主流になりつつある「自分でデバイスを修理」--iFixitが大いに貢献

Katie Collins (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2024年03月15日 07時30分

 バルセロナにある5つ星ホテルの地下の一室、ほんの1~2m先に、見る人が息をのむような透明ディスプレイのノートPCがある。先頃開催されたMobile World Congress(MWC)でレノボが発表したコンセプトモデルだ。しかし、それに気を取られているわけにはいかない。筆者は今、ドライバーを手に、目の前にあるごく普通の「ThinkPad T14」に専念しているからだ。

ThinkPad T14のカバーを開けた様子
提供:Lenovo

 最初に、本体底面のねじをゆるめ、ギター用のピックを使ってキーボードを取り外す。次に底面カバーを取り外し、本体の内部を分解し始める。まずはバッテリー、続いてイーサネットポートだ。

 すぐ近くには、行き詰まったときに手順を閲覧するためのQRコードも用意されているが、筆者には不要だ。この手の作業を1人でこなすのに慣れているという理由も大きい。それに、万一のときには手を貸してくれる人も控えている。iFixitの2人のエンジニアが、筆者の進捗を見守っているのだ。iFixitがレノボと協力してくれたおかげで、先頃発表された「ThinkPad T」シリーズの最新ノートPCは、十分な修理のしやすさを備えている。

 ThinkPadは、全世界のIT部門で愛用されているPCだ。同僚間の手から手へ、そして学校やコミュニティーへと、何人ものユーザーにわたって使われ続けることも多い。レノボが自社製品の修理のしやすさを改善するとしたら、その試みがThinkPadから始まるのは当然だろう。

 テクノロジー企業が消費者に提供する製品の特徴として、デバイスの修理がしやすいという点が、重要性を増している。修理がしやすくなれば、製品寿命が延び、短期間で交換しなくても済むようになる。そうなると、電子廃棄物が減り、その工程で、ユーザーはコストも抑えられる。この体制がうまく整えば、環境にとってもプラスであり、消費者の財布にもプラスになるのだ。世界中の人々が気候変動の危機と生活費の危機を感じている今ほど、修理できるという選択肢が重要に感じられるときはなかっただろう。

 テクノロジー企業から見ても、これはますます避けがたい問題になっている。権利団体や消費者からの要請に後押しされて、修理する権利を認める法律が欧州でも米国でも制定され始めている。

 修理のしやすさを最も一貫して主張してきたのは、iFixitだろう。iFixitは、オンラインコミュニティーであり、支援団体、部品小売業者でもある。

 「iFixitは、消費者向けに詳細な修理ガイドを提供し、その一方では修理する権利と修理しやすい製品設計を訴えてロビー活動を続けてきた、この分野の草分けだ」、とCCS Insightのチーフアナリストを務めるBen Wood氏は語っている。

iFixitがもたらした影響

 最高経営責任者(CEO)のKyle Wiens氏がiFixitを創業した2003年、同社が主に取り組んでいたのは、リバースエンジニアリングによってApple製品を修理する方法を見いだすことだった。今でも同社はそれを続けている。

 それから20年経った2023年のMWCで、「Nokia」ブランドのスマートフォンを手掛けるHMD Globalが、同社初の修理可能なスマートフォン「Nokia G22」を発表。iFixitと提携して設計したものだ。G22を修理したい場合、iFixitを介して、交換部品と修理に必要なツールキットを注文することができ、誰でも簡単に修理できるようになっている。

Nokia G22と修理ツール
提供:HMD Global

 創業者のWiens氏が常に意識してきたのは、サステナブルな家電業界を作り出すことだった。「そこに到達していないことは明らかだが、可能だと感じている。実現したければ、これだけの苦難が待ち受けているとでも言われたかのように、途方もない挑戦を続けてきたように思う」

 修理のしやすさがメインストリームに踊り出るまでの道は、平坦ではなかった。今もなお、前途は遼遠だ。iFixitの創業から間もない頃、Wiens氏は、テクノロジー企業各社と直接提携できれば、修理のエコシステムの築き方を教えられると思い至った。「説得には、長い時間がかかった」(Wiens氏)

 Wiens氏によると、特に大きかった転機の1つは、フランスが2021年に修理可能性指数を導入したことだったという。製品の修理のしやすさに応じて、家電機器に1~10のスコアを付ける制度である。ただし、企業が製品に独自のスコアを付けられるという難点がある。

 もっと客観的に評価するには、iFixitが各製品の修理のしやすさを独自に評価し、それに基づいて付けたスコア(同じく10段階)を見た方がいい。10点満点の評価が付けられたのは、オランダの社会的企業Fairphoneだけで、同社はサステナビリティーと修理のしやすさを、あらゆる事業の中心に据えている。

 Wiens氏が思い描く修理前提のエコシステムを作るうえで大きな障害となっているのは、スマートフォンを製造するときに、ほとんどのテクノロジー企業がカスタム部品を使うことだ。そうした部品は、特定のモデルの生産中にしか製造されない。「例えば、『iPhone 14』の部品のうち、『iPhone 15』に使えるものは1つもない」、とWiens氏は指摘する。ショップがたくさんの部品を確保しなければいけなくなるため、修理が難しくなる。

 Appleは、一部の製品についてセルフサービスの修理プログラムを提供しており、サムスンもその点は同様だ。

 だが、Appleは自社製品に「パーツペアリング」というモデルを採用している。つまり、各種部品のシリアル番号が一致していないと、デバイスが機能しないということで、デバイスが故障したときに、その部品を他のデバイスの部品と入れ替えることができない。オレゴン州が先頃、このような慣例を法律で禁止したところだ。「世界史上どんな製品も、このような仕組みを採用していない。明らかに消費者に敵対的だ」(Wiens氏)

 iFixitとFairphoneはどちらも、業界全体で部品の標準化の改善を支持しており、それが実現すればテクノロジー製品の修理に必要な交換部品の入手は、今よりずっと容易になるはずだ。Wiens氏は、HMD Globalをはじめ、修理のしやすさを優先してパーツペアリングモデルを拒絶した企業を高く評価している。「こういったメーカー各社が立ち上がることが、実に重要だ」

 修理しやすいデバイスという点では、今のところFairphoneやHMD Global、レノボといった企業がその道を先導しているが、修理する権利をめぐる法律の施行が進めば、競合他社も最終的にはこの動きに追随せざるを得なくなるだろう。「われわれは率先して、デバイスを非常に修理しやすいというだけでなく、それ以上のものにする方法を模索しているところだ」。そう語るのは、HMD Globalの南北米地域担当シニアバイスプレジデントを務めるJames Robinson氏だ。

 Robinson氏は、寿命の長い製品を求める消費者の需要に応じる法律の草案作成の段階で、iFixitが政策立案者たちに助言したことを高く評価し、こう話している。「業界の改革に向けて、提唱者として素晴らしい行動をとっている」

MWC 2024で見た修理のしやすさ

 2023年には、HMD Globalが販売するスマートフォンのうち、4分の1が修理可能なものだった。2024年、同社はその割合を4分の3に増やすことを目指している。修理可能な次期デバイスを7月に発表することをMWCで予告した。「われわれは基本的に、2023年のMWCから出発しており、発表したばかりのモデルを改善する方法に取り組んできた」、とRobinson氏は語った。

 HMD Globalが2024年モデルに向けて掲げている目標は、スマートフォンのディスプレイ交換を、これまでになく容易にすることだ。最近のスマートフォンは大抵、接着剤で固定されているため、その過程はたやすくなく、同社はパートナー企業とサプライヤー各社の幅広いエコシステムを相手に、やり方を変えるように説得しなければならなかった。

 必要な規模で部品を確保するうえで、iFixitとの提携が重要だった、とRobinson氏は話している。「修理の工程についても、消費者が求めていることについても、多方面で本当に申し分のない指導に当たってくれた」

 スマートフォンを修理できるように設計するプロセスは、協力して進められたとRobinson氏は説明する。だが、それにとどまらず、HMD Globalは、Nokiaブランドではなく初めて自社のブランド名を冠する予定のこの新型スマートフォンに関して、真の美しさと理想形を追求している。

 「どんなスマートフォンでも、修理が可能だという理由だけで購入する層もいる。しかし、多くのユーザーに訴求したければ、何らかの魅力的な要素が必要だ」。HMD Globalの最高マーケティング責任者(CMO)を務めるLars Silberbauer氏はこう説明している。

 家具作りの趣味もあって、Wiens氏は自分がデザインにうるさいと話しているが、このスマートフォンには期待しているという。「スマートフォンの修理のアプローチについて、真のイノベーションが見られそうだ」

ThinkPad T14の内部
ThinkPad T14の内部
提供:Katie Collins/CNET

 HMD Globalは、2024年のMWCで修理可能なスマートフォンを披露しなかったが、レノボはThinkPad Tシリーズを披露した。また、姉妹ブランドである「Motorola」は、iFixitと直接提携した最初のテクノロジー企業だ。Wiens氏によると、ノートPCの設計については以前にもアドバイスしたことがあるものの、ThinkPad Tシリーズに対するiFixitの取り組みは、さらに本格的だったという。

 テクノロジー企業各社が、修理のしやすさという課題に取り組むうえでiFixitの支援を求めるようになってきたという事実こそが、同社の積み重ねてきた影響力と専門知識の大きさを如実に物語っている。サステナビリティーを重んじるユーザーが、次に大金を払ってデバイスを購入するときには、iFixitとの提携を求めるようになっているかもしれない。

 「消費者の間で、環境を考慮してデバイスを修理する傾向が高まっていることは、製品寿命を延ばしたいと考えるユーザーを支援するというiFixitの使命と合致している」。CCS InsightのWood氏は、こう話している。「レノボのような企業がiFixitと提携することにメリットを見いだし、より修理しやすい製品を製造し始めているのは、頼もしいことだ」

 筆者は、ThinkPadのねじを1本1本締めて組み立て直しながら、この外科手術のような作業がこれほど簡単に手早く済むことに驚嘆している。「開くことができなければ、本当に所有しているとは言えない」というWiens氏の言葉が、頭の中で鳴り響く。以前実際にやってしまったように、万一コーヒーをこぼしてしまい、バッテリーや、さらにはキーボードの交換が必要になったとしても、これで、慌てずに自分で交換できる自信がついたと思う。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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