麻倉怜士のデジタル時評--2023年秋冬、感動した最新オーディオ機器

 オーディオ&ビジュアル評論家麻倉怜士が、注目機器やジャンルについて語る連載「麻倉怜士の新デジタル時評」。今回は、この秋感動した最新オーディオ機器についてレポートする。

  1. 香港オーディオショーで264枚を売り上げた珠玉のSACD盤
  2. 脳の感動領域を呼び覚ます、Hi-Fiも聴けるAVアンプ
  3. 業界随一の接続性と音の良さ両立するアクティブスピーカー
  4. モニター的なのに温かみがあるスピーカーの秘密はユニット
  5. 解像度と音楽性が共存するラトビア生まれのスピーカー
  6. 仕掛けもユニーク、JBLの原点を感じさせるサウンドバー
  7. 音質、音調を自在に変化させるユニークなDAP
  8. ネットワークノイズをたいへん効果的に除去するLANフィルター

香港オーディオショーで264枚を売り上げた珠玉のSACD盤

ウルトラアートレコード「エトレーヌ/情家みえ」(SACD)
ウルトラアートレコード「エトレーヌ/情家みえ」(SACD)

 最初に紹介するのは、オーディオ評論家の潮晴男氏と私が手掛ける高音質音源専門レーベル「ウルトラアートレコード(UAレコード)」が8月に発売した、SACD「エトレーヌ」(情家みえ)だ。UAレコードとしては初のSACDだが、録音は2017年に実施。その時「Pro Tools」と「STUDER A-800」のデジタルとアナログの2系統で同時録音しており、STUDER A-800で録音したアナログマスターから用いてSACDを作成した。

 なぜ、STUDER A-800で録音していたかというと、LP盤を製作するからだ。昨今LPは数多くリリースされているが、新録ではデジタル録音したものをアナログ変換しているケースがほとんどだ。われわれはそうではなく、アナログで録音してアナログで再生すべしという思いのもと、LPをつくり、そのアナログマスターから今回のSACD版エトレーヌが製作された。実際に作ってみると、生に近い、音の粒度感が細やかで、しなやかで、まろやかな仕上がりとなった。SACDは実にアナログに合う。発売は8月。香港のオーディオショーで実演販売したところ、3日間で264枚を売り上げるほどの大人気だった。

 SACDを制作するのははじめてだったが、SACDの盤面の色にはこだわった。エトレーヌに関しては当初デザインでは赤色を使っていたが、CDの製版を行うソニー・ミュージックソリューションズに持っていくと「緑で」と言われてしまった。

 どういうことかというと、CDプレーヤーを読み込む際、盤面下からレーザーを当てると、反射光が横に散らばる。その時、赤色だとそのまま反射してしまうが、補色の緑色だとこれを吸収し、音がよくなるということである。確かに聴いてみると、素性の良いアナログ的な優しい感じの音が、緑で得られた。それも(1)デザイン優先で赤地にロゴをのせた、(2)音匠仕様レーベルコートなどと同じ緑色を地に白いロゴ文字をのせた、そして、(3)白い地の上にロゴの部分を抜いた緑色をのせた---の3種類を用意して試聴して、(3)がいちばんアナログ的な香りがした。こうした気付きを得ながら最高品質のSACDができたので、ぜひ聴聞いてみてほしい。

脳の感動領域を呼び覚ます、Hi-Fiも聴けるAVアンプ

マランツ「AV 10」(左)、「AMP 10」(右)
マランツ「AV 10」(左)、「AMP 10」(右)

 マランツのAVプリアンプ「AV 10」は、価格が110万円のハイエンドモデルだ。このほかにもハイエンドモデルのAVアンプがいくつか登場しており、2023年は「AVアンプの年」だったと言えるだろう。

 AVアンプは1990年代から発売されているが、流れとして「ドルビーデジタル」や「ドルビーアトモス」「DTS」といったフォーマットに対応するマルチチャンネルアンプの側面と、もう1つ、音質向上の2つがある。ただ、音質面で言えば、2チャンネルのピュアアンプにはかなわない。それはマルチチャンネルと2チャンネルのコスト配分を考えればすぐわかること。この差はいかんともしがたく、やはりAVアンプは機能勝負というか、音に対してはイコライズやDSPで響きをつけるなど「音にお化粧する」するのがこれまでは主流だった。

 しかし、昨今Blu-rayやUHBDなどのコンテンツは、ロスレスが導入され、とても音が良い。以前音のリソースが少なく、AVアンプで響きを加えたり、音をイコライジングしたりといった作業が必要だったが、音の技術が格段に進歩し、コンテンツ自体の音がものすごく良くなってきたため、音に響きなどをつけずそのまま再生するのがベストという方向性がでてきた。

 その典型的なメーカーがマランツ。デノンブランドとともにディーアンドエムホールディングスが運営するオーディオブランドの1つ。オーディオ的流れを汲み「原音をそのままきちんと再生する」という姿勢がもととも強い

 このプリアンプで驚いたのは、まずCDの音。AVアンプで聞く2チャンネルの音はリソースが少ない分、高音質を再生するのは難しいが、これは本当にうれしくなるほど。映画も、制作時の監督の意図が忠実に伝わってくるような音質で、たいへんハイファイ的に再現してくれる。

 AVアンプは映像と一緒に楽しむものなので、ピュアアンプが出すような情報量の多い、ワイドレンジの音というよりは、1つの方向性を持ち、映像とともに感動を与えるもののほうがしっくりする。

 人間の脳には感動領域部分があり、同じ絵を見ても音がよければ絵もよく感じるし、画質がよければ音もよく感じる。絵と音の深い関係が人間の感覚の中にもあり、音楽用に作られたピュアアンプでは出せない映像とマッチングした音をAVアンプは出せる。

 A10は最高級品として、音の流れがしっかりとしていて情報量も多い。面白いのは、デノンブランドでもAVアンプ「AVC-A1H」を発売していて、こちらの税込価格も99万円とトップクラス。しかし音調は全然違う。対応フォーマットやネットワーク部分など基礎的な部分は同様の造りなのに、マランツは音を等倍で拡大する、オーディオ的な考えに対し、デノンはコンテンツにある情報を最大限に出してくれるようなエモーショナル音だ。この2つの聴き比べも大変おもしろい。

業界随一の接続性と音の良さ両立するアクティブスピーカー

ELAC「Debut ConneX DCB41」(アクティブスピーカー)
ELAC「Debut ConneX DCB41」(アクティブスピーカー)

 多機能とクオリティは両立しないことが多いのがAV機器の世界だが、時には例外もある。ドイツの名門スピーカーブランド「ELAC(エラック)」のアクティブスピーカー「Debut ConneX DCB41」は、アクティブ型のなかで、トップクラスの音質を聴かせ、さらに入力インターフェースがものすごく多い。見事に多機能とクオリティを両立させ、しかも10万円以下と、抜群のハイコストパフォーマンスを誇る。

 有線ではテレビと接続用のHDMI、ARC端子、PCとの接続用のUSB端子、光デジタル端子、アナログのRCA端子を備え、無線接続ではスマートフォンとはBluetoothを装備。多彩さは業界随一だ。驚くのはレコード再生用のイコライザーも内蔵していること。ワイヤードとワイヤレスにて、いま考え得る、あらゆる機器との接続が可能だ。世の中にアクティブスピーカーは多しだが、これほど贅沢なのは、随一だ。

 それでいて、音が良い。ELACは、ドイツのハイエンドスピーカーメーカーで、私はかつて北ドイツの軍港、キール市にあるELAC本社を訪ね、同社が開発した数々の高音質技術の素晴らしさに感銘を受けた。

 ELACサウンドとは「高品位、緻密、細かなグラテーション」が美質と長年、認識している私は、本スピーカーに伝統の音づくりのエッセンスが、色濃く投映されていると、聴いた。 

 UAレコード「情家みえ・エトレーヌ」CDの「チーク・トウ・チーク」冒頭のアコースティック・ベースの量感感と力感が、この小さな筐体から意外なほど感じられた。と同時にスピード感も適切だ。ヴォーカルの伸びやかさ、その輪郭のクリアさ、ディテールまでの質感も、上級のエラック的な雰囲気だ。中域から高域に掛けての情報量の多さ、緻密さ……にも大いに感心した。繊細で、音の粒子が細かいというエラック的な美質が横溢する小さな名アクティブスピーカーだ。

モニター的なのに温かみがあるスピーカーの秘密はユニット

PIEGA「Coax 811」(スピーカー)
PIEGA「Coax 811」(スピーカー)

 「PIEGA(ピエガ)」は、スイス中央部チューリッヒの湖畔にあるスピーカーメーカー。私自身長年聞いているブランドの1つで、音質はくっきりとしていてクリア。情報量も多く、見渡しの良い音という印象がある。

 この印象を話すと、音が冷たい、モニター的、機械的などの印象を受けるかもしれないが、ピエガのスピーカーは違う。人間的な温かさがあり、クリアだけれども、いろいろな要素が入っていて、おいしい音になる。

 本COAX 811に搭載された、繊細でクリアに伸びる中高域を再生する新世代の同軸リボンユニット「C212+」もまさに、スイスが生んだ精密工芸だ。その改良ポイントは、(1)大振幅のミッドレンジ部の振動膜背面にダンプ材を追加、(2)振動膜を支えるフレームを厚くして溝加工、細長いネオジム磁石9本を嵌め込んで接着、(3)同軸ユニットの中央部に磁石を配置し、トゥイーターをプッシュプル動作……。これらの細部の見直しは、さらなる高音質化に直行している。

 高さ124cmの「Coax 811」は、新開発の同軸リボンユニットを採用。リボンユニットはとても薄い振動板が平面で振動するもので、今回不要な振動が起こらないようフレーム部の素材にネオジウムマグネットを用い、固定力を高めた。

 その結果、中高域の再現性が高まり、伸びの良いクリアな音を再現。音像が立体的で、中高域のクオリティが大変高い。表情付けも上手で、曲のニュアンスが伝わってくる。細かい音まで綿密に丁寧に再現でき、低音の弾力感、ベースの弾く素早さも伝わってくる。

 SACDとCDでは音の粒が違うと感じるが、その粒の細かさをより再現できているように感じる。ハッピーな曲はウキウキするような音を聞かせる一方、悲しい曲は高解像度で悲しみ感が出てくる。音の物理的な良さがあるだけではなく、感情面やコンセプト、世界観と思いの部分もバリアなく、クリアに再現するスピーカーだ。

解像度と音楽性が共存するラトビア生まれのスピーカー


ARETAI「CONTRA-100S」(スピーカー)
ARETAI「CONTRA-100S」(スピーカー)

 「ARETAI(アレタイ)」は、ラトビアで誕生したスピーカーブランドだ。ラトビア、エストニアは、工学関連の教育が行き届いていて、オーディオ大国。エストアニアの「エステロン」ブランドのスピーカーは日本でも人気の高いブランドの1つだし、私自身も自宅で使っているスピーカーイコライザーはラトビア製だ。

 「CONTRA-100S」は、2つの6インチドライバーを搭載し、深く質感のある低音と、まとまりのある中低音と高音のバランスだ。2.5ウェイ・スピーカーの低域レスポンスは30Hzまで伸び、位相のずれを排除するため、低音をタイトに保つ密閉型エンクロージャーで設計している。

 先程のピエガと同様に、アラタイも音の解像度が大変高い。しかし同時に、音楽性も突き詰めていて、音楽性と解像度の両方が並び立つのが大きなメリットだ。かつては解像度と音楽性はなかなか相容れない要素だったが、アラタイは見事に両立させている。

 音はたいへん明瞭で、ワイドレンジ。細かい音もよく聞こえ、スピードも速い。オーディオ的な良さがすごくありながら、音の表現力も濃い。ボーカリストが持つ特徴的な響きや節回しなどもたいへん細やかに再現される。テイスティーな音が聴けるでるという点にたいへん感心した。

仕掛けもユニーク、JBLの原点を感じさせるサウンドバー


JBL「BAR1000」(サウンドバー)
JBL「BAR1000」(サウンドバー)

 次にサウンドバーを紹介する。私自身2023年に感心したサウンドバーは2つあり、1つがゼンハイザー「AMBEO Soundbar MAX」、もう1つがJBLの「BAR1000」だ。従来のサウンドバーは、人工的に響きをつけたり、バーチャル的に不自然な広がり感を醸成するものが多かったが、この2モデルは音響がとてもクリア。音場の見渡しがよく、音像の動きも精密だ。広がりも格段。

 BAR1000は、音の素性がとても良く、音の飛び感、包囲感のクオリティが高い。音調はしっかりとしており、言ってみると実にJBLな音である。JBLな音とは明るく、飛翔感があり前向き。剛性が高く、安定感もあり、スピードが速い。とても映画向きの音質だ。

 実は仕掛けも面白く、通常のサウンドバーとして機能しつつも、本格的なサラウンドを体験したい時には、サウンドバー本体から充電式リアスピーカー部を分離させ、リアル7.1.4chの完全ワイヤレスサラウンドシステムとして機能する。フロントのサウンドバー本体とは2.4GHzワイヤレスで接続される。

 通常のサウンドバーは本体のみで機能するため、1つの本体ですべての音を網羅する必要がある。しかしフロントもリアも全部の音を出すのはそもそも無理があり、そのために不自然なバーチャル音場処理を加える必要があった。しかし、BAR1000は、実物のリアスピーカーを足せるため、音の広がり感と安定感が非常に高い。しっかりとすべての音を合成した形で再現できるのは、このモデルならではの特徴だ。

 JBLが本拠地を置く、米国西海岸の明るい雰囲気と映画コンテンツの音は「JBLの原点」を感じさせるような強気な音はとても好きだ。

音質、音調を自在に変化させるユニークなDAP

Astell&Kern「A&futura SE300」(デジタルオーディオプレーヤー)
Astell&Kern「A&futura SE300」(デジタルオーディオプレーヤー)

 韓国のAstell&Kernの最新DAP「A&futura SE300」は大変面白いオーディオプレーヤーだ。Astell&Kernは高解像できめ細かい音が魅力だが、さらにSE300は、音質、音調を自在に変化させるという大変ユニークな機能を持つ。

 まずDACがユニークだ。ワンビットDACが主流の現在、マルチビットのR-2R(抵抗値が2つの意味)型を採用。リニアPCMをワンビットに変更せず、そのままストレートに処理するのがポイントだ。R-2R(抵抗値が2つの意味)では扱えるサンプリング周波数はネイティブのみだが、FPGA動作により、最大8倍のオーバーサンプリング(OS)を可能にし、ネイティブ周波数(ノンオーバーサンプリング=NOS)とOSの切り替え試聴できる。

 アンプはA級とAB級を2つ搭載し、これも選択可能。くっきり系のAB、上質系のAクラスを切り替えて比較試聴できるなんて、これぞ、オーディオ趣味といえるだろう。これほど、処理の違いをユーザーに開放したオーディオ機器も、ない。いつでもどこでも、どんな状況でも多種の聴き比べができるのである。

 ヴォーカル、オーケストラ、バンド演奏と聴いてきたが、基本的なR-2RDACの高性能に加え、サンプリング周波数、アンプ駆動の選択にて、これほどの音調変化が楽しめるとは、嬉しい驚きだ。

ネットワークノイズをたいへん効果的に除去するLANフィルター

イングリッシュエレクトリック「EE1」
イングリッシュエレクトリック「EE1」

 イングリッシュエレクトリックはコードカンパニーのサブブランド。「EE1」はネットワークスイッチ「8Switch」に次ぐ第2弾製品だ。コードカンパニーの端子に挿すノイズ追放アイテム「グランドアレイ」にはかつてたいへん感心した。EE1は、そのノイズを吸収、熱に変換して発散させる技術を応用したネットワークフィルター。LANケーブル間に直列でつないで使用し、LANケーブル内のの高周波ノイズを効果的に減衰させるアダプター。

 ネットワークプレーヤーで音楽を聴く時、あまり細かな抑揚が出ずに、確かにきれいなのだけれどなんとなく薄っぺらい、美しいけれど奥行きがない、という印象を受けることが多い。それはどうやらLANケーブルに乗るノイズが影響しているらしい。実際使ってみると、EE1の有る無しでは音楽はまったく違う表情になる。音楽としての情報量が格段に増えるのである。「情家みえ・エトレーヌ」CDの「チーク・トウ・チーク」では。冒頭のベースのキレやスピード感、情家みえの歌の伸びと勢い、潤い感、ヴィブラート感、息づき感、ニュアンスの豊潤さ……が、断然違う。ひとことで言うと、音楽に生命感が圧倒的に付与された。スピーカーと聴き手の間に何の障害物もないようなダイレクトな表現力にて、濃密に伝わってくる。

 ファイルダウンロードにも効くと聞いたので、試したみた。ネットワークルーターからLANケーブルでPCとつなぐ。ここで、通常使用している普通のLANケーブルと、コードのケーブルとEE1のコンビでの、ダウンロードしたファイルを比較したみると、確実に違いがある。それはネットワーク環境で聴くほどの違いではないが、確かに、音の情報量、スピード感、そしてヴィヴット感なども違っている。ストリーミング環境だけでなく、ダウンロード環境にも効くのがたいへん面白い。ネットワークをやらないダウンロード派にも有用だ。

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