されていなかったため、最後の4回目の調査では状況をさらに具体的に設定した。参加者には「ギグワーカー(短期雇用の労働者)を雇う」という状況を想定してもらい、AIまたは非AIツールを使う労働者が、肉体的な仕事とデジタルな仕事の両方でどのように評価されるかを検証した。
その結果、やはりAIツールを使う人は総じて「怠け者」という印象を与えやすかったが、評価者自身がAIを使っている場合や、仕事内容にAIが明らかに役立つと理解されている場合は、そのネガティブな印象が軽減された。
しかし、ネガティブな印象が薄れるからといって、AIユーザーが積極的にプラスの評価を得られるわけでもない。論文の共著者で、デューク大学の経営学教授であるリチャード・ラリック氏はこう説明している。「自らAIをよく使う人たちであっても、同じAIユーザーに対して特別な好意やプラスの印象を持つわけではありません。AIユーザーを見るときに“怠け者”というマイナス評価が消えるだけで、特別なプラスの評価が加わるわけではないのです」
2022年にChatGPTのような大規模言語モデルが登場して以来、経営コンサルタントや企業の幹部たちは「生成AIこそ次の大波だ」と声高に語り続けてきた。Google や Microsoft などが提供する業務用アプリには、毎日のように新しいAI機能やプロンプトが追加され、技術の成熟と実用例の増加によって、多くの企業で「AI=未来」という見方はいっそう強まっている。
実際、Shopify や Duolingo などは最近、「AI ファースト」を掲げ、採用の前にまずAIで業務がこなせるか検証する方針を打ち出した。とはいえ、CEOが「AIを最優先に」と命じるのは簡単でも、社内カルチャーや周囲の人々の意識を根本から変えるのはまったく別の話だ。
「生成AIのようなツールを現場で本格導入しようとすると、実際にはさまざまな“壁”が出てきます」とライフは指摘する。「今回示したのは、そうした課題のうちの一つに過ぎません」。テックに明るい企業を中心にAIスキルが重視されるほど、この“社会的コスト”はやがて薄れていくと彼女は見るが、「完全になくなるにはまだ時間がかかるでしょう」とも語る。
共著者のラリック氏によれば、たとえAIユーザーへの一般的な見方が変わっても、その“罰則”が消えるのは特定のタスクに限られる可能性が高い。「生成AIを使っても良いとされる仕事もあれば、そうでない仕事もある」というわけだ。
職場でAIを使っていることがバレたら評価を落とすかもしれない——。そう考えるなら、最もシンプルな回避策は「AIを使わない」ことかもしれない。実際、多くの人は「周囲からの評価が怖い」という理由で、AIの使用をためらっている可能性が高いことを研究チームの調査も裏付けている。
ラリック氏はこう説明する。「人がAIを使うかどうかを判断する際には、“周りがどう思うか”という自分の仮説が影響しています。その仮説が古いままだと、たとえ周囲がAIに対して肯定的になっても、自分はいつまでもAI利用を避けたり隠したりするでしょう」
また、怠け者だと思われないためには、「AIを使って浮いた時間でどれだけ別のことに集中し、成果をあげているか」をしっかりと伝えるのが有効だとライフは助言する。
ただし、AIを使う際の問題は「怠け者と見られる」ことだけではない。生成AIが作る仕事の質が疑われるケースもある。だからこそ、共著者でデューク大学教授のジャック・ソルは、「自分の仕事をしっかり確認し、人間ならではのスキルを発揮していることを周囲に示すべきだ」とアドバイスする。
「AIを使いこなすのには、きちんとした知識やスキルが必要なのだと周りが理解すれば、同僚や上司もあなたのAI活用を評価してくれるでしょう」とソルは結んだ。
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この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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