「CNET Japan Live 2024」が、2月19日から3月1日の9日間にわたり開催された。1+1=2以上の力を生み出す「コラボ力」と題し、“結果を出している”オープンイノベーションに焦点を当てて、さまざまな取り組みを取り上げた。
不動産業界からは、全国に賃貸仲介店舗を200以上構えるハウスコムが登壇した。業界内のコラボレーションから始まり、世代、地域、顧客、他業界と、あらゆる方向にオープンイノベーションの輪を広げているという。
本稿では、ハウスコムのオープンイノベーションが「全方位型」に発展した歩みとその結果、今後の取り組みについて、同社代表取締役社長執行役員の田村穂氏に詳しく聞いたセッションをレポートする。聞き手は、本誌CNET Japan 編集長の加納恵。
――最初に自己紹介をお願いいたします。
ハウスコム代表の田村穂と申します。当社は、「住まいを通して人を幸せにする世界を創る」というミッションを掲げ、「地域社会で最も人によりそう住まいのデザインカンパニー」をビジョンとしている会社です。ご存知の方もおられると思いますが、賃貸仲介をメインにしている会社で、全国にFCも含めて約240店舗を展開しています。
――オープンイノベーションの取り組みを始めたきっかけについて教えてください。
当社は仲介を専門にして規模を拡大してきた会社です。そのため、オープンイノベーションというか、もともとあらゆる方々と協力して事業を展開していく必要がありました。そんな中、これからの時代の変化に対応していくため、オープンイノベーションをしっかりやっていこうと2015年から取り組みを始めました。
このとき「3つの変化」を意識しました。1つめは、「市場の変化」です。今はスマホが当たり前ですが、当時はちょうどスマホや電子商取引(EC)、SNSが盛んになってきた頃でした。
2つめは、「求められるサービスの変化」です。ネットでの情報収集がメインになりつつあるという時代背景や、お客様の思考が変化していることに着目しました。オンライン内見も2015年から始めています。
3つめは、「不動産業界の変化」です。仲介手数料無料で、ネットのみで集客するといった会社が現れたのも2015年頃です。
私は、「消費者の行動がだいぶ変化しているのに、我々はこのまま変わらずにいられるのだろうか」と疑問を持ちました。そこで、当時のサービスイノベーション室の室長と一緒にさまざまなベンチャー企業の方とお会いすることを始め、それがオープンイノベーションのきっかけになっていると思います。
――実際にはどんな企業の方とお会いになりましたか?
現在は大きな会社になっているところが多いですが、不動産、特に仲介の仕組みを変えていこうという若い方、ポータルサイトとは違う集客の方法を見つけていこうとしていた方などです。新しい取り組みを知ることはとても面白かったですね。
――3つの変化に応じてオープンノベーションを始めたとのことですが、まず不動産業界ではどのような取り組みをしたのでしょうか。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会の中に、「賃貸管理リーシング推進事業協議会」を2023年8月に立ち上げました。我々は、仲介が専門ですが、仲介だけではお客様に満足いただけるサービスは提供できません。「仲介一本、管理一本ではなく、これからは共存していこう」という構想で、約7〜8年前から会長の塩見紀昭さんにご相談して、「管理会社さんとも一緒によりよい住宅環境をつくっていこう」という志のもと活動しています。
――協議会設立における最も大きなポイントはどこにありますか。
管理会社と仲介会社の役割の変化です。お客様からすると、管理会社も仲介会社も一緒なので、入居後もお客様が最初に問い合わせるのは、部屋を探した仲介会社になります。ここで管理会社に上手くバトンタッチできればよいのですが、情報共有も含めて、なかなか上手くできていない状態でした。
そのため、入居後における我々の役割の明確化を図りました。お客様視点では、一次対応は仲介会社、その後は管理会社という分業があるのではないかという考えに基づき、分業とした場合の報酬の妥当性についても、一緒に話し合いを進めています。
――その結果、課題解決に向かっていると感じますか?
そうですね。いろいろな法律が絡んでくるため、まだできていないこともたくさんありますが、不動産業界、特に賃貸業界においては「入居者にとってどういった住まいの環境がいいのか」とより多くの方々が考え、努力していただけるようになったと感じています。
これまでは、「管理は管理、仲介は仲介」といったところがありましたが、不動産会社目線からお客様目線に、ここ何年かすごく変わってきたと思います。
――すごく大きな変化ですね。
はい。現在、協議会の会員数は97社で、このうち1都3県が61社、それ以外も36社と加盟企業も増えているので、問題意識を共有するこの協議会を通して、お客様目線のサービスをもっと洗練していけたらいいなと思っています。
――業界発展のためのコラボ力を発揮する一方で、世代を超えたコラボも進めていると聞きました。
世代を超えた形でのコラボレーションも進めていこうと、「HOUSECOM DX Conference」を開催しました。
あと5年か10年もしたら、メイン顧客層はZ世代の方々になるでしょう。そのZ世代の方々といろいろな話をしていこうというのがこのカンファレンスのテーマになっています。
――なるほど。大きな狙いは、「Z世代の方々のお話を聞くこと」だったのでしょうか。
いろいろな世代の方々が一緒になって、何か新しいものができないかということを主眼に置いていましたが、Z世代って面白い世代なんです。なので、話してみたいと思い、今年はZ世代をテーマに開催しました。
実際にお話してみると、印象が大きく変わりましたね。彼らはデジタルネイティブなので、発信の仕方などは全く違いますが、人間性などはそんなに変わらないなと。
「昭和の世代とは全然違う」「若い子とはどう接したらいいのか」なんてナンセンスな話ではなく、「これから世の中に出ていく世代であるからこそ、我々みたいな人間がしっかりアドバイスしないといけないのだ」ということを、彼らもずっと言っていました。
ただ、彼らは上の世代とは違う能力をたくさん持っています。伝え方などの工夫はもちろん必要ですが、実際に接することは楽しかったです。
――地域や顧客とのコラボも大事にされていますよね。具体的なエピソードを教えてください。
ビジョンに掲げている「地域社会に最もよりそう住まいのデザインカンパニー」というところがスタートになります。たまたま機会があって、団地を管理している会社の方と、イベントを企画しました。
団地には、いろいろな方々が入居しています。「価値観が違う人たちに対して、どのような企画をすれば長く住んでもらうことができるのか」を考え、築50年の団地をコミュニティマンション「ハラッパ団地・草加」として再生させる取り組みを行いました。
結果としては、団地住民の方以外にも、団地の周りに住む地域の方々も参加してくれています。一緒になってピザを焼くイベントや、夏祭り、ハロウィン、クリスマスなどのパーティーをほぼ毎月開催しています。
この取り組みで最も面白いのは、地域に住む若い方々が、「綺麗な建物」だけではない「住みやすさ」とは何かを解いてくれている、という点です。
――地域の方々とのコラボということで、本当にいろんな方がいらっしゃるかと思いますが、気をつけていることはありますか?
イベントの参加者は若い方々ですが、やはり団地住民には高齢の方々もおられるので、きちんと共有することは意識しています。今後いろいろな建物を管理していく上で多くのヒントが得られますし、団地再生という意味でもよい取り組みだと思うので、これからも地域に根ざした活動をもっと行っていきたいと思っています。
――外国人留学生支援の取り組みもしているとのことですが、詳しく教えてください。
一般社団法人 外国人留学生支援KAKEHASHIですね。こちらは、東急不動産ホールディングスの北川登士彦さんの声かけから始まりました。
それ以前に我々も、「外国人の方々が住みやすい部屋探し」について、北川さんからアドバイスをいただきつつ取り組んでいました。しかしそれだけではなく、やはり外国人の方々に、日本に住んで幸せだと思ってもらいたいですよね。部屋を探して生活する、留学して就職して働くところまで、いろいろな企業と一緒になって支援したほうがいいだろうということで、外国人留学生支援「KAKEHASHI」を立ち上げました。
立ち上げまでは北川さんが中心に動かれましたが、例えば入居後のトラブルや困りごとが生じたときに彼らの母国語ではどう話すのかなど、入居後のことをストーリーとして捉えながら、協賛いただける会社を集めて立ち上げていきました。
協力企業の募集も、北川さんがご尽力くださって、学生の生活やキャリア形成を支援する会社、外国人向けの就職支援会社、金融大手にもご協力いただいています。外国人の方々が現実的に直面するいろいろなトラブルや困りごとに対して、多岐にわたる業界の会社が集まることで、知恵を絞りながら活動しています。
――立ち上げまでに苦労した点はありますか?
入居している外国人の方々は、全部面倒を見てもらいたいですよね。我々もそういう目的でやってはいますが、まだ内部でバトンタッチがうまくいかなかったりという点は苦労しています。
しかし、すごく志が高い企業が集まっているので、これから面白くなってくると思います。ぜひ期待していただきたいです。
――これまでのオープンイノベーションの取り組みを振り返って、感じていることを教えてください。
冒頭の話に戻りますが、1社ではできないことは、同業他社でコラボする、世代を超えてやっていくことが必要だと思います。
しかし、皆さんその領域のプロではありますが、領域で役割分担を決めてしまうと1つの統一されたサービスはできにくいです。いろいろな知見を集め、お客様目線で取り組むことで、共に新しいサービスを生み出すことができるのではないかと思っています。
もともとは我々も、社内に知見がないところを補うためにオープンイノベーションを推進してきました。しかしそれよりも、いろいろな知見を持つ方々と一緒になってやっていったほうが、よりお客様にとって新しいサービスを展開できると考えるようになりました。
――やはり、一社でやるのと他の企業と手を組んでやるのとでは違いますか?
やれることの規模も違うし、自社だけではできない、お客様にとってよりよいものが生まれるという点が、オープンイノベーション最大のメリットだと感じています。
――田村さんは、新しいものに対する拒否反応が全くないというか、常に新しいものを柔軟に取り入れる強い意志を感じます。何か気をつけていることはあるのでしょうか。
それは、この業界やこの会社に対する危機感です。「不動産業界がこのまま変わらずにいられるだろうか」という問いをずっと考えていくと、新しいものにチャレンジしていこうという意欲が湧いてきます。
――最後に、今後取り組んでみたいコラボレーションがあれば、ぜひ教えてください。
今日もご紹介した「ハラッパ団地・草加」のような、地域社会に対し、ハウスコムとして働きかけることで、より健康的で健全な地域社会を創っていけるようなコラボレーションです。
そのためには、企業や地域だけではなく、テクノロジーに強いスタートアップとも組みながら、産学官で取り組んでいけたら、もっと面白いことができのではないかと考えています。
それこそ、私のような年代の頭の固まった人間が考えるよりも、Z世代の方々の感覚が求められると思います。ベンチャーの方々に限らず、そういった仕組みを作っている会社とも、ぜひ一緒に業界を発展させていきたいです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス