パナソニック ホールディングスは5月17日、「グループCEOによるグループ戦略説明会」を開催した。パナソニック ホールディングス グループCEOの楠見雄規氏が登壇し、中期戦略の最終年度を迎え、パナソニックグループで取り組むことなどについて話した。
2022~2024年度の累積営業キャッシュフロー2兆円、ROE(自己資本利益率)10%以上、累積営業利益1兆5000億円と掲げた、経営指標 (KGI)については「累積営業キャッシュフローは達成の見込みだが、ROEと累積営業利益は未達となる見込み。キャッシュフロー重視の経営は定着したものの、各事業が当初の想定通りには収益力をつけられなかったと言わざるを得ない」と総括した。
なかでも投資領域と位置づける車載電池と、空質空調の欧州「Air To Water (A2W)」については「想定外の市場変化によって目標に対し大幅な未達となった」とコメント。さらに「収益を支えることを期待した一部事業では、目指していた競争力の獲得に至れなかったことが大きな課題。危機的状況と認識している」と続けた。
中期最終年度に注力するグループの取り組みとして打ち出したのは「投資領域の事業基盤強化」「事業ポートフォリオマネジメント(PFM)・財務戦略」「グループの体質強化」の3つ。
1つ目の投資領域の事業基盤強化については「車載電池と空質空調の市場成長速度は想定より遅れているが、将来的に成長が見込めることには変わりはない。投資時期や金額は市場や顧客の動向に合わせて柔軟に判断するが、競争力の強化という意味では一層加速していく。サプライチェンマネージメントのソフトウェアは、現在推進している『BlueYonder』の改革を着実に遂行し、革新、飛躍に向けた仕込みを完成する」とした。
車載電池については、北米のEV市場成長の減速において「車両コストの大きな割合を占めるバッテリーのコストが普及価格帯のクルマに見合うレベルで実現できていない。バッテリーの供給インフラ、つまり充電ステーションの整備が追いついていない。加えて、米国の環境保護庁が温室効果ガスの排出基準値を緩和したことなどが要因」とコメント。
今後については「パナソニックが強みとしているニッケル系の円筒形電池は、より航続距離の長さが求められるモデルで採用が進むと見ている。大きな市場変化の中で、強固な競争基盤構築に向け、スバル、マツダとの戦略的パートナーシップ確立。大阪の工場を中心に日本国内の工場を事業展開し、生産量拡大を進めようと考えている」と話した。
急激に市場が変化したA2Wについては「ガスの価格高騰が落ち着き、補助金施策の見直し、欧州の景気悪化を受け、市場は低迷している。当初想定したほどの成長は見せていない状況だが、気候変動を含む地球の環境問題の解決は避けては通れない。中長期的には需要拡大へと転換すると見込んでいる」と長期的な施策として取り組む。
「まだ圧倒的なプレーヤーが存在していないこの領域でパナソニックのポジションを確実に優位なものにしていきたい。この市場ではインスト―ラーがおすすめする商品であることが非常に重要。エネルギープロバイダー、ユーティリティ企業と共同で、インストーラーの方との取引機会を増やしながら、業務効率化やサブスクリプションモデルなどを提供していきたい」とシェア拡大を図る施策を話した。
2つ目事業ポートフォリオマネジメント・財務戦略では「各事業の競争力を成長性と投下資本収益性により厳格管理する規律を設け、課題事業を一掃する。グループとして株主の期待に添える強固な収益基盤の構築を目指す」とした。
課題事業については「市場の影響を受けているもの、コスト力の改革が遅れているもの、事業構造そのものが厳しいものといくつかある。中国市場の影響を受けているということだとファクトリーオートメーション関連事業がそれに当たるし、コスト力の改革が遅れているものではくらしアプライアンス社や空質空調の事業、業界全体が苦しいということになるとテレビ事業などが該当する」と見解を示した。
Apolloとのパートナー契約に最終合意したパナソニック オートモーティブシステムズを例に挙げ、「自動車業界は100年に1度の大変革期にある。オートモーティブ事業の主力である、コックピット、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)、EVパワーエレクトロニクスの領域で生き残るには、大規模な開発投資が必要になる。ベストオーナーの視点に照らし合わせるとこの投資を私たちでは十分に実行できず、外部の力を借りる必要があると判断した。これにより、グローバルトッププレーヤーとして躍進するための大きなチャンスをつかめた。これはお客様のお役立ち、従業員の幸せにもつながると判断した」と共同パートナーに踏み切った理由を明かした。
3つ目の、グループ全体の体質強化では「各事業の競争力の基礎体力を強化するもの。単年ではなく、長期的な視点で継続していく」とし、創業者である松下幸之助氏の言葉である「物をつくる前に人をつくる」を基本的な考え方に据える。
2023年4月に策定した人的資本経営の主な施策にも触れ、「経営チームから変革し、グループ全体で多様性のある組織にしていく」と表明。人的資本経営を推進する先行事例として、ジョブ型の人事制度へと移行した、パナソニックインダストリーを紹介した。
「社員1人1人の自律的なキャリア形成を促すため、本人発意を基軸とする公募型異動制度を導入した。担当者だけでなく、上位職登用も含めた責任者クラス以上のポジションについても積極的に公募をかけており、2022年の11月の制度導入以降、1000人以上の公募、異動を実現している」という。
今後、注力していく点については「社員一人ひとりの意識改革。社員の能力、ポテンシャルを解放し、挑戦を後押しする人的資本経営をグループ全体で徹底浸透させていく。各事業が卓越したオペレーション力を獲得するために、無駄と滞留の徹底的な排除に取り組んでおり、2022年から始めたこの活動によって、今では多くの現場で理論限界に挑戦する風土が定着。結果、キャッシュ創出にも貢献している。具体的には、現場1人1人の発意で改善を重ねる拠点が、この2年で全体の半数を超えるグローバル124拠点に達しました」と成果を披露。サプライチェーン全体の整流化とリードタイムの削減により、230億円のキャッシュ創出につなげた。
2021年から取り組む「PX(Panasonic Transformation)」に関しては、パナソニックインダストリーの「スマートラボ」で実験、評価などの完全自動化を果たしたと発表。「2024年から、AIによる実験計画の生成やマテリアルインフォマティクス(機械学習などの情報科学を用いて、材料開発の効率を高める取り組み)の組み合わせにより、技術者の経験や労働時間に頼っていた開発プロセスを、より高度かつ大幅に短縮している。働く場所を選ばない遠隔開発も可能で、技術者の働く意欲にも効果がある」と成果を上げているとのこと。
さらに「単純作業を生成AIで効率化し、自らはお客様価値を生むような仕事に集中する形へと働き方の転換も進んでいる。このような変革がグループ内で常態化している」と従業員の意識の変化についても明かした。
楠見氏は「2026年度までに課題事業ゼロを目指す。市場からの厳しい評価を重く受け止め、中長期の成長に向けて収益構造の改革を断行していく」とした。
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