新規事業創出の「鍵」となるのは最初の4カ月-- 「成功率8割超」のスペックホルダーが教える必須テクニック

 CNET Japanでは、2月19日から3月1日にかけて、カンファレンス「CNET Japan Live 2024」をオンラインとオフラインで開催した。今年のテーマは「1+1=2以上の力を生み出す『コラボ力』」。官と民、企業と企業などがコラボレーションするオープンイノベーションの事例は増えてきているが、1つの組織だけではなし得ない大きな成果を実際に挙げている実例は果たしてどのようなものなのか、その中身を探る15のセッションで構成された。

 ここでは、大企業などの事業戦略をサポートしているスペックホルダーの代表取締役社長、大野泰敬氏によるセッションの内容を紹介する。大野氏は、主に大企業に勤める社員を念頭に、新規事業を進めようとしたときに何をすべきなのか、経営層をどのようにして説得するのか、いくつかの重要なポイントやテクニックを披露した。

(右下)スペックホルダー 代表取締役社長 大野泰敬氏
(右上)CNET Japan 編集部 西中悠基
(右下)スペックホルダー 代表取締役社長 大野泰敬氏
(右上)CNET Japan 編集部 西中悠基

市場調査に活用できる必携ツールとは

 オープンイノベーションで複数の企業がタッグを組み、新たな事業を創出する取り組みにおいて、自身が関わるプロジェクトでは、組織同士のマッチング率が100%、その後事業化までたどり着けるのが85%と、極めて高い成功率を収めているという大野氏。そんな同氏が、特に大企業において新規事業を創出するときに心がけているという4つの肝となる要素について詳細に解説した。

 1つ目に挙げたのは「徹底的な市場調査」、つまり情報収集だ。「筋がいいビジネスのネタ作りや、社内で詳細を検討していくときには、情報をきちんと収集できるかどうかが大事」だとし、質の高い情報をいかに効率的に収集するかが重要だ。そのために同氏は、いくつかのツールを活用している。

 最初に紹介したツールは、「Google アラート」。あらかじめキーワードを登録しておくと、そのキーワードが含まれる新しいWebコンテンツを検出して、定期的にメールで通知してくれるものだ。大野氏自身、新規事業に関わる市場調査を進めるときは、真っ先にそれに関連しそうなキーワードを登録して「きっちり情報を把握していくところから始める」ようにしているという。

登録したキーワードを基に新規Webコンテンツを通知してくれる「Google アラート」
登録したキーワードを基に新規Webコンテンツを通知してくれる「Google アラート」

 次のツールは「ラッコキーワード」。このツールでは、サーチエンジンでキーワード入力するときに現れる「サジェスト」などの分析情報を得ることができる。サジェストは一般的に、ユーザーによく検索されているワードをもとに検索キーワードを提案する仕組みで、たとえば「フードテック」と入力して調べてみると、それに地名や人物名など、どんな文字列を組み合わせて検索されているかがわかる。

サジェストなどの分析情報を得ることができる「ラッコキーワード」
サジェストなどの分析情報を得ることができる「ラッコキーワード」
指定したキーワードが、どんな組み合わせで検索されているのかを調べられる
指定したキーワードが、どんな組み合わせで検索されているのかを調べられる

 ただ、「ラッコキーワード」で得られる情報だけでは、具体的な市場調査に活用するのは難しい。そこで、「Google 広告」の1機能である「キーワードプランナー」を併用する。これにより、先述の例で言うと「フードテック ○○」というワードで検索した人がどれくらいいるかの目安がわかり、その検索時期も把握可能になる。データを整理することで特定のキーワードがどのタイミングで増減しているのかをグラフ化することも可能で、「どういうマーケティングやプロモーションをするのが最適なのか、この季節にはターゲットが何を望んでいるのか、何を探しているのかが正確にわかってくる」という。

「キーワードプランナー」も併用することでより詳細な分析が可能に
「キーワードプランナー」も併用することでより詳細な分析が可能に

 大野氏は他にも、「Google トレンド」や、Facebook、Instagramの広告ツールも使用している。SNSの広告ツールでは「たとえばゲーム好きの人たちが、各エリアごとに何人いるのかを正確に把握」することもできる。あるいはイベントなどを特定の地域で実施しようとしたとき、なぜその地域で行うのかを上司に問われても、「自分たちの製品に関心がある人たちがこのエリアに一番多いから」と説明できるようになる。

 大野氏は、「ニーズがどれくらいあるのか」「新しいことに興味がある人たちが何人いるのか」といった、上司に問われることの多い質問にしっかり数字で答えることができ、「感情論ではなく、数字でプレゼンできるのでアウトプットの質が変わってくる」と解説。このようなツールの活用で、予算の使い方やマーケティング展開の仕方を正しく検討していくこともできるだろう。

本当に力を持った企業はスタートアップイベントに出ない

 新規事業創出に向けて重要なポイントの2つ目は、自社を含めた「アセット分析」だ。大野氏は、「自社がどういう会社なのか」「他社がどうなっているのか」「業界がどうなっているのか」「海外の企業がどうなっているのか」という4つを、必ず押さえるようにしているという。

 特に大企業では、経営層に近づくほど「なぜその事業に参入するのか」を聞かれるようになってくる。そうした場面では、「なぜ自社が存在しているのかを改めて調べる」ことと、「自社の強みと弱みをしっかり把握する」こと、さらに「会社が抱えている課題が何なのか」や「市場における状況」などもあわせて考えていくことで、サービス設計の際の指針になるという。

自社の強みや弱み、他社の動向などを把握することが課題発見や課題解決に結びつく
自社の強みや弱み、他社の動向などを把握することが課題発見や課題解決に結びつく

 一方で、ライバル他社の情報については、「その会社がなぜ参入しているのか」を分析することがアイデアの補強になる。「他社が飲食事業にも参入し始めたとなれば、ひょっとしたら自分たちも同じような飲食事業に参入できるかもしれないし、別の企画が考えられるかもしれない」という発想につながるからだ。また「業界が抱えている課題が何なのか」「その課題を解決するためには何が必要なのか」といった業界全体の情報を分析していくことも大事だという。

 さらに大野氏は、「日本の常識や制度にとらわれていない」海外企業の動きも参考になると説明。世界の冷凍食品会社を例に挙げ、そこでは新規事業のパターンがいくつかに分類できると示した。

 それまでは製品の製造・加工のみだったところ、「専門小売店で自社ブランド品を販売する小売に参入する」「小売店とアライアンスを組み、店舗に自社製品専用のコーナーを作ったりして販路を拡大する」「調理やアフターサポートの分野で、デリバリー業者向けのソリューションを展開する」といったパターンだ。自社と似たようなアセットをもつ海外企業の手法を踏襲すれば、新たな事業領域への参入も検討しやすい。

似たアセットをもつ海外企業の事業展開を分析することで、自社がとるべき策も見えてくる
似たアセットをもつ海外企業の事業展開を分析することで、自社がとるべき策も見えてくる

 続いて3つ目のポイントは、「オープンイノベーション」だ。自分たち1社だけで新規事業を生み出していくのは難しいことも多いため、大野氏は他社と協働で取り組むことの重要性も訴える。ただし、ハッカソンイベントのように多くの企業が一堂に会してマッチングするような形のものは「私は一切やっていません」と同氏。売上や利益を目的としている場合には、そうしたスタイルでの取り組み方は同氏の経験上「成功例が非常に少ない。今までそういう(成功した)方とはお会いしたことがない」のだとか。

 それよりも、独自に連携相手を見つけて「自分たちで作り上げていく人たちの方が(成功例が)非常に多い」とのこと。同氏が関わるオープンイノベーションでは、「自社と相手の強みを活かし、それぞれの領域のトップの人たちが一緒に連携する」ようにしており、それが成功率の高さにもつながっている。「自社の強みと相手の強みを掛け算してやる戦略を描けるのがベスト」だ。

 その意味では「技術力のある地域の企業がすごく可能性がある」と大野氏。そうした地域の企業を見つけるには、まず自治体にある財団、商工会議所などと話をしてデータを集めること。さらに50~100社にヒアリングすることで、ようやく「そのエリアの本当の強みが見えてくる」。とにかく足で稼ぐことをいとわないことが大切だ。

 ともするとスタートアップイベントなどで登壇しているような企業に目が行きがちだが、「本当に力を持った人はまずそういうイベントに出ていない」とバッサリ。地域の企業は「地元でビジネスをずっとやっているので、売り上げもあるし、技術力もある。実のところそういう人たちの方が可能性があるし、海外の人たちもそういう企業を探している。地域で強みを持ったそういう人をいち早く見つけられるかどうかが、今後大事なポイントになってくる」(大野氏)。

新規事業担当者が真っ先にすべきはメディアとの関係構築

 最後の4つ目は「メディア戦略」。新規事業では必ず何らかの壁にぶつかるが、大野氏は「一番の問題、一番の敵は社内にあると思っている」と語る。「新規事業が前に進まない、承認されないと言う方の提案資料を見ると、事業計画の数字の積み方が甘い、他社や市場の分析が甘い」といった提案側に問題が見受けられるときもあるが、資料が完璧にもかかわらず進まない会社もある。その場合は「自分(上司)の過去の成功体験の方が大きく、部下の話に耳を傾けられない」状態になっていると考えられる。ここで資料に説得力をもたせ、社内で味方を増やしていく方法としては、「第三者のメディアの評価」が有効なのだという。

 そうしたことから、大野氏は「新規事業担当者が真っ先にやらなきゃいけないのは、メディアとの関係性構築」と断言する。具体的には、定期的にプレスリリースを打っていくことや、自分たちの業界・事業領域に合ったメディアを見つけることが重要。たとえばテレビのドキュメンタリー番組などで取り上げてもらいたいときは、その制作会社のプロデューサーのところへ行って説明し、承認を取るような活動が必要になる。Webメディアの編集部経由、もしくは新規事業の内容に近い領域の記事にある署名をもとにSNS経由でその人にアプローチし、インタビューしてもらうように交渉する、というのも大切だ。

 大野氏によると、「これらを連続的に、2週間ごとに仕掛ける。メディアはイベントなども実施しているので、そういったところに出展してメディアとの関係を構築し、それからメディアに出ていく(記事化などを狙う)」のもおすすめ、とのこと。メディア露出が増えることで「最終的には社内の味方も増える」ことになるという。

 また、こうしたメディアへの露出を図っていくところでは、専属のPR担当は「置かなくてもいい」とも付け加える。メディア側に「この人を応援したい、この人を取り上げてみたいと思ってもらえるかが大事」で、その新規事業に情熱をもって取り組んでいる自分自身がPR担当としてぶつかっていった方がいいようだ。

 以上のようなプロセスのうちメディア戦略の手前までを、3~4カ月という短期間で進められるかが、新規事業開発においては鍵になってくる。大野氏いわく、4カ月もあればある程度の市場調査ができ、自社の強みも分析できるはず、とのこと。その期間でアライアンスが組めなかったりプロジェクト化できなかったりすれば、「おそらく(アイデアの)筋が悪いか、タイミングが悪いか、何か別の要因があって前進できない」ことが考えられるという。4カ月たっても前進が見られないなら「一歩下がってやり直す方がいい」場合もある、ということは頭に入れておきたいところだ。

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