今週開催された「WWDC24」の基調講演でAppleが「AI」と言った回数は、米CNETの調査によるとわずか3回。一方、5月に開催された「Google I/O」の基調講演で、Googleが「AI」と言った回数は120回を超えた。これは、Appleが今後「iPhone」や「iPad」、「Mac」向けに展開しようとしている機械学習機能を、NVIDIAやMicrosoftの株価を急騰させている「AI」という言葉と関連づけられたくないと考えていることを示している。
「AI」の代わりに、Appleが巧みに売り込もうとしているのが「Apple Intelligence」というキーワードだ。AppleがWWDCの基調講演で発表した新機能のうち、AIを利用したメールの校正、音声の文字起こし、画像編集といった機能は、すでに「Windows」や、Googleおよびサムスンのデバイスでは利用できる。しかしAppleは生成AIに独自のひねりを加え、「Android」にはない機能も発表した。オンデバイスで画像を生成できる「Genmoji」は、その一例だ。では、なぜAppleはGoogleやサムスン、Microsoftほど頻繁に「AI」と言わないのだろうか。
考えられる理由の1つは、熱心なAppleユーザーの存在だ。
「Appleの控えめで慎重なアプローチは、同社がすでに十分な数のユーザーを囲い込んでおり、多少の余裕があるという事実によるものだ」と指摘するのは、サンタクララ大学リービースクール・オブ・ビジネスの情報システム学教授Andy Tsay氏だ。同氏は長年、授業でAppleを取り上げてきた。
他の大手テクノロジー企業と比べて、Appleの顧客層はスティッキネス(定着度)が高く、他社の製品やプラットフォームに乗り換えたがらない。これはAppleが意図的にしかけたものでもある。例えばAppleは「iMessage」でのやりとりに制約を加えることで、iPhoneユーザーの排他性を高めている。使いやすさに対する徹底したこだわりも、デバイスのカスタマイズに時間をかけたくない人には、Appleプラットフォームの大きな魅力だ。
AppleはAIの導入を大々的にアピールする必要がない。その代わりに「Apple Intelligence」を、Appleらしい機能を支える技術と位置づけることができる。このアプローチは、生成AIをめぐる懸念を回避するためにも役立つかもしれない。例えば、画像生成機能に制限を加えれば、10代の学生が同級生のヌードをディープフェイクするといった悪用を回避できる。
もちろん、Appleは競合他社より何カ月も遅れて、やっとAI機能を発表したという事実をごまかしているだけだ、と主張する人々もいる。
「悲観的な見方をすれば、Appleは対応が遅い」とTsay氏は言う。「しかし楽観的な見方をすれば、Appleは思慮深く、時間をかけて慎重に取り組むことで、新しい機能が顧客の問題を解決できるか、正しく機能するかを念入りに確認しているのだ、と捉えることもできる」
Appleにコメントを求めたが、回答は得られなかった。
GoogleのAIは、すでに有色人種のナチス兵士の画像を生成したり、ピザに接着剤を入れるよう助言したりなど、深刻な誤回答をくりかえしている。こうした失態は、GoogleがOpenAIやMicrosoftといった先行企業に水をあけられまいと、独自のAI「Gemini」を焦って市場に投入した結果だと批評家は指摘する。
しかし、同じような焦りはAppleからは感じられない。Appleには、普通に使えさえすればApple製品に高い金額を支払うことをいとわない顧客基盤がある。「市場の王者は、必ずしも全力で挑む必要はない、ということだ」と、Tsay氏は言う。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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