アップルは6月28日、空間コンピューティングデバイス「Vision Pro」を日本で発売した。価格は59万9880円だ。一般的な会社員ではなかなか手の届かない価格だが、IT分野を追う筆者としては無視できず、発売日に購入した。それから5カ月目に突入した現在の使用頻度を紹介する。
まず前提として、このレビューは筆者の場合だ。筆者は会社員として記事を書いたり、ライターから届いた原稿を編集したりしている。仕事でVRやARには携わってはいないし、映像クリエーターでもない。
購入時、筆者がVision Proに期待していたのは「Macのディスプレイ」という用途だ。Vision ProにはMacの画面をミラーリングして、仮想空間の巨大なディスプレイに表示する機能を備えている。
しかし結論から申すと、期待通りではなかった。写真や動画は驚くほど鮮明に表示されるが、文字に関してはピントが少しだけズレているように感じる。文字は読めるが、ピキッと表示されないのだ。例えるなら「長時間デスクワークをしていたら疲労でだんだんと目のピントが画面に合わなくなってくる」感覚に似ている。その感じがVRゴーグルをかぶって、Macの画面をミラーリングした瞬間にやってくるのだ。
このあたりは、片目4Kという解像度が不足しているのか、あるいはレンズの設計、ミラーリングの品質も影響しているのかもしれない。「狭い家でも仮想の大画面で快適PC作業」という夢は叶わなかった。
ということで、購入時の目論見はさっそく外れた。購入から2週間以内なら返品できるため返品を検討したが、ここで期限を1日過ぎてしまうという大失態も犯してしまった。ここで「Vision Proと付き合おう」と決心した。
体験として文句なしに優れているのは映像鑑賞だ。家の中で「映画館のスクリーンと同じか、それ以上に大画面かつ迫力ある映像を見られる」と表現しても、大げさではない。少し前に話題になった「地面師」もVision Proで全話鑑賞した。数話を連続視聴したが、目が疲れることはなかった。文字と違って映像や画像は本当に鮮明だ。
搭載するサウンドシステムにもかなり迫力がある。最近は1人でNetflixを鑑賞するときはほぼVision Proだ。唯一欠点を挙げるとすれば、リビングにある40インチ台のテレビが迫力不足に感じてしまった点だ。
また、iPhoneで撮影した空間ビデオもよくVision Proで再生している。筆者には5歳と3歳の子どもがいるが、公園や水族館、動物園など外に出かけるごとに空間ビデオで撮影し、夜に寝かしつけが終わったら見返している。
最近では上の子の誕生日に、ケーキのローソクを消すシーンを空間ビデオで撮影したが、いざ見返してみると、こうしたシーンを3Dで記録できるとは、磁気テープの家庭用ビデオカメラしかなかった筆者の子供時代と比べるとまさに隔世だ。
さらに、visionOS2では2Dで撮った写真をAIが分析し、3Dで表示できるようになった。この表示も結構リアルで、過去の思い出が蘇る。いずれ、2Dで撮影した映像もAIが3D補正してくれるようになるだろうし、3Dコンテンツの再生マシンとしては優秀なことに違いはない。
アプリに関しては、「出始めのプラットフォームに何を期待しているのか」というつっこみを受けるかもしれないが、あまり満足していない。ゲーム系のコンテンツもライトなものばかりで、アプリストアからダウンロードしたアプリはあまり使っていないのが実情だ。
買って良かったと問われると、直接の回答にはならないが、それなりに使い道はある。使用頻度は週に2〜3回程度で、主にNetflixや子どもの空間ビデオを見返す時だ。
ただ、60万円したため、その行為を正当化するためのバイアス、つまり「せっかく高い金を出したのだから使い倒そう」という感情もある気がする。明日からVision Proが無くなったところで、正直何も困らないだろう。Vision Proに全く触らなかった週もある。
買った目的は仕事の生産性を上げることだったが、現時点ではエンタメを楽しむデバイスに留まっている。
ただ、これまでとは隔世のデバイスであることは間違いない。最新テクノロジーが多用されていることは、使ってみればわかる。その凄みを実用性に変える「引き出し」を多く持つ人なら、使い倒せるのではないかと思う。
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