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パリ五輪でなぜ誹謗中傷問題が続くのか--法改正で開示請求容易に、1年以下の懲役等も

 東京五輪でも問題になった誹謗中傷が、パリ五輪でも止まらない。なぜ続き、私たちはどうすればいいのだろうか。

  1. 相次ぐ誹謗中傷、選手からの訴えも
  2. 誹謗中傷は罪に問われる行為
  3. 一度保存して見直してから投稿を

相次ぐ誹謗中傷、選手からの訴えも

 競歩団体の柳井絢音選手は、女子20キロ競歩と混合競歩リレーの2種目にエントリーしていた。混合競歩リレーに専念するため女子20キロ競歩の出場を辞退すると発表したところ、「身勝手」などの誹謗中傷が相次ぐことに。柳井選手は「X」(旧Twitter)に「今回の20kmWの辞退の件ですが、たくさんの方から厳しい言葉に傷つきました。」と投稿した。

 柔道男子60kg級の永山竜樹選手は、準々決勝で「待て」後の絞め技で失神、一本負けしてしまった。疑惑の残る判定だったことから、対戦相手のフランシスコ・ガリゴス選手には誹謗中傷が殺到することに。永山選手は「お互い必死に戦った結果なので、ガリゴス選手への誹謗中傷などは控えて頂きたいです」と自身のXで訴えた。

 8強に進んだバレーボール男子代表もターゲットになった。強豪イタリアと対戦し、2セット連取したものの、2―3で逆転負け。その結果、最終の第5セットでサーブミスをした小野寺太志選手など、さまざまな選手に誹謗中傷が送られた。

 西田有志選手はスタッフ公式Xのアカウントで、「自分の大事な友人や、家族や子供が一生懸命に何かに挑戦し、涙を流し汗を流し、それでも届かなかった時に同じことを僕は言わないようにしたいです!!人は挑戦することの大事さを尊さを忘れてはいけないと思います!!」と投稿した。

 そのほかにも、誹謗中傷に対して苦言を述べている選手は多い。負けた場合には責任を問う誹謗中傷の言葉が送られ、態度が気に食わないといってはまた誹謗中傷される。あまりにひどい言葉ばかりで、選手が心配になる。

誹謗中傷は罪に問われる行為

 なぜ誹謗中傷が増えてしまうのだろうか。

 まず、匿名で気軽に書き込めることは大きい。そもそも、匿名だと攻撃性が高まる傾向にある。鬱憤(うっぷん)ばらしに誹謗中傷を投稿する人が多いこともわかっている。選手に問題があるのではなく、単に攻撃しやすい対象だから攻撃されてしまっている可能性が高いのだ。

 また、著名人の場合は一対多の構造となり、一人に対して多くの誹謗中傷が集まりやすく、受け手側にはダメージが大きくなりがちだ。選手自身の問題ではなく、目立つがゆえに攻撃の対象として選ばれやすく、一人一人からの誹謗中傷が集まり大きなダメージが与えられてしまうのだ。

 SNSで誹謗中傷を見かけるうちに、「みんなも書いているから大丈夫」「匿名だから問題ないだろう」という心理が働き、次々と投稿を続ける人も多い。

 しかし、ネットでの匿名は完全な匿名ではなく、法改正(現情報流通プラットフォーム対処法)によって開示請求は容易かつスピーディにできるようになっている。誹謗中傷は、名誉毀損罪や侮辱罪などの罪に問われる行為だ。たとえば侮辱罪も、1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料という重い罪に問われるようになっている。

 人が亡くなったりしてからでは遅い。攻撃側は気軽な気持ちで書き込んでいても、受け手側はひどく傷つき、消耗させられる。決して気軽な気持ちで投稿すべきではないし、シェアなどもすべきではないのだ。

一度保存して見直してから投稿を

 JOC(日本オリンピック委員会)は、「第33回オリンピック競技大会(2024/パリ)TEAM JAPANからのメッセージの掲出について」という声明を出している。声明では、誹謗中傷を拡散せずSNS等での投稿に際してマナーを守ることを要請、侮辱、脅迫などの行き過ぎた内容に対しては、警察への通報や法的措置も検討するとしている。

 パリ五輪では、日本スポーツ振興センターが選手村の近くに設けた施設に専門家にメンタル面の相談ができる心理相談室が用意されている。また、国際オリンピック委員会(IOC)は、初めて人工知能(AI)を活用した監視を進めている。しかし、まだ対策は十分とはいえないようだ。

 英語版のXでは、有害・侮辱的なリプライをしようとした場合、本当にそれを送るか考え直すよう促す機能を搭載し、効果をあげている。投稿の結果を想像でき、投稿前に冷静になれれば、投稿しないで済む可能性があるのだ。

 五輪を見て感想を抱くのは自由だ。しかし、SNSでの誹謗中傷は自由の範疇を超えており、選手の心や命さえも脅かしかねない行為だ。脊髄反射で投稿するのではなく、一度保存して冷静に見返してから、実際に投稿するかどうか判断するといいだろう。また誹謗中傷のシェアも誹謗中傷となるので、見かけてもスルーするか通報して削除を促すのがいいのではないだろうか。

高橋暁子

ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。

公式サイト:https://www.akiakatsuki.com/

Twitter:@akiakatsuki

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