tane(サルベジー)代表取締役の岡本雅世氏は、市場に出せない「はじかれ野菜」を活用した食品ロス削減事業を展開。農家支援や地域活性化に取り組み、クリエイティブな方法で課題解決を図る。
岡本氏は広告やWebデザインなどを手がけるデザイナーとして活動する中で、三島市の農家からECサイトの制作の要望を受けてデザインなどの打ち合わせをした際に破棄される山積みのほうれん草と遭遇する。
なぜこんなにもたくさんのほうれん草が捨てられてしまうのか。岡本氏は、収穫時期によって出荷できる規格内に収まる大きさの範囲を超えてしまうなど、なんらかの理由で市場に出せず、廃棄する野菜が数多くあることを知る。
「一軒でも驚くぐらいの量なのに、これが三島市中、そして連日破棄されるなんて、と驚いた」と振り返る。一方の農家側は、破棄することが日常だったため、「あの人、食べるってゴミ持って帰っちゃったよ」と岡本氏を珍しく思ったのだという。
もったいなさを感じつつも、飲食店を経営しているわけではないため大量に引き取ることは叶わない。また、ゴミと称しているものを「買う」と伝えることにも違和感があり、「どうしよう」と悩んだと振り返る。ヒアリングの際に、一次産品はプロモーションにお金がかけにくい事情があると感じていたため、“物々交換”を提案。若手農家で活動する「のうみんず」の写真撮影などを含むPR活動を岡本氏が引き受け、破棄予定の野菜と交換するという形でスタートする。
破棄予定や規格外となる野菜について“変わった形の野菜”のイメージを持つ人が多いが、実際に形が悪いものはごく一部。余分に育てているもの、まったく問題がなくても値段負けしてしまい、他の産地に買い手が流れたもの、昨今の猛暑など気候による急成長で出荷に手が回らず時期を逃しているものなどがあり、単純に規格外だけが原因ではない。そして、このことが知られておらず、手を打っていない状況が続いていることもわかったという。
また、岡本氏は自ら畑に行き生産者と話しをするなかで、生産者の体感として、作ったものの4割は破棄している感覚がある一方、それを惜しんだりなんとかしようとする間もなく次の生産に取りかからないといけない実情を指摘した。
単純に破棄予定や規格外の価値が落ちている野菜を、低価格で販売してもそこで完結してしまい、広がりが出ない。“B級品=ゴミや安物”というイメージを払拭するため、違うものと交換するという形で、おいしい食べ方を伝えるグルメイベントや加工品作り、バスケットを購入した上での“詰め放題”イベント、さらには観光やツアーといったことなど、販売以外の使い道を提示する取り組みを続けてきた。すると、規格外の野菜に関する相談が舞い込んでくるようになったという。
岡本氏のデザイナーとしての経験を生かし、いわゆる「見切り品」「ロス○○」「破棄○○」ではなく「はじかれちゃん」「はじかれ野菜」と名付け、“ポジティブなブランディング”に取り組んでいる。
市場に出ない野菜は、その場でしか食べられないという価値のあるもの。仕立て次第では価値を上げられると実感しているという。さらに加工品として、三島らしさのあるものを提供をしていきたい考えだ。
岡本氏は、プロジェクトにあたって第三者だからこそ気づいて、わかることがたくさんあったと語る。破棄する側も当たり前になっていて気づかない、消費者側はそれを見られないしまったく気づけないまま。「都内のシェフの方に素材を紹介すると、びっくりされたことがあった。『知らないと欲しがれない』と話されていたのが印象的で、知らせることがすごく大事ということを実感した」と語る。
静岡県の支援体制について、走り出しのところはサポートが手厚い一方で、販路などその先についても、さらなるサポートがあるとありがたいと話す。
静岡県としても、「アップサイクルされたものが売れないと、続けられないことは理解している」とし、たとえば間に入る問屋が中心になった商品開発、加工事業者や最終的に販売する小売店とつないで取り組める仕組みを作りたいという。
加えて、消費者に対してアップサイクルの取り組みを理解してもらうエデュケーションも必要だとし、岡本さんら民間と静岡県が組み、このような先進的な取り組みを行っていることをいろいろな手段を持って伝えていきたいと話した。
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