ソニーが「PlayStation 5(PS5)」の体験をテレビの外にも広げようと奮闘している。11月15日発売の「PlayStation Portal」(200ドル、日本では2万9980円)は、有線タイプのヘッドセット「PlayStation VR 2」ほど革新的ではないが、より財布に優しい選択肢となっている。PlayStation Portalがあれば、PS5がない部屋でもPS5からゲームをストリーミングしてプレイできる。
この数日間、PlayStation Portalを実際にプレイする機会を得た。まだ限られた時間しか試せていないため、暫定的な評価となるが、少なくとも操作性は素晴らしいと言える。ただし、ストリーミングの品質にはばらつきがあった。また、これが奇妙なデバイスであることも間違いない。「PlayStation Vita」などの携帯ゲーム機をいくつも生み出してきたソニーのゲーム部門が今回送り出した新作は、スタンドアロンの携帯ゲーム機のように見えて、そうではない。PlayStation Portalは単体では機能せず、すでにユーザーが所有しているPS5からゲームをストリーミングするリモートプレイ専用端末だ。PS5のコントローラーの真ん中に、ディスプレイが生えてきたとイメージしてもらえばいい。
初めて箱から出した時は、おかしな形だと感じた。こぎれいなデザインなのに、どこか間が抜けている。ゲームコントローラーを半分に割ったようなグリップの間に、タブレット風の平らなディスプレイが挟み込まれ、グリップ部分にはソニーらしい曲線があしらわれている。USB-C充電ポートは本体の下部に、まるで隠されているかのようにひっそりとたたずむ。特段、持ち運びがしやすいようには見えない。いびつな形をしており、持ち運び用のケースも同梱されていない。ディスプレイから突き出たグリップは、「バットマン」に登場するコウモリ型のブーメランのようだ。そもそも、このデバイスは自宅内で使うことを想定している。
PlayStation Portalは、任天堂が据置き型ゲーム機「Wii U」用に開発した「Wii U GamePad」のソニー版と言えるかもしれない。知らない人のために言っておくと、Wii U GamePadも自宅内のテレビのない場所でゲームをプレイするためのものだった。画質は申し分なかったが、Wii Uから離れすぎると動作しなかった。PlayStation PortalはWi-Fiネットワークとつながっている限り、どこででも遊べるが、ゲームのストリーミングに使われる「PSリモートプレイ」技術自体は、すでにスマートフォンやタブレットでも使えるものだ。
すでにスマートフォンやタブレットでもPS5本体からゲームをストリーミングして遊べるのに、あえてPlayStation Portalを買う必要があるのだろうか。巷には「Backbone One」など、スマートフォンに取り付けてゲームをプレイするためのコントローラーが流通している。これをPSリモートプレイと組み合わせれば、PS5用の携帯ゲーム機になるのではないかと思う人もいるだろう。実際に両方を使ってみて、はっきりと違うと言える点が1つある。Backbone Oneと比べると、PlayStation Portalの方が操作面の出来ははるかに素晴らしい。
PlayStation Portalが楽しいと感じるのは、この操作感のおかげだ。グリップ、ボタン、スティック――すべてがPS5の純正ワイヤレスコントローラー「DualSense」をそのまま再現している。ハプティック(触覚)フィードバックに対応し、トリガーを介して多彩な強さやを張力も体感できる。こうした機能は筆者のゲーム体験に大きな違いをもたらし、筆者の10代の息子がBackbone Oneのようなデバイスでゲームをしたがらない理由となっている。ほとんどの携帯ゲーム機は、据置き機用の標準的なコントローラーと同じ感覚を再現できない。しかし、PlayStation Portalは違う。
注意点として、ハプティックフィードバックに関しては、通常のDualSenseコントローラーと異なる点がある。モーター音がうるさくなる時があり、筆者がプレイしたゲームの場合、手に伝わってくる感触もDualSenseより繊細さに欠けた。それでもストリーミング方式の携帯ゲーム機でハプティックフィードバックを感じたのは初めてだ。
これまでに試した範囲では、PlayStation Portalには問題点もある。まず、PS5本体でプレイした時のような、ぬるぬるとした動きは体験できない。ストリーミングのフレームレートやなめらかさ、ゲームプレイ全般の質には、かなりのばらつきがあった。もちろん遊べないレベルではないし、筆者が使ったのは発売前の端末だ。ソフトウェアが今後改善される可能性もある。しかし、これまでの経験から言えば、ストリーミング品質は安定していない。
最初にプレイしたのは、スポーツゲームの「Madden NFL 24」だ。PS5がある部屋から2階下のフロアで遊んでみた。なぜかMadden NFL 24はプレイできる携帯ゲーム機が他にない(「Nintendo Switch」も「Steam Deck」も非対応)。ニューヨーク・ジェッツ対ラスベガス・レイダースのサンデーナイトゲームをプレイしてみたが、タックルをしたり、走ったりするたびに、期待通りの振動が手に返ってくることに感動した。ディスプレイは解像度1080pの液晶画面だが、鮮明に見えた。画面サイズは8インチあるので、文字もまあまあ読める。据置き機やPC向けのゲームをSteam Deckのような携帯ゲーム機でプレイする場合、文字が小さくて読めないという問題が起こりやすい。ストリーミングを開始してからしばらくたつと、かなりクリアで鮮やかな映像を楽しめた。しかし、フレームレートにはばらつきが見られ、プレイ中に突然映像が乱れて、タックルに失敗したこともある。
PlayStation Portalで特にプレイしやすかったのは「グランツーリスモ7」と「WipeOut Omega Collection」だ(子供たちは交代しながら夢中で遊んでいた)。ただし「グランツーリスモ7」については、コントローラーのモーションセンサーによるステアリング操作を無効にしなければならなかった。モーションセンサーによる操作はラグが大きすぎるようだ。フレームレートは快適にプレイできる水準に保たれていたが、PS5本体でプレイする時の方がタイミングの精度は高いと感じた。
内蔵スピーカーは悪くないが、ヘッドホンを使う場合は有線タイプのものを3.5mmジャックに差し込むか、ソニーの「PULSE Exploreワイヤレスイヤホン」または「PULSE Eliteワイヤレスヘッドセット」をUSBアダプターを使ってPS5と接続し、PlayStation Portalとつなぐしかない。Bluetoothに対応していない点は不満だ。
今回のレビューでは、PlayStation Portalと一緒に送られてきたPULSE Exploreを使った。PULSE Exploreは12月に200ドル(日本では2万9980円)で発売されるワイヤレスタイプのイヤホンだ。サイズはかなり大きい。また、PlayStation PoralにオーディオをストリーミングするためにPS5のUSBポートを1つ消費しなければならない。まだ試していないが、一般的なBluetoothイヤホンとしても使えるという。PlayStation Portalでは問題なく使用でき、音質も悪くなかったが、筆者は普段「AirPods Pro」を使っているため、特別に良いとも感じなかった。
PlayStation Portalの設定はシンプルだ。ペアリングのためにPS5とつなぐ必要もない。筆者の場合はQRコードからPlayStationのモバイルアプリにログインし、ローカルのPS5を見つけて接続するだけだった。明るさや接続を調整するメニューもあるが、できることは必要最低限の範囲にとどまる。
気になった点――そして操作面では最大の問題だと感じたのは、DualSenseコントローラーに搭載されているタッチパッドの再現度だ。PlayStation Portalにはタッチパッドがないため、代わりにタッチスクリーンが用意されている。しかし、その使い方が分かりにくい。PlayStation Portalのディスプレイには、タッチに反応する長方形のエリアがあり、そこが目印として光るのだが、まだ成功したためしがない。タップすればいいのだろうか。方法が分からなかったため、Madden NFL 24のプレイ中にクイックタイムアウトを呼び出せなかった。タッチパッド機能を多用するPS5タイトルをPlayStation Portalでプレイする場合は注意が必要かもしれない。
現時点では、まだ明確な結論は出せない。Backbone Oneの価格が約100ドル(日本では1万9800円)、PS5コントローラーの価格が約60ドル(日本では9480円〜)であることを考えると、ディスプレイ付きのPlayStation Portalが200ドルというのは、それほど法外とは思えない。その一方で、PlayStation Portalは絶対に必要なものではなく、ニッチ度がかなり高い。率直に言えば、ゲームをストリーミングできるリモートプレイ専用ディスプレイに専用コントローラーをくっつけただけの端末であり、きわめて限定的な用途しかない。操作性は良好だが、ストリーミング機能のせいで、少なくとも筆者の古いホームネットワーク上ではSteam Deckのような携帯ゲーム機はもちろん、場合によってはNintendo Switchよりも遅いと感じる。
PS5をすでに持っており、リモートプレイ用にいい携帯機が欲しかったという人なら、予算さえ合えば納得できる買い物になるかもしれない。それでも完璧に最適化された製品というよりは、実験的な製品に近いと感じるはずだ。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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