DNPが印刷で培った高精度の大量生産技術を持って挑む昆虫養殖事業

 テクノロジーを活用して、ビジネスを加速させているプロジェクトや企業の新規事業にフォーカスを当て、ビジネスに役立つ情報をお届けする音声情報番組「BTW(Business Transformation Wave)RADIO」。スペックホルダー 代表取締役社長である大野泰敬氏をパーソナリティに迎え、CNET Japan編集部の加納恵とともに、最新ビジネステクノロジーで課題解決に取り組む企業、人、サービスを紹介する。

 ここでは、音声番組でお話いただいた一部を記事としてお届けする。今回ゲストとして登場いただいたのは、大日本印刷 イメージングコミュニケーション事業部事業開発グループリーダーの山崎奨氏。印刷業を約150年手掛ける大日本印刷が、ゼロイチの新規事業として立ち上げた昆虫養殖事業について聞いた。

大日本印刷 イメージングコミュニケーション事業部事業開発グループリーダーの山崎奨氏
大日本印刷 イメージングコミュニケーション事業部事業開発グループリーダーの山崎奨氏

加納:山崎さんがいらっしゃるイメージングコミュニケーション事業部事業開発グループではどんな事業を手掛けられているのでしょうか。

山崎氏:水産養殖向けの新しい飼料として活用が期待されている「ミールワーム」という昆虫の自動飼育装置の開発検討をしています。

大野氏:印刷会社の新規事業としてはかなり珍しいですね。

山崎氏:ミールワームを、ペレット状にして魚の餌にするところまでを手掛けたいと思っています。

大野氏:幼虫の生産から飼料会社への納品まで、まるっと担われるイメージなんですね。

山崎氏:そうです。この事業は、中国や日本国内の農家の方が手掛けているのですが、現時点では手作業で養殖されているところが多い。これがかなり手間になってきているんです。ただ、飼料にするには値段を抑える必要がある。その部分を自動化し、大量生産できるようにするのが、この事業の肝だと考えています。

加納:手間がかかるのはどの辺りなんですか。

山崎氏:一番大変なのは、ミールワームを育てる際に与える餌の一部が残って劣化してしまったり、ミールワームが脱皮した皮が残ってしまったりと、不要物とミールワーム本体を分離する作業です。今は人の手をつかってふるいにかけているのですが、これがかなりの作業量ですね。また、成長していく過程でさなぎになってしまう個体があるのですが、さなぎは餌としては使えないので、そのさなぎをピンセットで1つずつ取り除く作業があります。

大野氏:手作業なんですか。

山崎氏:はい。これには私も現場を見て衝撃を受けました。この作業をしながら、餌として求められる価格で生産するのはちょっと無理だろうと思い、このあたりの作業を機械で自動化していくべきなんだろうなと。

大野氏:昆虫養殖でネックになっているのは、自動化できずに人手に頼っている部分なんですね。山崎さんから見て、自動化できない理由というのは。

山崎氏:個人的な意見になってしまいますが、昆虫養殖を今手掛けているベンチャー企業の方などが、大量生産をした経験がないからだと感じています。一方、私たち大日本印刷は、同じものを大量に安く作る産業の最たる例みたいなところがあって、その知見を昆虫養殖にもいかせると考えています。

大野氏:ミールワームと不要物をふるいにかけたり、ピンセットで取り除いたりといった部分までフルオートメーション化するイメージですか。

山崎氏:そうですね。現在、卵から孵化させ、成長して出荷するまでの全工程を一度分解し、各工程のどこか自動化できるのか、どこに人手がかかっているのかといった部分を研究している状態です。

ミールワーム(排泄物)
ミールワーム(排泄物)
ミールワーム(オイル)
ミールワーム(オイル)

大日本印刷が手掛ける意外な食品事業とは

大野氏:先程、印刷会社として培ってきた大量生産技術がミールワームの生産にいかせるということでしたが、ど素人からするとちょっとかけ離れているイメージでした。しかし印刷という固定概念を外し、安く安定的にものを作ること、それをフロー化して生産体制を整えることと考えると親和性が高いですね。

加納:ただ、印刷会社と昆虫養殖はやはり結びつきづらいイメージなのですが、いつ頃からこの事業をやられているのですか。

山崎氏:着手したのは、2021年くらいからですが、新規事業への挑戦という意味では2020年から取り組んでいます。元々、会社の強みや既成概念にとらわれず、新しいことに取り組んでほしいという思いの下、立ち上がったプロジェクトで、いろいろ検討して、事業化に向けて進めていく決断をしたのが2021年のタイミングですね。

実験室
実験室

大野氏:昆虫養殖に印刷会社として培った技術が使えるのではないかという技術的なポイントなどはありましたか。

山崎氏:大日本印刷は、印刷会社と名乗っていますが、実はいろいろな事業を手掛けていまして、食品に近いところでいうと、ペットボトルに飲料を充填する装置を製造販売しています。飲料メーカーに納品し、パッケージのラベル貼りの部分も担当しています。この辺りの無菌をキープする技術は昆虫養殖にも活用できると感じています。

加納:品質を担保しながら大量生産できるという技術も活かせそうですね。

山崎氏:そうですね。日本の印刷は、色合わせなど品質管理がとても厳しくて、同じものを作る高い技術力があると自負しています。ミールワームは完全に同じ大きさで、遺伝子も全く一緒という個体にすることはできないですが、極端なことを言えば、同じ品質のものをつくれるというのは私たちの強みなのかなと思っています。

下記の内容を中心に、音声情報番組「BTW(Business Transformation Wave)RADIO」で、以下のお話の続きを配信しています。ぜひ音声にてお聞きください。

  • 食品残渣が餌になる?ミールワームが解決するかもしれない食べ残しゼロへの新たな仕組み
  • グループ会社「北海道コカ・コーラボトリング」や愛媛大学と描く畜産、養殖への展開
  • 難しい湿度管理をセンサー活用で高精度に自動化する






大野泰敬氏


スペックホルダー 代表取締役社長
朝日インタラクティブ 戦略アドバイザー


事業家兼投資家。ソフトバンクで新規事業などを担当した後、CCCで新規事業に従事。2008年にソフトバンクに復帰し、当時日本初上陸のiPhoneのマーケティングを担当。独立後は、企業の事業戦略、戦術策定、M&A、資金調達などを手がけ、大手企業14社をサポート。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会ITアドバイザー、農林水産省農林水産研究所客員研究員のほか、省庁、自治体などの外部コンサルタントとしても活躍する。著書は「ひとり会社で6億稼ぐ仕事術」「予算獲得率100%の企画のプロが教える必ず通る資料作成」など。



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