メタバースの活用範囲は日々拡大しており、最近では映画の試写会にもその手法が採用されている。先日佐賀県にゆかりのあるキャストやスタッフによって製作された映画「つ。」が2月24日に劇場で公開されることを記念して、メタバースでの映画試写会の開催と、佐賀県とこの映画の世界を体験できるメタバース空間「SAGALAND」が開設された。
このメタバース空間では、映画「つ。」の世界観や佐賀県の文化、風景などをバーチャルで体験することができ、映画のプロモーションと地域の魅力を同時に伝える新しい試みとなっている。訪れる人々は「SAGALAND」を通じて、映画のシーンやキャラクター、佐賀県の名所などを探索し、映画と地域の独特な雰囲気を味わうことが可能だ。このようなメタバースを利用した映画の試写会やプロモーションは、映画業界に新しい風を吹き込むものである。映画ファンにとっては新たな魅力となるだろう。
今回は、メタバースでの映画試写会の様子や、筆者が実際に協力と参加を通じて感じたメタバース試写会の魅力を伝えたい。
佐賀映画制作プロジェクトチーム(主催会社:ハレノヒ、本社:佐賀県佐賀市)は、制作した長編映画「つ。」(監督:Ü Inose)について、2月24日から新宿 K's cinemaで公開。それを記念して、映画と佐賀県の魅力を体験できるメタバース空間「SAGALAND」をRobloxプラットフォーム上で開設した。さらに、VRChatで特別に制作されたバーチャル映画館では、2月9日20時30分にメタバース試写会を開催した(※プレスリリース)。
「SAGALAND」はRoblox内で提供されるゲーム空間で、映画のワンシーンやロケ地をゲーム要素で再現している。インターン中の学生が作成したワールドで、佐賀県の風景を背景に記念撮影ができる写真機能や、気球に乗ってワールドを巡る機能を通じて、佐賀県の魅力をバーチャルで体験できる。また、佐賀県の名産品であるきゅうりがゲーム内通貨として用いられ、集めたきゅうりをアイテムと交換することが可能だ。
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また、VRChat上のオリジナルバーチャル映画館では、2月9日に1日限定のメタバース試写会が行われた。参加者はVRChatのチャットやモーション機能を使ってリアルタイムで感想を共有することができる。このオンライン開催形式のため、映画館に行けない遠方や海外の観客も試写会に参加する機会を得られた。
「つ。」は、佐賀県と深い繋がりを持つキャストやスタッフによって製作された、地域発信型の映画である。この作品は、人間関係や成績不振に悩む高校3年生の青春物語を描いている。主人公はある出来事をきっかけに全てを捨て、深い森へ逃れる。そこで彼は、欠点だらけで変わった人々と共同生活を送ることになり、その過程で自分自身が変化していく。
作品名「つ。」は佐賀の方言で「かさぶた」を意味しており、この言葉には「傷を負うことが新しい自分を作る」というメッセージが込められている。この物語は、苦難や挑戦を通じて成長し、変わっていく若者の姿を描いており、観客に深い共感を呼ぶことが期待されている。
「つ。」は、佐賀県の文化や風土を背景にしているため、地域の魅力も同時に伝える作品だ。地元のキャストやスタッフの参加により、地域特有の色合いが強く反映されており、地域発信型映画としての役割も果たしている。このような作品は、地域の魅力を伝える新しい方法として注目されており、地域振興に貢献する可能性を持っている。
メタバース空間「SAGALAND」の開設や、メタバースでの試写会の開催は、この映画の独特な世界観やメッセージをより多くの人に伝えるための斬新な試みである。メタバースを通じて映画の世界に触れることで、観客は作品の深い理解を得られるだけでなく、佐賀県の文化や風土にも触れることができる。
メタバースでの試写会に関して当初は疑問を抱いていた筆者だが、実際に体験してみると、その魅力と可能性を実感した。VRヘッドセットを使用して長時間映画を鑑賞することに関する身体的ストレスの懸念にも関わらず、多くの来場者が映画を最後まで楽しんでいたことが印象的だった。
メタバース試写会の一つの魅力は、その柔軟性にある。実際の映画館と異なり、後ろの席で寝っ転がって見ている人や、友人とプライベートな音声チャットで会話を楽しみながらの映画鑑賞ができる。
さらに、出入り自由で、途中から友人を連れてくることも可能だ。映画鑑賞後に他の観客と感想を共有し、新しい友達を作る機会もある。通常の映画館では、映画を鑑賞をしたら、そのまま会場を後にするのが普通だが、メタバース試写会では、集まった人たちが終わった後にそれぞれ感想を共有して友達を作るような様子も伺うことができた。
また、メタバースにはリアルと異なる友人が筆者にもいるが、そういう友達と一緒にメタバースを通じて同じ映画を視聴して、楽しみ、感想を共有できるという喜びは純粋に嬉しかった。これはZoomなどのオンラインビデオ会議を使った映画鑑賞とは異なり、新しいコミュニケーションの形として有効だ。
ただし、今回は私を含め参加者のほとんどがメタバースやVRヘッドセットに慣れているユーザーだったため、現実的に考えると、慣れてない人が長時間メタバースで映画鑑賞するにはアクセシビリティのハードルの高さやVR酔いの問題を考慮する必要がある。
今回は実現できなかったが、将来的には映画の制作者や出演者との交流の時間を作れると、来場者にとっては嬉しいイベントになるだろうし、映画のファンの獲得にも効果があると筆者は考えている。
メタバース映画試写会は、映画鑑賞の新しい形態として大きな可能性を秘めていると筆者は感じた。この新しい形式の試写会は、従来の映画館体験を超越し、参加者に柔軟性とインタラクティブな体験を提供する。観客は自宅にいながら、異なる地理的場所にいる友人や他の観客と一緒に映画を楽しむことができ、共有の体験を通じて新たな交流を築くことが可能だ。さらに、メタバース環境によって、映画の世界により深く没入することができるため、映画の内容に対する理解や楽しみ方が深まる。
今後の展望として、メタバース映画試写会は作品のプロモーションだけでなく、地域文化の紹介や教育の場としても利用される可能性があるだろう。また、映画制作者や俳優との交流の機会を提供することで、ファンとのつながりを強化し、新たなコミュニティを築くことができる。バーチャルリアリティ技術の進化に伴い、映画のストーリーテリングや視覚効果がさらに豊かになることが期待される。
しかしながら、メタバース試写会の普及には、アクセシビリティの向上やVR酔いなどの問題への対応が必要である。メタバースがもたらす新しい映画体験は、映画業界に新しい風を吹き込み、将来的には映画鑑賞のスタンダードとなる可能性を秘めている。メタバース映画試写会は、映画と観客の関係を再定義し、エンターテインメントの未来を形作る重要な一歩となるのではないだろうか。
Roblox内「SAGALAND」(※映画公開期間中オープン)
佐賀映画制作プロジェクト「つ。」公式サイト
齊藤大将
Steins Inc. 代表取締役 【http://steins.works/】
エストニアの国立大学タリン工科大学物理学修士修了。大学院では文学の数値解析の研究。バーチャル教育の研究開発やVR美術館をはじめとするアートを用いた広報に関する事業を行う。
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