ソフトバンク「iPhone 16が36円」のカラクリ--禁止ならむしろAndroidに逆風

 携帯大手と総務省とのいたちごっこが続いている、スマートフォンの大幅値引きを巡る問題。大幅値引きが公正競争に悪影響を及ぼすとして総務省が法規制によって徹底した阻止を図る一方、消費者の関心が高いスマートフォンを大幅値引き販売してモバイル回線契約を増やす呼び水としたい携帯大手が、法の抜け穴を探して大幅値引きする新たな手法を編み出す…ということを幾度となく繰り返しているのが実情だ。

 そうした動きは2024年にも起きている。2023年末に電気通信事業法が一部改正され、いわゆる「1円スマホ」の値引き手法が禁止され、スマートフォンの大幅値引きは再び難しくなるかと思われた。だがその直後よりソフトバンクが新たな値引き手法を生み出し、形を変えて大幅値引きを継続している。

 それはスマートフォンを長期間の分割で購入し、一定期間後に返却することで残りの支払いが不要、あるいは安価になる、いわゆる「端末購入プログラム」を活用した値引き施策だ。

  1. 返却時期を早めることで激安価格を実現
  2. 総務省は買取予想額を規制して激安販売阻止に動く
  3. 禁止ならむしろAndroidに逆風のワケ

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返却時期を早めることで激安価格を実現

 従来の端末購入プログラムは、48カ月の分割払いで購入し、25カ月目以降に返却すると残りの支払いが免除されるというものが一般的だったが、ソフトバンクは返却時期をより早めて13カ月目で返却することにより、激安価格でスマートフォンを利用できる仕組みを編み出したのである。

 具体的な例として米アップルの「iPhone 16」(128GBモデル)を例に挙げてみよう。こちらのソフトバンクでの販売価格(以降、価格は全て税込)は14万5440円だが、端末購入プログラムの「新トクするサポート(プレミアム)」を適用すると、1~12カ月目の支払い額は3円、それ以降の支払い額は4039円となる。1年目と2年目以降とで支払い額に大きな差が生じる設定だ。

 13カ月目に返却して特典利用を申し込めば、3×12=36円で利用できてしまう計算となる。ただし特典を利用するには「早トクオプション利用料」(iPhone 16の場合1万9800円)を支払う必要があり、そのためには事前に「あんしん保証パックサービス」に加入している必要もある。

 iPhone 16(128GB)の場合、あんしん保証パックサービスの月額料金は1450円に設定されているので、その13ヵ月分の料金も加えると実際の支払額は36+1万9800+(1450×13)=3万8686円となる。10万円をはるかに超えるiPhone 16を、4万円弱で1年間利用できるのだからお得感が非常に高いことは間違いない。

 しかしなぜ、返却時期を1年に短くすると料金が安くなるのだろうか。そこに大きく影響しているのが買取価格だ。

 一般的に携帯各社は、端末購入プログラムで返却されたスマートフォンを中古市場に売却することで免除した支払い分を補っているが、スマートフォンの買取価格は新しい機種ほど高く、年数が経つごとに下がっていく傾向にある。2年後に返却されたスマートフォンよりも、1年後に返却されたスマートフォンの方が買い取り額は高いことから、買取価格が高いうちに返却してもらうことで支払額を減らしている訳だ。とはいえ端末が壊れるなどして価値が下がり、買取額が下がってしまうことはリスクとなり得るので、13カ月目で返却する際にはあんしん保証パックサービスの契約を必須としているのだろう。

 ただ、現在の電気通信事業法で、ソフトバンクをはじめとした規制対象となる通信事業者が端末値引きをできる金額は、価格が4万4000円以下の場合は2万2000円まで、4万4000円から8万8000円の場合はその50%、8万8000円以上の場合は4万4000円となっている。端末購入プログラムで免除できる金額の上限もこの規制を受け、値引き上限額と買取予想額の合計を超えた額を免除することはできない。

 新トクするサポート(プレミアム)での値引きもこの規制を守る形で実現している。実際iPhone 16(128GBモデル)を例に挙げると、先にも触れたようにソフトバンクでの販売価格は14万5440円、13ヵ月目の買取予想価格は9万9627円。その差分は4万5813円となることから規制に抵触してしまうが、ここから早トクオプション利用料を差し引くと2万6013円となり、4万4000円を下回るため規制には抵触していないことが分かる。

総務省は買取予想額を規制して激安販売阻止に動く

 だが、こうした値引き手法に総務省も黙ってはいなかったようだ。実際に総務省は10月11日、「電気通信事業法第27条の3等の運用に関するガイドライン」の改正案を提示。執筆時点では意見を募集している最中である。

 このガイドライン改正で最も主だった変更となるのが、端末購入プログラムに関する新たな規制だ。より具体的に言えば端末の買取予想価格を厳格化したのである。

 実はこれまで、端末購入プログラムにおける端末の買取予想価格設定に関しては特に規制がなく、携帯各社が独自に設定することができた。携帯大手は買取予想価格をあえて高く見積もり、値引き額を増やして激安価格を実現しているのではないかと、問題視する声が以前より総務省の有識者会議でも挙がっていたのである。

 そこで先の改正案では、「端末の販売価格×残価率×その他考慮事項」という具体的な買取予想額の算出方法が提示されているのだが、ここで大きなポイントとなるのは残価率だ。改正案によると、残価率の算出方法は「発売からnか月目の買取平均額÷各電気通信事業者における販売当初の販売価格」となっており、これを用いて販売1ヵ月目から48ヵ月目までの残価率をそれぞれ算出することとされている。

 なお、残価率の計算に用いる買取平均額は、リユースモバイル・ジャパンのウェブサイトに公表されている買取平均額を使用することとされているが、発売前のスマートフォンは買取平均額が存在せず、残価率を計算できない。改正案ではその場合「最新の先行同型機種の残価率を参照する」とされていることから、例えば今後「iPhone 17(仮)」というべき機種が登場した場合、リユースモバイル・ジャパンにおける現在のiPhone 16の残価率を参考にして残価率を設定するものと想定される。

 そうしたことからこの改正案が通過した場合、高めに設定されていることが多いとされる携帯各社の買取予想額は下げざるを得なくなり、端末購入プログラムを活用した激安販売は難しくなるものと考えられる。とりわけこの影響を大きく受けるのは、端末購入プログラムを活用した大幅値引きに力を入れてきたソフトバンクと見られているのだが、先にも触れたように総務省の有識者会議では、他社も買取予想額が相場より明らかに高く設定しているとの声が出ていただけに、少なからず影響を受けるのは間違いない。

禁止ならリセールバリューの低いAndroidに逆風

 だがこのことは、リユースモバイル・ジャパンの指標が基準となることからよりリセールバリューの高いスマートフォン、より具体的に言えばiPhoneは値引きがしやすくなる一方、他のスマートフォンは値引きがしづらくなることにもつながってくる。

 消費者目線からすると、一連の改正は再びスマートフォンを安く購入する機会が失われるというだけでなく、Androidスマートフォンメーカーの淘汰を進め“iPhone一強”がより進行し、総務省がうたう「低廉で多様な端末」の選択肢を一層減少させることにもつながりかねないことが非常に気がかりだ。

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