ラスベガスで、2024年1月9~12日に開催された世界最大のテクノロジー見本市「CES 2024」。「ALL ON」をテーマに開催されたこの展示会は、4000以上の企業や団体が出展し、参加者数は13万5000人を超えた。
主要テーマのAIやモビリティなどが注目を集めた中、現地を視察したアクセルラボCTOの青木継孝氏は、スマートホーム関連の展示領域が大幅に拡大していたと印象を語る。スマートホーム業界の2024年のトレンドは、どのように予測できるのか。青木氏に詳しく話を聞いた。
展示会全体の印象について青木氏は、「真新しい革新的な技術や製品はなかったが、各領域のテクノロジーが着実に進化している。AIやモビリティ、AR/VR、ドローン、音声認識などのテクノロジーが、社会に浸透しつつあることを実感した」と話す。また、サムスンやLG、韓国財閥の一角であるSKグループなど韓国企業の台頭が目立っていたことも印象的で、「韓国発のスポーツ用ドローンの展示などは存在感があり、力を入れてアピールしていると感じた」という。
2023年と比較して大幅に増床していたというスマートホーム関連の展示から、青木氏が見た2024年のトレンドは3つだ。1つ目は、展示領域が増床していた要因でもある、スマートホームの概念自体の拡大である。従来のスマートホームデバイスだけでなく、これまでコネクテッドではなかった家周辺のデバイスがインターネットに次々に接続されていったことにより、庭に設置するスプリンクラー、シェードやカーテン、プールのメンテナンス機器、調理器具、ヒーターや加湿器などが、スマートホームの領域にカテゴライズされるようになった。
2つ目は、単なる便利なホームコントロールという存在から、より具体的なソリューションを訴求するものへ展示内容がシフトしていたことである。「これまでは照明やエアコンを音声で操作する様子などを展示していることが多かったが、高齢者の安全を見守ったり、ペットに餌をあげたり、家の中で使われているエネルギーを可視化して管理したりなど、ソリューションを提供する展示に変化していると感じた」と青木氏は話す。中でも、セキュリティソリューションとしてのスマートロックが多く展開されていたと、青木氏は振り返る。
3つ目は、家の中のコントロールデバイスの多様化だ。これまではスマートフォンや音声で操作する様子を見せる展示が主流だったが、壁に取り付けるパネル式のもの、ワンタッチで操作できるスイッチ式のものが増えていたという。「『Amazon Alexa』や『Google Home』と接続して、いろいろな家電を操作できるコントロールデバイス単体のプロダクトも少なくなかった」と、青木氏は話す。スマートフォンや音声による操作だけでなく、より直感的な操作ができるデバイスは今後、増えていくかもしれない。
また2023年と比べて変化していた点として、matter対応が特別な訴求ポイントではなくなっていたと青木氏は語る。matterに対応していることが標準であり、市場から要望があればすぐにでも展開可能であるデバイスが増えていたという。ただし市場の要望として、matter対応を求める声はまだそれほど多くはない。
「matter対応は、何を買ってきてもデバイス同士がつながるというユーザーの互換性による混乱を防ぐことが大きな目的。しかし、そもそもまだスマートホームの市場がそこまで広がっていない。家電量販店などでスマートホームのデバイスが大きく展開されるようになると、需要は一気に高まるはず」(青木氏)
青木氏は、2024年も引き続き、まずはスマートホーム市場自体の拡大を狙っていくべきだとした。
一方、アメリカや中国では、日本と比較するとスマートホームデバイスの普及が進んでいる。特に米国メーカーでは、接続やセットアップの煩雑さを解消するため、新築物件にスマートホームデバイスを備え付け、そのまま提供することを推進している展示が見受けられたという。「デバイスの物理的な取り付けやセットアップ、取り付け後のオンラインサポートなどは、アクセルラボも課題として捉えている。アメリカのメーカーも同様の課題を抱えており、取り組みを進めているのだと感じた」と、青木氏は展示を振り返った。
今回の展示会で青木氏が注目した企業の1つに、サムスンがある。サムスンは「SmartThings」というIoTのプラットフォームを持ち、冷蔵庫、テレビ、電子レンジなどの家電にSmartThingsを埋め込むことで、どこからでも家の中のデバイスの状況を見ることができる。
自社製品はもちろん、他社メーカーの製品もSmartThingsに連携することで、メーカーの垣根を超えた操作が可能だ。青木氏は、「日本の企業は、メーカーの垣根を超えた取り組みがまだそこまで浸透していない」とし、同業態の日本のメーカー、さらに海外のLGやHi-Senseと比較しても、サムスンがスマートホーム領域で大幅にリードしていると感じたという。
他に、シンガポールに本社を置くnamiにも注目。namiは、Wi-Fi電波を使用したセンシングで人の動きや心拍数などを検知する技術を用い、高齢者の見守りや、家の中に人がいるかによって照明や空調などを自動調整できる可能性を示した。カメラによる見守りはプライバシーの侵害につながることがあり、人感センサーなどは精度にまだ課題がある。「Wi-Fi電波を使用したセンシング技術は今までもあったが、namiは独自の技術で非常に高い精度でセンシング出来ることをアピールしていて、ホームセキュリティ事業を手掛けるAlarm.comなどの大手サービサーにもソリューションを提供している。この技術をスマートホーム領域で応用できれば、プライバシーを侵害しない見守りが実現できるかもしれない」と、青木氏は期待を込める。
「スマートホーム領域で、高齢者の見守りやペットのケア、セキュリティによる安全な暮らしの実現など、より具体的なソリューションを訴求する方向性は今後さらに強まっていくと思う。同時に、将来的にはスマートホームという領域を超えて、スマートシティにつながっていく予感がある。災害が起きたときに各々の家の状況がわかったり、不審者が現れたら地域全体でそれを共有したり、防災の観点からも注目が集まっている。そのためにも、まずは市場規模を大きくして、スマートホームのデバイスが各家庭にあることを当たり前にしていきたい」と、青木氏は今後の展望を語った。
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