テクノロジーを活用して、ビジネスを加速させているプロジェクトや企業の新規事業にフォーカスを当て、ビジネスに役立つ情報をお届けする連載「BTW(Business Transformation Wave)」。スペックホルダー 代表取締役社長である大野泰敬氏が、最新ビジネステクノロジーで課題解決に取り組む企業、人、サービスを紹介する。
今回ゲストとしてご登場いただいたのは、ソフトバンクロボティクス ロジスティクス事業統括 ロジスティクス事業本部 事業推進統括部 事業開発部部長の岡六月氏とソフトバンク 法人統括 法人プロダクト&事業戦略本部 法人ビジネス推進第2統括部 IoT・新事業推進部 事業企画推進課の新屋將氏。両社が倉庫や工場の働き手不足解消のために手掛ける取り組みについて聞いた。
大野氏:ソフトバンクロボティクスのロジスティクス事業本部の事業内容について教えて下さい。
岡氏:ソフトバンクロボティクスは、ロボット関連の技術やプロダクトをグローバルに展開しています。有名なところですと、2024年に誕生から10年を迎えた人型ロボット「Pepper」などがあります。
このほかにも、清掃ロボット「Whiz」や配膳・運搬ロボット「Servi」などを提供しており、ソフトバンクロボティクスとしてプロダクトやマーケットを作りながら、当社グループの投資先だけでなく、ソフトバンクグループやソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先の持つ技術などをいかしロボット事業を展開しています。その中で、今大きなテーマの1つになっているのが物流です。
大野氏:物流事業として現在どのような企業とパートナーシップを組んでいますか。
岡氏:パレットの取り扱いを無人化する自動運転フォークリフトを提供するフランスの「BALYO」、ロボットの走行ルートやパレットの最適化によって効率化された自動倉庫システムを構築する米国の「Symbotic」、世界最高レベルの保管効率を持つ高密度自動倉庫システムを提供するノルウェーの「AutoStore」などの企業と連携しています。ただ、荷下ろしから荷積みまで、物流センターや工場の物流業務で必要なことすべてはこれらのソリューションだけでは解決できないので、ほかの企業のソリューションとも適宜組み合わせて倉庫全体を最適化できるようなご提案をしています。
現在注力しているのはAutoStoreです。これは棚入れ、保管、ピッキングの3つを効率化するもので、人手不足の観点でも改善が見込めると考えています。
ただ、実作業としては、どうしても人が介在する場所がでてきてしまう。そこに対しては、Berkshire Greyのロボットアームを組み合わせてすべての工程で自動化し、「無人ですべての運営ができる倉庫」を目指しています。
大野氏:棚入れから保管、ピッキングなどの作業は、今まで人の手でないとできない部分だったのでしょうか。
岡氏:そうですね。ただ、棚入れ、保管、ピッキングの生産性が爆発的に上がっても、その前後の工程で生産性が低いと、倉庫全体の生産性は一番低いところに合ってしまうので、それをカバーするために、なるべく段階を踏みながら、自動化、さらには無人化を目指しているのが現状になります。
大野氏:AutoStoreは、保管効率が最大4倍に増えるとのことですが。
岡氏:従来の保管場所は棚と棚の間に人が行き来する通路が必要でした。AutoStoreは、その通路幅をなくせること、加えて高さを有効利用できることから、最大4倍の保管場所を確保できます。保管効率からみれば、現時点で最大だと考えています。
大野氏:ほかの自動倉庫システムと比較してかなりメリットがあると。
岡氏:AutoStoreは「ビン」と呼ばれるボックスに物を保管しているのですが、この底面のサイズが約60cm×40cmで、保管できるものの大きさに限界があります。一方、多品種少量の商品や部品を取り扱う倉庫には最適なソリューションです。
大野氏:AutoStoreの導入に当たっては物流拠点の改修など、かなりの事前準備が必要になりますか。
岡氏:既存倉庫に入れるとなると、工事期間中は場所を開けておく必要がありますが、6対4で、既存倉庫に導入するケースも多いです。導入発注から運用開始までは大体10カ月半程度。通常の自動倉庫関連の装置に比べるとそれほど時間がかかるという印象はありません。
大野氏:AutoStoreにスマートグラスなどを組み合わせるとより作業効率が上がりそうですね。
岡氏:ビンの中には複数の商品が入っているケースもあるのですが、その時にスマートグラスにピックアップすべき商品を表示できたり、ピックすべき個数などがわかったりするとより作業効率は上ると思います。海外では既に導入されているケースもあり、実際にテストもしてみたのですが、可能性はかなりあると感じています。
大野氏:効率アップに伴い、使用するエネルギーも実際少なくなっていますか。
岡氏:電力消費量はロボット10台で掃除機1台分程度です。人力でオペレーションしている倉庫と比べて、照明や空調がいらないこともあり、省エネには結びついています。
新屋氏:AutoStoreに関しては、ビンを下げる際の重力をエネルギーに転換して再利用しているので、電気と重力のハイブリッドで動いています。1台のロボットを動かすのに大体100ワット程度を使用していて、省電力を意識した設計になっていますし、密度もあがるのでファシリティ的なエネルギーも削減できます
大野氏:AutoStoreのような最先端の装置を使っている物流拠点はまだ日本では少ないのでしょうか。
岡氏:人手が介在しているところは多いですが、自動化が進んでいる拠点もかなり増えてきました。どれを選択すればわからないという困りごともあるかなと思っています。
大野氏:実際どのように選んでいけばよいのでしょう。
岡氏:ソフトバンクロボティクスの強みは、自分たちで実際に物流センターを運営した経験からの現場感です。ソフトバンクと聞くと、携帯電話キャリアを思い浮かべる方が多いと思いますが、我々はグループ内の企業でEC系の物流業を実際に行っていた経験値がある。
実際に工場や倉庫内に自動化装置をレイアウトする時は、作業導線や柱、作業効率を考慮したレイアウトするといった、現場の作業を加味しながら作っていきます。それも私たちの強みだと思っています。
大野氏:新規導入に関しては、かなり大きな金額になりそうですね。
岡氏:数億単位になりますので、かなりの投資にはなります。その中で物流にそこまで投資しないという考え方もあると思うのですが、AutoStoreのように投資対効果が非常に高い設備もでていますので、ぜひ検討をいただきたいと思っています。金額的なハードルを越えるためにもアセットを持たないような、資産計上しないようなご提案などもさせていただいています。
大野氏:AIなどによってより効率化が進みますか。
新屋氏:AutoStoreに限っていえば、ビンを縦に積み重ねていくので、一番下のものを取るのに時間がかかります。一方で、高度なアルゴリズムでロボットの動きが制御されており、高速化・効率化を実現しています。
大野氏:倉庫がこれだけ自動化できる装置となると、工場などの自動化にも結び付けられそうですが。
岡氏:私たちも物流に限定しているわけではなくて、工場などへの提案ももちろんしています。日本では3~4割程度が製造現場に導入されています。製造現場では、在庫が増えたことにより、保管スペースにお悩みを抱えているとよく伺います。通路をつぶさざるを得ないなどの対応をされているところもあるほどです。
そういった現場に導入いただくとスペース効率も高まりますし、トラブルが起こった時にも格納場所を限定できますので、対応処理も早まると考えています。海外の事例になりますが、ショッピングセンターなどにも導入されていますので、製造や物流現場にあまりこだわらず、導入事例を増やしていきたいと考えています。
大野泰敬氏
スペックホルダー 代表取締役社長
朝日インタラクティブ 戦略アドバイザー
事業家兼投資家。ソフトバンクで新規事業などを担当した後、CCCで新規事業に従事。2008年にソフトバンクに復帰し、当時日本初上陸のiPhoneのマーケティングを担当。独立後は、企業の事業戦略、戦術策定、M&A、資金調達などを手がけ、大手企業14社をサポート。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会ITアドバイザー、農林水産省農林水産研究所客員研究員のほか、省庁、自治体などの外部コンサルタントとしても活躍する。著書は「ひとり会社で6億稼ぐ仕事術」「予算獲得率100%の企画のプロが教える必ず通る資料作成」など。
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