スマートフォンを使えば、料理のテイクアウトや音楽の再生、動画の視聴、ライドシェアの予約をいとも簡単に行える。だが、スマートフォンを開かず、そもそも手に取ることさえなくそれらをこなせるようになるとしたらどうだろうか。「CES 2024」では、テクノロジー大手から小規模なスタートアップまでが、スマートフォンに手を触れずにビデオチャットや休暇に向けた予約ができる生活というものを垣間見せた。
「ChatGPT」に使われる技術を搭載し、ポケットや車の中に持ち込める音声アシスタント、あるいは周囲に仮想ディスプレイを展開できる複合現実(MR)ヘッドセットなど、CES 2024は、現在のアプリが進化する方向性を示すアイデアにあふれていた。
Amazonの「Alexa」やAppleの「Siri」、「Googleアシスタント」は、すでに登場して何年も経過し、ChatGPTも2022年11月のリリース以来、文化的な時代精神の一端を担っている。CES 2024では、大規模言語モデル、すなわち、自然言語をよりよく理解するために大量のデータで訓練された人工知能(AI)モデルをハードウェアに搭載する新たな方法が紹介された。こうした方向性の進歩が期待通りにいけば、従来のアプリを今ほど頻繁に使用せずにすむ、あるいはアプリが全く不要になる可能性がある。
「rabbit r1」はその最大の例だ。この小さなオレンジ色の箱型デバイスは、スマートフォンの半分ほどの大きさしかない。搭載されている2.88インチのディスプレイも、今日のスマートフォンの基準からすると極めて小さい。なぜなら、その画面でアプリを操作したり、動画を視聴したりすることを想定していないからだ。r1は、アプリを捨ててAIを選ぶことで、スマートフォンより賢い仮想アシスタントになることを目指している。
rabbit r1は、従来のオペレーティングシステムで動作するのではなく、大規模アクションモデル(LAM)を採用している。LAMは、ユーザーがアプリを利用する方法を学習し、そのプロセスを自動化するアルゴリズムだ。rabbitの創設者で最高経営責任者(CEO)のJesse Lyu氏は、テイクアウトの注文やUberの予約を自分でせずに、友達にスマートフォンを渡してやってもらうようなものだと説明している。
一方、Volkswagenは、走行中のドライバーがスマートフォンのアプリに頼らず、簡単に情報を得られるようにしたいと考えている。そこでCerenceと提携し、一部の車種の音声アシスタントにChatGPTを統合する計画だ。
それによって複雑な質問の答えも得られるようになるため、ドライバーは車を停めてスマートフォンを取り出したり、同乗者に調べてもらったりする必要がなくなるかもしれない。
6インチほどしかないスマートフォンの小さな画面に縛られることなく、アプリをはるかに大きな画面で利用する方法を模索している企業もある。その一例が中国の新興企業XREALで、同社は「XREAL Air 2 Ultra」と呼ばれる新しい拡張現実(AR)グラスをCES 2024で発表した。大画面テレビの視聴体験をシミュレーションできるARグラスの開発ですでに知られる同社だが、最新のスマートグラスは3D環境センサーを搭載しているため、3Dアプリを実行したり動きを追跡したりできる。
XREALは現在、自社グラス向けの3Dアプリや3D体験を構築する開発者を募っている。同社がCESで行ったデモは、こうしたアプリがどのようなものになるのかを垣間見せてくれる。XREAL Air 2 Ultraでは仮想スクリーンを部屋のどこにでも配置できるため、音楽プレーヤーを左側に、YouTubeの動画を右側に浮かべるといったことができる。また、連絡先ページで連絡を取りたい友人や家族を選ぶと、その人の3Dアバターが現れる。スマートフォンで連絡先の人の写真をただ見るのとは大きく異なる体験だ。
現在知られているアプリが変化する可能性を感じさせるもう1つの兆しは、ソニーがCES 2024で、特にコンテンツ制作者を念頭に置いて設計したMRヘッドセットを発表したことだ。同社のプレスリリースによると、開発者や制作者に3Dコンテンツを構築できるツールを提供する狙いがあるという。
XREAL、TCL、レノボなどの企業は、何年も前からスマートグラスを開発し、宣伝してきた。Apple初のヘッドマウントコンピューター「Vision Pro」のおかげもあり、今はこうしたデバイスが脚光を浴びている。
2月2日に米国で発売されるVision Proでは、「iPhone」やMac向けアプリをユーザーの環境内に配置した仮想スクリーンに表示することにより、そういったアプリを大画面で利用できる。だが、Appleのデモ動画では、アプリをただ大きく表示するだけでなく、体験をより精緻なものにするため、Vision Proが3D化したアイコンやグラフィックをアニメーション化して部屋いっぱいに表示する様子を示している。これは同社にとって、iPhoneやiPhone上で動く無数のアプリだけにこだわるのではなく、さらにその先に進むための、近年で最大の賭けだ。
スマートフォンやタブレットが、一部で予想されたような形でノートPCに完全に取って代わることがなかったのと同様に、スマートフォンに搭載されているアプリが、よりスマートな音声対応チャットボットやMR体験によって廃れることはないだろう。役割を変えてわれわれの暮らしの中にとどまるのかもしれない。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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