テクノロジーを活用して、ビジネスを加速させているプロジェクトや企業の新規事業にフォーカスを当て、ビジネスに役立つ情報をお届けする連載「BTW(Business Transformation Wave)」。スペックホルダー 代表取締役社長である大野泰敬氏が、最新ビジネステクノロジーで課題解決に取り組む企業、人、サービスを紹介する。
今回ゲストとしてご登場いただいたのは、ソフトバンク 法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部 第一ビジネスエンジニアリング統括部 オペレーションデザイン事業推進部 部長の松山誠氏。共創パートナーと共に社会課題に対峙するDX本部が、身近にある自動販売機にスポットをあて、その課題を解決するDXサービス「Vendy」を生み出した背景について聞いた。
大野氏:ソフトバンクが自動販売機業界向けのDXサービスに参入された経緯から教えていただけますか。
松山氏:私たちが所属するデジタルトランスフォーメーション本部は、2017年10月に立ち上がりました。共創パートナーと共に新規事業を立ち上げることを命題としており、さらに社会課題に対峙するという大きな目標を掲げています。社会課題解決を考えた時に、ソフトバンクとしてどういった業界にお役立ちできるかを模索していく中で、身近にある自動販売機に着目したのがVendyのきっかけです。
自動販売機は私たちのオフィスにもありますし、スタッフの方が補充してくださる姿もよく目にしていました。そこで、飲料向けの自動販売機を製造している富士電機にお話をお伺いしたところ、人手不足、長時間労働、さらには廃棄ロスといった課題があることを知りました。その解決にお役立ちできないかと参入を決めました。
大野氏:デジタルトランスフォーメーション本部立ち上げの時から取り組んでいたと。
松山氏:立ち上げ時はいろいろな業界の課題を分析し、何かできることはないかと検討していましたので、本部の設立と同時に動き出したわけではありませんでした。正確には2019年の年初にスタートしています。
大野氏:実際、自動販売機は国内にどの程度、流通しているのでしょうか。
松山氏:飲料を販売している自動販売機は225~230万台程度と言われています。無人で運営ができ、商品をすぐに購入できる。これは治安が良い場所でないと成り立たないビジネスなので、海外に比べ、日本の設置数はかなり多いと聞いています。
大野氏:国内に数多くある飲料向け自動販売機のDXサービスVendyですが、どういったサービスになりますか。
松山氏:自動販売機に通信機器をつけて、自動販売機のデータをオンラインで取得できるようにした上で、取得したデータをAIで分析し、商品ラインアップや補充ルートの最適化などを提案できるのがVendyです。自動販売機に付ける通信機器は、富士電機が製造し、通信部分にはソフトバンクのSIMを使用しています。
大野氏:自動販売機がオンラインになるとどういったことができますか。
松山氏:今何本の商品が残っているなど、自動販売機の状態がリアルタイムでわかりますし、遠隔から、値段を変更したり、ホットとコールドを切り替えたりもできます。
大野氏:遠隔で操作できるのはすごいですね。取得したデータはどのように活用しているのでしょう。
松山氏:過去の売上や在庫情報、巡回に伴う人件費や物流費などを分析し、最適な巡回計画や棚割りなどを自動で生成する「AI分析機能」として提供しています。開発時にキリンビバレッジのグループ会社が運営する自動販売機を対象に事前検証をさせていただいたのですが、その時にVendyを導入することで、業務時間を10%削減し、売り上げを5%増加できる見込みがあることがわかりました。
大野氏:Vendyの開発はどのような形で実施したのですか。
松山氏:ソフトバンクの社員が自動販売機を巡回・補充するトラックに同乗し、実際の業務を体験させていただきました。その中で見えてきたのは、自動販売機ごとの棚割りや補充数、巡回計画などは担当者の個人の経験と勘に頼る部分が多いということ。かなり属人的になっていました。
Vendyでは、売り上げや在庫情報、巡回コストなどの情報を基に、AIが補充本数や最適化されたルートを自動で導き出してくれます。一方、巡回ルート作成は本当に奥が深く、オーナーごとに曜日や時間帯の指定があったり、現場によっては「この商品は必ず入れて」といった個別のオーダーも出てきたりします。
そこで、こうした細かなニーズまで踏まえて、実際の現場に即した、本当に最適化された分析結果をアウトプットできるようにしています。
大野氏:すでに、キリンビバレッジのグループ会社が運営する自動販売機のオペレーションに導入されているとのことですが、富士電機以外のメーカーにも提供できますか。
松山氏:はい。海外での使用も想定し、あらゆる自動販売機に対応できるようにしています。基本的に自動販売機に通信機を取り付けていただければ使用でき、取り付け自体は巡回しているスタッフの方が簡単にできるようになっています。
機器を取り付けたタイミングで、自動販売機に入っている初期値の在庫を入力する必要がありますが、一度入力してしまえば、売れたタイミングで在庫が減っていくので、在庫が見えるようになります。
大野氏:使われている技術自体は目新しいものではなく、既存ベンダーでもできたのではないかと思います。
松山氏:通信機器を付けてオンライン化された自動販売機はすでにありますが、Vendyの強みは、通信機器に加えて、上がってきたデータをAIで分析しアウトプットする機能までワンストップで提供する点にあります。アナログで回していた作業を最新の形にしていこうと取り組みました。AIがこういった飲料メーカーの方にも広く使っていただけるような技術になったのかなと感じています。
大野氏:働き手も少なくなってきていますし、物流のさまざまな問題があるなかで、効率化は重要ですよね。人手の確保も難しくなり、こういった取り組みへの需要が高まっているという感じでしょうか。
松山氏:まさにおっしゃるとおりで、物流業界の働き手不足は深刻です。飲料メーカーのみならず、宅配など、物流業界は人手不足に頭を悩ませているとお伺いしています。
大野氏:すでに導入を決定されているキリンビバレッジの反応はいかがですか。
松山氏:「こういうのが欲しかった」というご意見をいただくなど、かなり期待値を持っていただいているようです。Vendyに関しては、数年かけて取り組んできた事業ですし、DX本部内でも飲料系自動販売機のビジネスへの理解が深まってきている。実証実験も終え、導入も決まる中で、期待値以上のものを提供していければと思っています。
大野氏:今後のビジネス展開をどのように考えていらっしゃいますか。
松山氏:巡回ルートの最適化などで業務の効率化に寄与すると共に、Vendyは廃棄ロスの削減にもつながります。飲料にも賞味期限があり、特に温かいものは期限を過ぎると味が濃くなってしまったり、渋みが出てしまったりと劣化しやすい。売り上げを見ながら補充の本数をコントロールできれば廃棄ロスの削減につなげられます。今後、幅広い自動販売機にVendyを展開し人手不足や廃棄ロスなどの業界の課題解決に貢献していきたいです。
大野泰敬氏
スペックホルダー 代表取締役社長
朝日インタラクティブ 戦略アドバイザー
事業家兼投資家。ソフトバンクで新規事業などを担当した後、CCCで新規事業に従事。2008年にソフトバンクに復帰し、当時日本初上陸のiPhoneのマーケティングを担当。独立後は、企業の事業戦略、戦術策定、M&A、資金調達などを手がけ、大手企業14社をサポート。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会ITアドバイザー、農林水産省農林水産研究所客員研究員のほか、省庁、自治体などの外部コンサルタントとしても活躍する。著書は「ひとり会社で6億稼ぐ仕事術」「予算獲得率100%の企画のプロが教える必ず通る資料作成」など。
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