米国の家計は長年の高金利に不満を募らせてきたが、ドナルド・トランプ大統領は就任時に「金利を下げる」と強く宣言した。先週は連邦準備制度理事会(FRB)に対し、「すぐに金利を下げるよう要求する」と公然と批判を口にした。
しかし、連邦公開市場委員会(FOMC)が今週水曜日に利下げを行う見込みはほとんどない。数カ月先までも、その可能性は低いとみられている。
米国の中央銀行であるFRBは昨年、インフレがやや落ち着いたと判断し、段階的に政策金利(フェデラルファンド金利)を引き下げてきた。しかし、いまはインフレ圧力の強まりや依然として堅調な労働市場など、不確定な要素が多く、すぐにもう一度利下げをする必要性は薄い。そのため、今回の会合で4回連続の利下げを決める可能性はきわめて低い。
トランプ氏は2026年に次のFRB議長を指名できるものの、金利を直接コントロールしたり、フェデラルファンド金利を引き下げたりする権限は持っていない。大統領は、住宅ローンやクレジットカード、事業融資などの金利を直接操作する力を与えられていないのが実情だ。
実際のところ、最大の決定要因は経済指標そのものだ。たとえばインフレが理想的な2%前後に抑えられたり、雇用情勢が大きく悪化したりすれば、FRBは利下げに踏み切るかもしれない。だが現状では、多くのエコノミストが「5月か6月までは利下げはない」と予測している。
では、金利とFRBをめぐってトランプ氏は何ができ、何ができないのかを整理してみよう。
金利の舵取りを担うのはFRBだ。具体的には、銀行同士が一晩だけ資金を融通する際の「フェデラルファンド金利」を設定しており、クレジットカードや住宅ローン、自動車ローンなどの金利にも大きな影響を与える。アメリカン・インスティチュート・フォー・エコノミック・リサーチのシニアエコノミスト、ピーター・C・アール氏によれば、FRBは「物価の安定と失業率の低水準維持」のために金利を上げ下げしているという。
仕組みを理解するうえでわかりやすいのは、COVID-19のパンデミック初期だ。2020年に経済が急落したとき、FRBは景気のテコ入れを狙って金利をゼロまで下げ、企業や個人が消費や投資をしやすい環境をつくろうとした。その後、経済が2年後に回復しインフレが急上昇すると、今度は物価上昇を抑えるために金利を上げる判断を下した。
FRBは1913年、連邦準備法によって議会が創設した。連邦準備法を修正してFRBの運営を変えられるのは議会だけで、大統領にはその権限がない。大統領に与えられているのはFRB議長や理事会メンバーを指名する人事権だ。
歴代の大統領は、自分の政策や経済観に近い人物を理事に選びたがるのが常だが、任期が互いにずれるよう設計されているため、一人の大統領がFRBを丸ごと作り替えることはできないと、ジョージ・ワシントン大学の政治学教授サラ・ビンダー氏は指摘している。
理屈の上では、トランプ氏が共和党支配の議会を通じ、連邦準備法の改正を求める可能性もある。だがビンダー氏によると、FRBのルールを変えるには上院で超党派の60票を確保する必要があり、容易ではないという。
政策の意見対立だけでFRB議長を解任する(不正行為や背任、重病など「正当な理由」がないとできない)
国全体、あるいは金融機関の金利を直接動かす
トランプ氏は2018年の最初の政権期に現FRB議長ジェローム・パウエル氏を指名したが、2年後には彼を「敵」と呼んだ。2023年11月、トランプ氏にFRB議長や理事を解任・降格する権限があるかと聞かれたパウエル氏は、「法律上できない」と明言している。
大統領が金利政策に不満でも、2026年までのパウエルの任期を途中で打ち切ることは不可能だ。アール氏によると、FRB理事会のメンバーを解任するには不正行為や背任、重病など「正当な理由」がなければならないからだ。
ただ、大統領には「公で批判する」「世論をあおる」という非公式の圧力手段が残されている。過去にも、景気が悪いときにFRBを公然と批判して動きを促そうとした大統領は存在する。実際、トランプ氏は2020年3月、経済がほぼ崩壊しかけた際にFRB議長の解任を示唆して圧力をかけた。2期目でも同じ手段を取る可能性は高い。
理屈のうえではFRBは独立機関だが、アール氏は「これほど重大な役割を担う機関が、政治から完全に切り離されるのは現実的に難しい」と指摘する。実際、FRBには長い任期や解任の難しさなど、外部からの影響を和らげる仕組みがあるため、政治家の気まぐれには左右されにくい。それでも結局のところ、政治のただ中で活動していることに変わりはない。
ジョージ・ワシントン大学のビンダー氏は「完全に密閉された環境で動いているわけではない」と述べている。
多くの専門家は、トランプ氏の大規模な経済政策が早期または大幅な利下げにつながる可能性は低いとみており、むしろ逆効果になるとの意見が目立つ。
たとえば、トランプ氏が掲げる輸入品への関税案はインフレを加速させやすく、FRBが追加の利上げに動くきっかけになりうると、経済政策研究センター(CEPR)のシニアエコノミスト、ディーン・ベイカー氏は警告している。
それに、トランプ氏の最大の影響力はその言動が引き起こす不透明感だ。突発的な発言や大統領令が何をもたらすのか、法的な抵抗があるのかどうかなどが読みにくいぶん、市場は過敏に反応しやすい。
FRBをコントロールしようとするトランプ氏の姿勢が実際に実行できるかは別にしても、それ自体が不安定要素を増やすだけだ。
この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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