フォトシンスと美和ロックの合弁会社であるMIWA Akerun Technologiesは10月5日、「Akerun.M(アケルン・エム)キーレス賃貸システム」が、第一生命グループの総合不動産会社である相互住宅の新築賃貸マンション「フレンシア御徒町」に導入されると発表した。同マンションは、2023年12月に竣工予定だ。
Akerun.Mキーレス賃貸システムは、マンションなどの賃貸物件の内見、入居、退去までの管理業務を、スマートロックとクラウドを活用して効率化するサービス。管理会社は、物件の内見者に物理的な鍵を貸し出して立ち合いをする必要がなくなり、日次の暗証番号の配布での対応が可能になる。退去時も、ウェブ上の管理システムから退去者のデジタル鍵権限を削除すれば、入居者が入れ替わるたびに発生していた鍵交換作業が不要になる。一方、入居者は、物理鍵を持ち歩く必要がなくなりスマートフォンアプリやICカードでの施解錠が可能になるほか、操作履歴も確認でき、家族や友人とインターネット経由でデジタルな合鍵を共有できる。
1945年に創業した老舗企業の美和ロックと、2014年に創業したスタートアップのフォトシンスが手を組み、MIWA Akerun Technologiesを設立したのは2021年。同じ「鍵」分野で事業を展開する両社のオープンイノベーションはどのように実現し、発展していったのか。MIWA Akerun Technologiesで取締役を務める宮本敦氏と小田達氏に、協業を成功させる秘訣を聞いた。
日本政府はコロナ禍以降、成長戦略の1つとしてオープンイノベーションを推進している。しかし、事業展開のスピードアップや開発費などの費用を抑えられるといったメリットがある一方で、異なる企業文化を持つ組織同士が結びつくことによってコミュニケーションコストが増大するなどのデメリットも知られている。このような背景がある中で、両社のオープンイノベーションはどのようにして始まったのか。
「MIWA Akerun Technologiesを設立する前から、美和ロックの社内でフォトシンスの存在は知られていた。フォトシンスには、スタートアップながら真面目に事業を積み重ねている企業というイメージを持っていた」と、宮本氏は振り返る。
オープンイノベーションの話が持ち上がったとき、数あるスマートロックベンダーの中からフォトシンスを選んだ理由は「価値観が似ていたから」。コストを過剰に重視することなく、長く安心して使ってもらえるものを提供していきたいという美和ロックの思いを、同じく商品の品質を重視してきたフォトシンスが受け止めた。実際に協業を開始してからも、対立したりギャップを感じたりすることはほとんどなかったという。
同じ「鍵」分野で事業を展開しているため、両社は競合だと捉えられることもある。しかし当事者としては、業界内での立ち位置が違うため、協業を開始するにあたって、互いが競合だという意識もそれほどなかった。
「フォトシンスはオフィスのアクセスコントロールなどに関するサービスを展開している企業で、美和ロックは建築業界で鍵を作っている企業。同じ『鍵』の分野で事業をしていても、ビジネスモデルはちょっと違う」(宮本氏)
ミッションステートメントである「時代を経ても変わらない安心を、変わるライフスタイルに快適さを」を作るにあたって、両社の思いをどのように表現するかで話し合うことはあったが、やはりもともとの価値観で共有できる部分が多かった。歴史ある企業とスタートアップの組み合わせながら、基本的には同じ方向を目指して歩みを進めることができたという。「オープンイノベーションを成功させる秘訣があるとしたら、もともとの価値観が近い企業同士で手を組むことかもしれない」と、宮本氏は語った。
互いの事業に対してリスペクトを持ち合えたことも、オープンイノベーションが実現した理由の1つ。美和ロックは製品のほとんどを国内にある自社工場で生産しており、フォトシンスの代表らが三重県の玉城工場を訪れたときは、規模の大きさや品質検査のレベルの高さに感銘を受けたという。
「工場の裏側を見せるなど、防犯性や信頼性をどのように担保しているかは、当たり前のことだと思っていたためこれまであまり発信してこなかった。ところが、扉開閉耐久試験や塩害対策試験、結露に対する性能試験などをサイト上でいざ公開してみると、お客様に新鮮な驚きを持っていただけた。これはMIWA Akerun Technologiesとして、美和ロックがフォトシンスと手を組んだからこそ得た気づきだと思う」(宮本氏)
市場からは、2社の組み合わせを好意的に受け止められていると感じるという。美和ロックとしては、これまで自社が重点を置いてきた耐久性や信頼性の担保に関して、合弁会社を設立して以降も大きく身構えることなく、姿勢を変えていない。引き続き品質を重視した商品を提供し、MIWA Akerun Technologiesとして得た知見があれば、商品にフィードバックしていくつもりだという。
MIWA Akerun Technologiesはこれから、どのように事業を展開していくのか。
「今ではよく見かけるようになったが、かつてホテルなどに導入されたカードキーは画期的だった。宿泊期間中しか有効でないことでセキュリティ上の安全性も高くなったし、ホテルのフロントデスクも、それまでの物理的な鍵の管理業務から解放された。MIWA Akerun Technologiesでも、こういったイノベーションを起こしていければと思う」(宮本氏)
事業開発担当の小田氏によると、住宅まわりのDXに対するニーズは近年、どんどん高まってきているという。スマートロックの導入を検討中、保留中としていた管理会社も、近年は導入実施に踏み切るところが増加している。周辺を見渡しても、物件の電子契約が可能になったり、オンラインで内見ができたりする賃貸住宅が登場している。こういった市場の多様なニーズに応えられる商品を展開していくことを、MIWA Akerun Technologiesも目指していくという。
「エンドユーザーである入居者のお客様はもちろん、その賃貸管理会社のDXの一端を担うサービス提供企業として貢献したいと考えている。両社が同じ方向を向き、合弁会社のシナジーを発揮しながら、今後も市場をけん引していきたい」と、小田氏は展望を語った。
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