都心を中心とした住宅価格の高騰やマイナス金利解除など、住宅ローンを取り巻く状況に注視している人は多いのではないだろうか。SBIグループとして再スタートを切ったSBIアルヒは、この状況をどのように捉え、住宅ローンテック企業として市場を切り拓いていくのか。SBIアルヒ 代表取締役社長CEO兼COOの勝屋敏彦氏に聞いた。
――先日、マイナス金利解除が決定しましたが、最近の住宅ローン市場の動向を教えて下さい。
変動金利ローンを選択する方が多い状況はずっと続いています。やはり固定金利との金利差はまだ大きいですし、加えて、新築だけではなく、都市部を中心に中古の物件価格も上昇傾向にある。なるべく金利の低いものを選びたいというニーズが高いですね。
今後、変動金利も上がる可能性があるので、どうしたらいいんだと迷われている方は多いでしょう。
――これから住宅ローンを組まれる方はどのあたりに気をつければいいですか。
私自身は金利のトレーダーでも経済アナリストでもないので、どのタイミングでどのくらい金利があがるのかというのは、判断が難しいところですが、3~4年後の金利は2024年3月よりも上がっているでしょう。
住宅ローンは35年など、長い期間借りますよね。2024年にどうなるかよりも、今の金利水準が35年間というタームの中でどうなのかを基準に判断したほうがいいと思います。
確かに今でも固定の方が金利は高いですが、「フラット35」であればお子さまがいるご家庭や、40歳未満のご夫婦に向けた「フラット35 子育てプラス」という制度が2月に登場しています。
今の金利水準は、長い目で見ると異例なくらい低いです。私も金融業界に35年ほど関わっていますが、この金利は本当に底。今後金利が、変わらないか、上がるか、下がるかといったら、上がると考えたほうがいい。だとすれば、今の固定金利で住宅ローンを組める子育てプラスのメリットはあると思います。ただ、判断するのはお客様なので、変動か固定か、まず両方を比べてみること、そこが大事ですね。
――住宅ローンをよりよく研究することが大事だと。
住宅ローンは金融機関や物件を購入した不動産会社の方にアドバイスしていただくことが多いと思います。そのアドバイスは受け入れつつ、やはり返済するのはお客様自身なので、ご自身で情報を集め、さらにアドバイスしてくれる人の声も聞きながら決めるのが一番いいと思いますね。
今、住宅ローンを組まれる方の中心は30~40代だと思います。この世代の方は社会人になってから金利が上がるのを見たことない。ですからイメージがわかない方もいらっしゃるはずです。上昇した時のリスクをきちんと考えたほうがいいと思います。
かつての住宅ローンは25年程度と今より期間が短くて、かつ、頭金を1~2割ほど入れてというのが普通でした。しかし今は頭金ゼロで購入される方も多い。この形で住宅ローンを借りられるとすれば、金利が上がった時にどう対処できるかを考えておかないと大変ですから。
個々の事情は違いますから、一概に変動がいい、固定がいいと申し上げるつもりはなくて、とにかく情報を集めて、たくさんの人の意見を聞いて、リスクを考えた上で決めるのが一番よいと思います。
――SBIアルヒでは新商品を用意し、選択肢が増えているようですが。
2023年8月に「ARUHI 住宅ローン(MG保証)ユアセレクト」(ユアセレクト)という変動金利商品を販売開始しました。一般的にネット銀行が提供している住宅ローンは低金利だけれども審査が厳しいという側面があります。ユアセレクトは、MG保証に入っていただくことで、他の住宅ローンに比べると柔軟に対応できるというメリットがあります。
私たちとしても変動金利であればユアセレクト、固定金利であればフラット35と両方から選んでいただける状況ができました。これにより、ご融資させていただける件数が2023年の第1四半期を底に上がってきています。
現在、店舗は100程度ありますが、その約8割がフランチャイズ店です。これまで変動金利商品の取り扱いは直営店のみでしたが、「ユアセレクト」はフランチャイズ店でも取り扱い可能な商品ということで、多くのお客様にご案内できるようになったというのが大きいと思っています。
――新商品によりお客様の層も変ったというイメージですか。
変わったというよりも広がったという印象ですね。SBIアルヒのようなモーゲージバンクは、固定、変動と両方の商品を提供しているところが少ないですし、銀行系の住宅ローンは変動金利が中心になる。バランスよく提供できるという点が強みになってきていると思います。
先ほど、住宅ローンは長い目で見て、いろいろなリスクを考えて選択いただけるのがよいと申し上げましたが、そう考えた時に選びやすい商品をそろえられたと感じています。
――第2の創業として「住み替えカンパニー」を打ち出されていました。進捗はいかがでしょうか。
住み替えが進めば自然と住宅ローンを提供できる機会も増えると考え、住宅ローン以外の分野でもいろいろなサービスをワンストップで提供していこうと考えたのが、住み替えカンパニーへの変革でした。
この活動は着々と進めていますが、現時点でもっとも力を入れているのは、競争が激化する住宅ローン市場において、本業の住宅ローンをより強固なものにすることです。これにあわせて、コーポレートミッションも「住宅金融のリーディングカンパニー」に変えました。
2023年12月にSBIエステートファイナンス、SBIスマイル、SBIギャランティといった会社が当社グループに入りました。そのため、住宅ローンだけではなく、不動産担保金融やリースバック、家賃保証など、住宅に関わる金融サービスも提供できるようになりました。それにあわせて、不動産会社の方に対するアプローチも強めていきたいと思っています。
不動産会社の方に関しては、住宅ローンが提供できるという案内に加えて、不動産の購入資金を SBIエステートファイナンスからご融資できること、あるいはリースバックの提案ができることなど、メニューの多さを訴求していきたい。エンドユーザーであるお客様に対するリーチを不動産会社の方を通じて拡充していきたいです。
住宅ローンをご希望のお客様にSBIアルヒを紹介するだけではなく、不動産を仕入れて売る、お持ちの不動産をどう活用するかみたいなところも私たちにご連絡いただける形を作っていきたいと思います。
こうした関係づくりを強化することによって、最終的にお客様に対して住み替えを促進するご提案もできる。その部分を今集中的に構築しています。
――SBIグループとしてシナジー効果はでていますか。
先ほどもお伝えしたとおり、SBIエステートファイナンス、SBIスマイルなどの会社を私たちのグループに入れ、体制を整えました。2023年の夏からはSIB新生銀行と組み、共同開発した商品も提供していますし、そういう意味ではシナジーが生まれつつあります。
今後は、SBIエステートファイナンスの不動産担保金融の案内をSBIアルヒの店舗に展開したり、さらに店舗とお付き合いのある不動産会社の方に案内するなど、そういう連携を強めていきたいと思っています。
――シナジーを強める上で、SBIアルヒが持つ実店舗の存在は大きいですね。
店舗を持つことはエンドのお客様に接点を持つこととイコールです。加えて、不動産会社の方との関係をしっかりと構築できる。住宅ローン一辺倒ではなく、いろいろな金融商品をそろえることで、店舗とお客様、不動産会社の方とのつながりも強まると思っています。
――新たなつながりを築く上で、業務のDXも進んでいるのでしょうか。
SBIアルヒでは、すでに、紙の契約書に記入や押印をするという従来の手続きに加え、契約書PDFファイルに電子署名することで住宅ローンの手続きができる「ARUHI電子契約サービス」を導入しています。書類への署名や押印といった手続きにかかわる作業負担を軽減できるほか、契約面談の時間を削減するなど、店舗側へのメリットも大きいと考えています。
契約の部分だけではなく、住宅ローンの審査や手続きといった部分も一部システム化しています。現時点でのハードルはシステム化した部分をいかに普及させていくかということ。私たちの仕事は不動産会社の方と連携して初めて成り立ちます。私たちだけデジタル化しても普及には至らず、私たちと不動産会社の両側から橋をかけてつなげていくことが必要です。
大手の不動産会社はDXがかなり進んでいますが、一方で紙でやりとりされている不動産会社の方もいらっしゃいます。この状況を踏まえて、紙でもデジタルでも両方できるべきであると考えています。
不動産取引は反復性があまりないので、今のやり方を変えることに需要がどこまであるかと問われると難しい。ただ、今20~30代の方はデジタルネイティブというか、スマホネイティブで、スマートフォンですべてが完結して当たり前と感じていらっしゃる。その人たちが住宅を購入する適齢期に入ってくると、紙でのやり取りに対して疑問がでてくると思います。ただ、それは今すぐではない。
もう1つ言えるのは、住宅ローンだけをDXするのではなく、それに付随する登記関係や必要書類なども全部デジタル化にしていかなくてはならない。ある部分はデジタル化できても、ある部分は紙でなければいけないというものが混在していると、最初から全部紙のほうがよいという結論になりがちなんですよね。不動産金融市場におけるDXは、社会の進展に応じて変わってくると思います。このあたりもきちんと市場を見ながら進めていきたいと思います。
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