大人用おむつ販売の不を解消し、解約率が低く利益率の高いビジネスモデルに到達【後編】

 企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発に通じた各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」。引き続き、リブドゥコーポレーション 新規事業本部 新規事業推進部 部長の中村剛さんとの対談の様子をお届けします。

 後編では、排せつケアで困っている高齢者が既に数多く存在し、今後も確実に増えていく中で、周囲の理解が進まないというおむピタ事業が直面している壁と、そこを乗り越えてサービスを普及させていくための今後の展開について詳しく伺いました。

リブドゥコーポレーション 新規事業本部 新規事業推進部部長の中村剛氏(左)、フィラメントCEOの角勝氏(右)
リブドゥコーポレーション 新規事業本部 新規事業推進部部長の中村剛氏(左)、フィラメントCEOの角勝氏(右)
  1. ドラッグストアより高いという理由で止める人はほぼいない
  2. 営利の話をしても多忙なヘルパーの心には届かない
  3. フィッティングの価値がなかなか伝わらないことが課題
  4. 家族からの要望とケアマネからの提案がカギに
  5. “シニア”の解像度を高めて時代にフィットしたビジネスに

ドラッグストアより高いという理由で止める人はほぼいない

角氏:おむピタ事業を進めていく中では、新しい商品開発や販売展開のヒントもたくさん見つかりそうですよね。

中村氏:在宅介護を含め、ヒントはだいぶ溜まってきています。例えば介護中の部屋は独特のにおいになりますが、以前社内で消臭効果の高い素材を使ったおむつを試作したのですが、コスト面から販売を諦めていました。ところが訪問介護事業所でその話をしたら、「臭いを消すために2000~3000円の消臭スプレーを月に何本も購入しているお宅もある。おむつで臭いが軽減出来るなら月間のコストは下がるのでぜひ作って欲しいと言われたのです。現場に足を運んでヘルパーさんの声を聞くことは有意義だと感じます。

角氏:売り方の問題というのは確かにありますね。フィッティングサービスはデータを拾って要はコンサルをされる訳ですが、そこはお金を貰っていますか?

中村氏:いいえ。実はビジネスモデルを考えた時、在宅介護における排せつケアのアドバイジングを収益源にできないかと考えたのですが、それだけではサービスとして弱かったのでおむつの販売とセットのモデルにピボットしました。ただ利益率は、通常のドラッグストアに販売するモデルに比べるとはるかにいいです。

角氏:利用者はチャーン(解約)せず、ずっと使い続ける形になりますよね。相当いいビジネスモデルだと思います。

中村氏:継続してくださる理由は、在庫が減ってきた時にヘルパーさんが勧めてくれるからです。ヘルパーさんはラストワンマイルどころか、ラストゼロマイルの存在なので、ヘルパーさんが在庫をお知らせすると「頼んでおいて」となる。価格がドラッグストアより高いからという理由で止めるという人はほぼいません。

角氏:すごいところを見つけましたね。

営利の話をしても多忙なヘルパーの心には届かない

中村氏:でも最大の課題は、スケールしないことです。

角氏:訪問介護事業者を回ればいいのでは?

中村氏:全国に何万件もある事業者に私も僕も事業計画を作ったときは、「こんなに売上が見込めます!」と大風呂敷を広げていたのですが、目論見通りにはいかず……(笑)

角氏:何故ですか?

中村氏:訪問介護事業者の経営層は「いいサービスですね、やりましょう!」と賛同してくれるのですが、課題は現場です。「人の役に立ちたい」「助けてあげたい」という気持ちで仕事をしている方々なので、売り込むような行為に抵抗感があるようです。ヘルパーさんは利用者さんのお宅を訪問するので、我々も含めて多くの事業者が配達や物販に活用できるのではないかと目論むのですが、みんなうまくいっていないんですよ。だからケアマネさんやヘルパーさんには、営利の話はしないんです。「このサービスを採用することでご家族が喜ぶ」「本人に笑顔が戻る」などエモーショナルな話にしないと、行動変容につながらないとわかってきたところです。

角氏:経営視点ではそれは正しいし、もっと言うとヘルパーさんは重労働だから、そこを軽減するのも本来いいことですよね。

中村氏:日本のヘルパーさんはマルチタスクを求められていて忙しいので、ヘルパーさんにお願いする役割はしっかり選定したおむつを正しく使用してもらうことと、在庫のチェックをお願いしています。

角氏:そこでヘルパーさんを味方につけられるマジックが考え付くといいですね。

中村氏:そうですね、まだ狭いですが、事業者、利用者、ご家族に深く刺さるサービスになっています。契約事業者数は約150、事業所でいうと1000を超えているんです。

角氏:有望じゃないですか!事業所の管理職の方、つまりヘルパーさんを束ねている方で、営業代行にフィットしそうな人はいないんですか?

中村氏:いらっしゃいます。例えば関東近郊に展開する大手介護事業者でも、事業所毎にご利用者数に偏りがあります。要するに人なんです。このサービスが業務の効率化につながり、経営にも良い影響があり、ご家族からも感謝されて現場のモチベーションも上がる。そのように良い循環をご理解いただいているサービス責任者の方は積極的にサービスを推進してくださいますし、ヘルパーさんたちも上手く巻き込んでくださっています。そのようなキーマンの方が異動で他の事業所へ移られると、新しい場所でご利用者が増えるんです。なので、そういう人をいかに増やすかですね。

角氏:なるほどね。

中村氏:もう1つの要因が、人手不足です。特に訪問介護のヘルパーさんは全く足りていなくて、業務量も多い中で、さらに負担が増えるとなると、離職につながることがあるため、経営層としても言いづらいんです。そういうことも、やってみてわかりました。

フィッティングの価値がなかなか伝わらないことが課題

角氏:納得しました。僕だったら、これがどんなにいいサービスなのかを動画にします。特に事業所に対して、「これをみんなで見てくれたらインセンティブを出します」という形で。

中村氏:実はご家族と事業者向けに漫画を作っているんです。

角氏:ほう、これはいいじゃないですか。ポイントが簡潔にまとまっていて読みやすい。

中村氏:やはりわかりづらいんですね。Amazonと何が違うんだと。特にフィッティングの価値がなかなか伝わらない。ケアマネさんが集まるイベントで啓蒙もしていますが、ご家族側にどうサービスを認知していただくかが悩みどころです。困っている方はたくさんいらっしゃるので、認知してもらって契約に至るまでのハードルさえ乗り越えれば、続くことはわかったので。

角氏:どうやってこれを見てもらうかですね。ちなみにデータとか対比表は?

中村氏:そこも1つテーマだと思っています。将来的におむピタサービスを利用すれば快適に在宅での生活を過ごせる一助になることが証明できれば行政にもアピール出来るのではと考えています。行政にとっても介護保険料の抑制は課題です。排せつケアは在宅介護を長く続ける上で重要な要素の一つなので、そこをデータで証明し、発信したいと考えています。ただ、排せつケアって優先順位が低いんですよね。

家族からの要望とケアマネからの誘導がカギに

角氏:拡販戦略はどこまで考えていらっしゃいますか?

中村氏:今、両方向からのアプローチが必要と思っています。1つが全国の訪問看護・介護事業者さん向けの認知向上施策、もう1つはご家族向けです。後者は今広告代理店さんと作戦を練っています。サービスの本質が伝わればやりたいと言ってもらえると思うのですが、全国の訪問介護事業者様を全て網羅しているわけでもなく、ケアマネージャー様の認知度もまだこれから。その上で広告宣伝を見てくださった方に、どのように導線を作り、サービスにつなげていくか。その際にご家族からのご要望がポイントになります。

角氏:逆にケアマネからの提案もある?

中村氏:あると思います。ケアマネさんが一番のキーマンだと思っています。ケアマネさんは、排せつケアの相談をご家族から受けていますが、おむつに詳しい方ばかりではありません。おむつの特売情報などをご家族にお伝えしている方もいらっしゃるようです。しかし、選び方、使い方が正しくなければ本質的な課題解決にはなりません。そこで、モノ(おむつ)とコト(フィッティング)をセットでお届けする「おむピタ」をご家族に紹介していただければケアマネさんのご支援にもなると考えています。

角氏:経済合理性だけで動くのではない部分は読みにくいですね。

中村氏:いろいろ試してみて、わかってきたところです。すごく喜ばれている事業者さんからは、「ご家族から感謝されてモチベーションが上がった」とか、「迷惑をかけているという意識だったご本人が笑顔になった」とか、そんな話をいただけていて、やっていて良かったと感じています。

角氏:そこはインタビュー動画を撮ったほうがいいですよ。健康食品の体験談のCMと同じ構造で、苦労された感覚はリアリティを持って理解できますからね。経済合理性の話でないのなら、共感する部分をどう作るかです。例えばケアマネ向けのアピールとして、このおじいさんが毎晩漏らしていて辛そうだったがおむピタを勧めたら改善されたという体験談を語ってもらうんです。

中村氏:良いですね。ご利用者本人のインタビューは難しい部分もありますし。

角氏:ケアマネの動画をたくさん撮って、一番いい語り口の、人の心を打つ部分をコンパクトにまとめるとTVCMもできる。全国のケアマネが良いと言っていて、そこに対してコンサルに追加料金もかからない。本人も恥ずかしいとか迷惑をかけたという思いをせずに済むし、ヘルパーさんは他のケアに労力を使って質を高められるし、みんながハッピーになると。

中村氏:訪問介護事業者の方も、業務の効率化だけでなく、排せつケアに強い事業所となれば営業活動にもつながります。これからはより在宅でも中重度の方が増えて来ますので、排せつケアはより重要になります。その時に「排せつケアに困っているならうちに言って下さい」と言えるのは相当な差別化になるはずです。

“シニア”の解像度を高めて時代にフィットしたビジネスに

角氏:おむピタが大人用おむつのメインの販売モデルになる可能性もありますね。

中村氏:そうなりたいと考えています。ただ巻き戻して考えると、メーカとして販売しているおむつの正しい選び方をちゃんと伝えきれていないという話なのです。百人百様のケースがある大人用紙おむつについては、メーカーとして最大公約数的な選び方、使い方しか発信できない難しさがあるのですが、利用者個々に応じた提案に価値があると思っています。他社からは、「リブドゥは面倒なことをやっている」と思われるかもしれませんが……。これからはパーソナライズドが進み、自分に合ったものがレコメンドされるようになるので、このサービスはフィットすると考えています。

角氏:よく新規事業を考えるときに、「シニア向けの高齢者ビジネス」という言い方をする人がいますが、今の日本では大半がそこに相当します。それは、全国民向けのサービスを作ることと同じくらい解像度が低いことなんです。そこから解像度を上げていって、誰にどんな価値を提供するかをしっかりと定義していくということをまさに中村さんはされていると思います。

中村氏:在宅の困りごとは他にもたくさんあるので、今やっている取り組みをフックにしてもっと広げていきたいですね。1社ではできないから、他業種の会社と一緒に組んでやりたい。そんな会社がARCHにはたくさんいますし、期待しています。

角氏:おむピタはすごいですよ。今までもさまざまな会社の新規事業を拝見してきましたが、このサービスはこれからの時代にめちゃくちゃフィットしていると思います。現場のヘルパーさんの感覚とはずれますが、すごく儲かる気がします(笑)

中村氏:私もそのつもりなんですけどね(笑)。

リブドゥコーポレーション
おむピタ

【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】






角 勝


株式会社フィラメント代表取締役CEO。


関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。



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