トランプ政権の関税強化策は、車やスマートフォンのような目に見える製品だけでなく、映画の制作や視聴にも大きな影響を及ぼす可能性が浮上している──。
トランプ政権が繊維からテクノロジー分野まで幅広く関税を課そうとする中、新たに映画業界がそのターゲットにされた。
日曜夜、ドナルド・トランプ大統領は自身のSNSに、「米国の映画産業は急速に衰退しつつある」と投稿。「外国で作られた映画については、すべて例外なく100%の関税を課す」と衝撃的な宣言をした。
ハワード・ラトニック商務長官もこの投稿を引用し、「迅速に対応する」と賛意を示したが、具体的な方針が示されなかったことで、業界には困惑が広がっている。
一体どこまでが「外国制作」にあたるのかという基準は曖昧なままだ。これから公開される作品だけが対象になるのか、それとも、既に上映され大ヒットを記録している『マインクラフト・ムービー』(ニュージランドで撮影)のような作品にも遡及が及ぶのか、不透明な部分が多い。また、ラトビアで制作されアカデミー賞を受賞したアニメ映画『Flow』のような、純然たる外国作品が打撃を受けることはほぼ確実だ。
トヨタのCM撮影現場で取材に応じた俳優兼映画監督のジェームズ・クアトロチ氏は、「昨晩から携帯が鳴り止まない。みんながこの話を聞いてくるが、『私はホワイトハウスじゃないから聞かれても困る』と返すしかない」と困惑しながら語った。
さらに問題は映画だけにとどまらない。『ハリウッド・レポーター』などの専門メディアは、NetflixやHuluなどの配信プラットフォームが、この関税導入によって視聴料金の値上げや提供コンテンツの大幅な見直しを迫られる可能性を指摘する。Netflixを例にとれば、韓国発の『イカゲーム』や、英国製の『ザ・クラウン』といった人気作品も対象となるのか、テレビシリーズはどう扱われるのかといった疑問は尽きない。
トランプ大統領は、外国政府が講じている映画製作誘致のための税制優遇について、「諸外国による組織的な攻勢であり、国家安全保障上の脅威」と主張。国際経済緊急事態権限法(IEEPA)に基づく関税措置は正当だとしている。一方で主張は法廷で激しく争われることになるだろう。
さらに、合衆国法典1702条には、映画や出版物といったメディアの輸出入規制を大統領が行うことを明確に禁止している条項も存在し、今回の関税案の合法性そのものにも疑問が残る。
エンターテインメント業界では、今回の関税案が実際に導入された場合の影響を慎重に見極めようとしている。映画業界専門メディア『The Wrap』によれば、ある専門家は「Netflixだけで年間30億ドルの追加コストとなり、利益がおよそ20%目減りする可能性がある」と試算した。
一方、独立系の映画制作者や現場スタッフの間では、米国内での制作を維持する難しさが指摘されている。もし海外での撮影に関税が課されれば、ロサンゼルス、オースティン、アトランタなど“映画の街”への回帰が促されるのではないかという期待もある。
映画関連の3つの労働組合に加盟するクアトロキ氏は、カリフォルニア州で映画を撮影する難しさをこう語る。「制作コストがとにかく高すぎる。頑張ってはいるが、実際にはイギリスやアイルランド、カナダなどに案件が流れてしまっている」
もし海外での制作に関税が導入されれば、ハリウッドのような国内拠点に仕事が戻る可能性がある。「現場では『仕事がない』という不満の声があちこちから聞こえる。多くの制作が国外に出てしまっているからだ」とも同氏は付け加えた。
クアトロキ氏は、今回の議論が「米国制作の苦境」を広く知ってもらう契機になることを願っている。「ロサンゼルスは、もはや“世界のエンタメの都”とは言い難い状況だ。この現実に目を向け、対策を講じるべき時だ」
映画制作者のデビッド・ワーサム・ブルックス氏は、2019年に自身の制作会社をディズニーに売却し、2023年に買い戻した人物だ。現在は、この関税案が外国映画やライセンス契約にどのような影響を及ぼすかを慎重に見極めている最中だという。
ブルックス氏はモロッコ、バングラデシュ、イングランドなどでの制作経験も豊富だが、主な拠点はロサンゼルスに置いてきた。米国内、特にハリウッドでの制作を取り戻すという点で、彼はトランプ氏の提案に肯定的だ。
「制作をロサンゼルスに呼び戻せるなら、どんな策でも歓迎だ」とブルックス氏は語る。「撮影を米国、とりわけハリウッドに戻すという話はとても魅力的だ。近年制作の動きが鈍っているだけに、現場を再び活性化できる取り組みなら何でも歓迎したい」
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この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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