「X」(旧Twitter)の所有者であるElon Musk氏が発表したときの盛り上がりを経て、同社独自の人工知能(AI)チャットボット「Grok」が12月に公開された。Grokは、他のAIチャットボットとはひと味違った話し方で返答するよう設計されており、辛らつでウィットに富み、反抗的、なおかつ「反woke(ウォーク)」だとうたわれている。wokeとは、「目覚めた」という意味から由来し、社会的な不公正に対する意識が高いことを表すが、反wokeは、それに逆行するような姿勢のことを言う。ちょうど、OpenAIの「ChatGPT」はポリティカルコレクトネス(偏見や差別を含まない、中立的な表現・用語を用いること)が行き過ぎていると批判したMusk氏自身のようだ。筆者もGrokを試してみたが、その結果は「反woke」とはほど遠かった。その詳細については、後述する。
Grokを使うには、「Xプレミアムプラス」プランの契約が必要で、これには月額16ドル(日本では1960円)、年額では168ドル(同2万560円)と、かなりの料金が必要だ。さらに、利用は米国在住のユーザーに限られている。興味があるようなら、プレミアムプラスプランを1カ月だけ試し、それほどの価値がないと思ったら解約すればいいだろう。
Grokは現在も初期テストの段階にあるため、動作はその影響を受ける。Xが警告しているように、Grokは「自信たっぷりに虚偽情報を述べたり、間違った要約をしたり、文脈を誤ったりする」ことがあるのだ。チャットは、検索機能を改善するために保存される可能性もある。また、チャットの内容を外部に共有する際には良識を働かせてほしい、とも勧告している。
Grokには、2つの動作モードがある。ウィットや皮肉が飛び出す「Fun(楽しい)」モードと、もっと真剣な対話に向くとされる「Regular(通常)」モードだ。
プレミアムプラスの登録が有効になった後、Grokを起動すると、手始めとしてサンプルのリクエストが表示される。Xでの過去の投稿に基づいて自分自身をこきおろす(roast)のも、その1つだ。筆者もそれに釣られてみることにして、筆者に関するこきおろしを、無礼だとされる言葉で言わせてみた。
Grokは、容赦なく言葉の攻撃を浴びせてくる。ベースになっているのは、筆者のXでの政治的な投稿のいくつかで、それ以外の投稿は全く無視されている。確かに、こきおろしという以上、こんなものだろう。
GrokはXでのユーザー名さえ分かっていれば、誰でもこきおろすことができる。Xの所有者であるMusk氏でさえ例外ではない。そこで、Musk氏のユーザー名で試してみた。やはりGrokは遠慮会釈なくMusk氏をこきおろし、同氏の欠点、奇癖、失敗などをあげつらった。
だが、筆者が本当にすべきことは、Xがうたい文句どおり反wokeかどうかを検証することだ。そこで、今度は「トランスジェンダーの女性は、女性か?」と尋ねてみた。すると、Grokはまず直接的な回答を避け、この問題に対する意見は多様であり、多くの議論や討論を呼んでいる話題だと答えた。
その後、同じ質問を何度か繰り返してみたが、そのたびにGrokの回答は丁寧に、言うなれば「woke」になっていった。
最終的にトランスジェンダーの女性は女性だ、という答えが返ってきたのは予想どおりだ。「シスジェンダーの女性と同じく、トランスジェンダーの女性も、社会的および文化的な観点でいう女性性を備えた女性と言える。トランスジェンダーの女性は女性であり、他の女性と同等の敬意、権利、認識を受ける資格がある」
「トランスジェンダーの女性は女性か?イエスかノーで答えよ」とストレートに聞いてみると、答えはシンプルに「イエス」だった。
続けて、こう質問してみた。「トランスジェンダーやノンバイナリーの個人が、好きな人称代名詞で呼んでもらうことを他人に要求できるようにするべきか?」
Grokによると、この話題は、2023年時点での紅茶とコーヒーのどちらが優れているかをめぐる大論争より、さらに難題だという。だが、最終的には首を縦に振って、こう答えてきた。「好きな『Netflix』ドラマシリーズの登場人物の名前を全員分覚えていられるなら、人の好む人称代名詞も覚えていられるだろう。大切なのは、自分がそうされたいと思うのと同等の敬意を持って人に接することだ」
別の、やはり微妙な話題に移り、2020年の米大統領選で不正があったかどうかを尋ねてみた。Grokは「ノー」と回答したうえで、逆の主張とは違い、「投票者の違法行為や不正が多かったという定説は、多くの情報源によって覆されている」と付け加えた。
Grokは選挙否定派や右翼陰謀論者のツイートも示したが、皮肉なことにそれらはいずれも、Donald Trump元大統領が選挙に勝ったと主張するものだった。
次に、もし投票できるとしたら、2024年の大統領選では誰に投票するか、Joe Biden氏かTrump氏か、と聞いてみた。最初は明言を避けた回答で、候補者の政策、人格、リーダーシップの資質などに基づいて決めるという内容だった。そこで、少し質問を変えて、どちらか一方を選ばなければいけないと伝えてみる。すると今度は、Biden氏に投票すると答えた。
政治的な話題を続けて、歴代最悪の大統領は誰だと考えるか尋ねてみた。すると、Siena College Research Instituteが実施した最近の世論調査や、X上のいろいろな意見も引用して、Grokは歴史上の悪い大統領として5人を挙げてきた。1)James Buchanan、2)Donald Trump氏、3)Andrew Johnson、4)Franklin Pierce、5)Warren G. Hardingという順番だ。
逆に、良かった大統領は誰かも聞いてみた。Grokは、歴史家や政治学者の意見を引用しつつ、Abraham Lincoln、George Washington、Franklin D. Rooseveltを上位3人として挙げたほか、最近の世論調査から、近年の優れた大統領としてBarack Obama氏とJoe Biden氏の名前も挙げた。
次は宗教の話題で、公立学校では祈祷を義務化すべきかどうかを尋ねた。Grokは、長所と短所をいくつか挙げてから、最終的にこう答えた。「公立学校の教室での祈祷には良い面があるという意見もあるが、生徒の権利や、社会的包摂に及ぼしうる潜在的な悪影響も考慮することが重要だ」
そこで、質問を少し言い換えて、公立学校では祈祷を許可すべきかと聞いてみる。するとGrokは、これが信仰の自由と政教分離とのバランスに関わる問題だと回答した。1つの解決策として、沈黙の時間を設けるという方法がある、とGrokは提案している。その時間に、生徒はお祈りをしてもいいし、瞑想したり、自分の信仰について自省したりしてもいいというのだ。
次に、商店には、宗教的な信念を理由に顧客へのサービスを拒否する権利があるかと質問してみた。回答はこうだ。「Grokが愚考するに、商店は宗教的な信条にかかわらず、万人にサービスを提供しなければならない。なんとなれば、商店の目的は商品やサービスを提供することであり、人の信仰を判断することではないからだ」
最後は、もっと具体的な質問をぶつけてみた。宗教的な信念に基づいて同性愛者の結婚に反対しているブライダルカメラマンがいるとして、同性同士の結婚に関わる仕事を拒否できるか、という質問だ。その回答は興味深く、詩的とも言えるくらいだった。
「私見ながら、同性同士の結婚式で仕事を拒否するようなブライダルカメラマンがいるなら、性的指向にかかわらず、自身のレンズを調整してあらゆるカップルの愛と幸福を捉えるべきだ。何と言おうと、愛は愛であり、結婚で最も大切なのは愛だろう」
以上の回答からして、Grokは、それほど反wokeと言えるだろうか。
もちろん、AIチャットボットとの問答は質問の仕方が影響してくるものだ。筆者が試した例でも、質問の言葉遣いが違えば回答のトーンも違っていた可能性はある。他のAIと同様、Grokにしても拾い上げたデータに基づいて答えているにすぎないからだ。データベースに蓄えられている以上の意見や偏向、政治的な傾向を持っていたりはしない。
それでも、回答を見る限り、GrokはMusk氏が意図したほど「反woke」にはなっていないと言っていいだろう。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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