「1+1=2以上の力を生み出す『コラボ力』」をテーマに、業種や組織の垣根を取り払って新規事業にチャレンジし、結果を出しているオープンイノベーションの取り組みを紹介。2月29日は「大企業×地域ベンチャー、規模も歴史も異なる2社が経産省採択事業『働く更年期の女性の健康課題研究』でコラボレーションを成功させるまで」をテーマに、大企業と地域ベンチャーのコラボレーションを成功させた事例を紹介する。
医療、介護の電動ベッドなどを製造開発する業界大手のパラマウントベッド(パラマウント)は、福島を拠点に農家や女性が抱える課題解決に取り組む陽と人(ひとびと)と、2023年度より経済産業省の採択事業としてスタートした「働く更年期の女性の健康課題研究」でコラボレーションし、2月には研究成果も発表している。
1947年に創業されたパラマウントは、2009年には睡眠を研究する専門部門を独立させた「パラマウントベッド睡眠研究所」を設立し、眠りに関するさまざまな知見やデータを蓄積している。より良い睡眠を提供することをコンセプトにした「Active Sleep」(アクティブスリープ)ブランドでは、入眠や起床にあわせて自動で動くベッドや、寝具の下に敷いて睡眠時間やリズムなどをモニタリングする睡眠計測センサーなどを開発している。
さらに、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)として「パラマウントベッドヘルスケアファンド」を立ち上げ、現在7社のスタートアップに出資している。今回のプロジェクトもCVCを通じて両社が出会ったことをきっかけに始まった。
CVCを担当する経営企画本部事業戦略部VCグループマネージャーの大槻朋子氏は睡眠改善インストラクターの資格を持ち、女性にフォーカスした睡眠の研究を深める取り組みとしてsleep×femtechのプロジェクトを立ち上げ、女性の健康を睡眠でサポートするブランド立ち上げを目指している。
「睡眠と更年期もそうだが、女性ホルモンの変化と睡眠も関連性が深く、そこでいくつかのアプローチをする中で、更年期の取り組みでは陽と人さんたちと一緒にやっていこうとなった」(大槻氏)
陽と人の代表取締役社長を務める小林味愛氏は、会社勤めや国家公務員を経て日本総合研究所で3年ほど地域活性の仕事を担当し、2017年に福島県国見町で陽と人を立ち上げた。農家の所得向上と女性を取り巻く課題解決にフォーカスし、関連する製品やサービスを開発している。2020年には国見町の特産品である干し柿の皮を使用した天然由来のデリケートゾーンケア商品のブランドを立ち上げている。
共同研究ではパラマウントが代表となり、陽と人を協業パートナーにして、さらに医療監修の専門家も加わり、コンソーシアムが組まれた。
プロジェクトは、大きく5つのステップで進められた。ステップ1では、オンラインアンケートで更年期の人たちの悩みやニーズを調査、整理し、ステップ2では睡眠研究所の知見を活かしつつ両社でプログラムを構築し、ステップ3で実際にプログラムを実施し、その結果をもとに基礎知識のハンドブックを制作した。最後に重要なポイントである成果の認知拡大と啓発を行っている。
アンケート調査では働く更年期女性の悩みが数字でも浮き彫りになった。
もともと更年期障害がある女性の約半数が不眠の症状を抱えているとされているが、実際はそれより多い約7割が症状を有する可能性があることがわかった。「また、WHOが作成した不眠度を測定するアテネ不眠尺度と、更年期症状の有無や程度を把握する簡略更年期指数の相関関係もあり、平たく言うと、更年期症状が重い人は不眠症状も重いことが統計でも見えてきた。」(大槻氏)
一方で、症状の重さとセルフケアの実施には相関性がなく、唯一症状の理解度とで相関性が見られたという。そこで、自分に合ったセルフケアができているのかも含めたプログラムを構築する必要があると考え、約1カ月間の更年期不調改善プログラムを作成し、実施した。
「プログラムは、動画視聴、睡眠計測、カウンセリング、自分に合ったセルフケアという4つのステップで構成した。カウンセリングは対話を通して今の自身の状態や自分が求めるもの、自分にとって気持ちがいいことを理解し、可視化することを目的にしており、更年期と睡眠でそれぞれ行っている」(大槻氏)
結果は参加者の約93%が自身の不調に対して何らか改善効果があったと回答している。セッションでは他のデータを用いながら、プログラムの実施結果についてさらに詳しく解説された。
プロジェクトでは、データの結果をどう読み解くかから、課題の考え方についてまで、対話をしながら比較的スムーズに進められてきた。
「取り組みへの方向性や何をするのかはそれほど時間かけずに決まったが、提案レポートに関しては国家公務員の経験がある小林さんの力がすごく大きかった。実は同じ経産省の実証実験に2022年も応募したのだが、残念ながら採択されなかった。今回出来上がったレポートを見て、通らなかった理由がわかった(苦笑)」(大槻氏)
大槻氏のコメントに対し小林氏は、「自身の経験が生かされているというよりも、ビジネスとして経済的な利益を追及すると同時に、社会的インパクトをしっかりと捉えるゼブラ企業であることが影響しているのかもしれない」と話す。
逆にパラマウントに対しては、いわゆる大企業のイメージとは違って動きも判断もとても早く、2023年にお会いしてから6月には本研究のプロジェクトを申請するなど、1年の間にすごいスピードでいろんな物事が進められたという。
「セルフケアの一つの選択肢として製品販売を通じて知識を普及させようとしてきたが、眠りに関する悩みはかなり多く、私たちのノウハウやネットワークだけでは改善できなかった。パラマウントさんと出会うことで睡眠の専門的な知識から研究が一緒にでき、お客様に提供できる付加価値がどんどん上がっている」(小林氏)
今回はそれぞれの会社から3~4名のスタッフが参加してチームを構成したが、お互いが持っている力を引き出し合うことでシナジーが生まれ、とてもいいアウトプットができ、手応えを感じられたという。今回の採択事業以外にも、新規事業や新しいコラボなどの機会が生まれそうなつながりを強く感じられるセッションであった。
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