筆者は、2016年モデルの「MacBook Pro」で初めて出会ったデータ転送および充電用ポートのUSB Type-C(USB-C)が大好きだ。
AppleがUSB-Cを「iPad Pro」に初めて採用した2018年、筆者は「iPhone」にもUSB-Cを採用してもらいたいと思った。Appleがローエンドの「iPad」にUSB-Cを広げた2021年には、筆者はさらに楽観的になった。そして、規制が製品開発を方向づける最善の手段だとは思わないが、欧州連合(EU)がAppleをUSB-C採用の方向に動かしたことに不満はない。
だが、ここで悪いニュースがある。米国時間9月12日に発表される見込みの「iPhone 15」シリーズでUSB-Cのエコシステムに参入するとみられる大勢の人々は、この技術の悪い面にも遭遇することになるだろう。
デバイスの側面にあるUSB-Cポートとそこに差し込むケーブルから生じる問題をめぐる混乱のせいで、USB-Cの実用性と柔軟性は損なわれるおそれがある。簡単に説明すると、高速のデータ転送や高速充電のための大きな電力について、デバイスやケーブルがその両方に対応しているのか、あるいはどちらにも対応していないのかが、必ずしも明白ではないのだ。
うわさが正しければ、iPhone 15のUSB-Cポートおよび同梱される充電ケーブルは、ユーザーにちょっとした問題をもたらしそうだ。そのケーブルは、充電には問題なく使えるが、データ転送速度は2000年に登場したUSB 2.0規格レベルの低速度である480Mbpsだと報じられている。
この問題は、大半のユーザーにとっては単に不便というだけだろう。だが、コストを低く抑えておこうとする圧力が強く、認証は必要としないという広大なUSBエコシステムの難しさを示している。USB-Cは、iPhoneユーザーが2012年から利用してきたAppleのLightningポートより、かなり高速で便利な接続技術だが、Appleの顧客は、居心地の良いLightningの世界を離れる苦痛に耐えなければならないだろう。
本記事についてAppleにコメントを求めたが、回答はなかった。USB-C採用のiPhoneが本当に登場すれば、この主要な変更について、同社がどのように説明するのかを聞く機会を得られるだろう。
USBの問題の1つは、この用語が実際には3つの異なる規格を指していることだ。
元々の規格であるUniversal Serial Busは、デバイスが自らを識別し、接続を介してデータを送信する方法を規定する。1996年に登場したUSBは最高速度が12Mbpsだったが、USB 2.0は480Mbpsと利便性がはるかに高まり、プリンターやUSBドライブにも使えるようになった。それ以来となる大幅な高速化が実現したのは2008年のUSB 3.0で、5Gbpsと、外付けHDDに適した速度になった。その後も10Gbps、20Gbpsと高速化を重ね、最も新しいUSB4では40Gbpsに達した。次期USB4 Version 2.0は80Gbpsに達すると見込まれている。これはハイパフォーマンスストレージシステム(HPSS)、高速ネットワーク、大型の高解像度モニターに使える速度だ。
次の規格はUSB-Cで、あの楕円形のコネクター技術を指す。USB-Cが登場した当時、「Android」スマートフォンではデータ転送速度が遅いUSB 2.0しかサポートしていないのが普通だったが、USBのバージョンが進むにつれてこの問題は解消している。最新のUSB規格であるUSB4にはUSB-Cポートが必要なため、時間の経過とともにUSB-Cは高速と同義と見なされるようになるだろう。
最後がUSB PD(USB Power Delivery)で、USBを使って最大240Wの給電に対応できる方法を規定している。ほとんどのデバイスはそれほどの電力を必要としないが、電気に関する問題(例えば、ポータブルバッテリーからノートPCに給電するべきか、あるいはその逆にするべきか)について、どのような取り決めにしておくかを把握する必要がある。
USB、USB-C、USB PDという3つの規格があるために、あらゆるデバイスやケーブルの能力を把握するのが難しくなっている。
さらに悪いことに、コストを削減して製品を迅速に出荷しようと取り組んでいる多くのデバイスメーカーは、USBの仕様を管理する業界団体USB Implementers Forum(USB-IF)が提供する認証プロセスを経ていない。最新のUSBに準拠した高速データ転送規格であるIntelの「Thunderbolt」とは異なり、認証テストに合格する必要があるわけではない。
USBケーブルの価格が15ドル(約2200円)で済むところを、60ドル(約8800円)も出したいと思う人はいないだろう。しかし、注意してほしい。概して、得られるのは支払った金額相応のものでしかない。高速データ転送や急速充電に対応するケーブルを作れば、コストがかさむ。一般論として筆者の経験から言えることだが、「充電ケーブル」とうたっているケーブルは、わざわざ追加のコストをかけて高速データ転送に対応させていない。Appleが数年にわたって「MacBook」に同梱していたUSB-Cケーブルも例外ではない。
筆者が目にしたある手頃な価格のケーブルはUSB4製品とうたっていたが、よく調べてみると、USB 2.0のデータ転送しかサポートしていなかった。これは、メーカーが混同しているか、嘘をついているか、あるいは低速なデータ転送しかサポートしていなくてもUSB4対応ポートで動作するケーブルだと主張しているかのいずれかだろう(USBは下位互換性に優れているため、低速の古い製品を新しい製品に接続しても、おおむね問題なく動作する)。
筆者はケーブルが遅いという問題にはあまり苦労していない。ほとんどの場合は充電にUSB-Cを使用しており、高速な接続が必要なデバイスは、高速なケーブルにつないだままにしている。
しかし、問題は起こりうる。数カ月前、キヤノンのミラーレスカメラを新調したとき、旅先で遅いケーブルを使う羽目になり、写真をノートPCに転送するプロセスがかなり滞ってしまった。
今後iPhoneユーザーになる人にとっての朗報は、ほとんどの人がケーブルの遅さをあまり気にする必要がなくなるということだ。
かつて「iTunes」を使ってノートPCとiPhoneの間で音楽や写真を同期していた頃は、データ転送速度は今より重要だった。5000万画素のスマートフォンカメラや4K動画によって写真や動画のファイルサイズが爆発的に大きくなっても、ほとんどの人はケーブルではなく、モバイルネットワークやWi-Fi、「AirDrop」を使ってスマートフォンからデータを取得している。
これが、AppleがiPhone 15にUSB 2.0ケーブルを同梱して問題ないと考えた大きな理由だろう。
何GBもの4K ProRes動画を撮影するような、データを大量に消費する人にとっては、より高速なケーブルは便利だ。実際、筆者がiPhoneのLightningポートにいら立っている理由の1つでもある。このようなユーザーは、ニーズを満たす高性能なケーブルを選ぶだろう。または、もしうわさが正しければ、AppleがiPhone Proモデルに同梱する、より高速なケーブルを使うことになるだろう。
筆者はUSB-IFの認証試験に合格したUSB-C製品を好んでおり、Plugableなどの企業が認証を示すラベルを付けてくれるのを歓迎している。
自分で製品を比較するのが不安な場合は、Appleの販売スタッフに、サードパーティー製品よりも高価であっても、一般的に相性の良い、より高性能な純正USB-Cアクセサリーを紹介してもらうこともできる。
AppleがLightningポートに切り替えたとき、Lightningがそれ以前のかさばり、壊れやすい30ピンコネクターよりも優れていることは明らかだったにもかかわらず、多くの不満の声が上がった。グローブボックスやオフィスのデスク、通学用のバックパックやベッドサイドテーブルにしまっていたケーブルが時代遅れになったことに人々が気づくにつれ、iPhoneのUSB-Cへの変更にはさらなる不満が出ることが予想される。
しかし、USB-CがMacBookや多くのiPadに限らず、すでに非常に広く普及しているという点は朗報だ。最新の「Android」スマートフォン、「Windows」ノートPC、「Nintendo Switch」、「iPad Pro」「iPad Air」、ソニーのノイズキャンセリングヘッドホンなど、膨大な数のデバイスに搭載されている。私たちの多くがすでに予備のUSB-Cケーブルを持っている可能性が高い。
筆者は、USB-Cの柔軟性や性能を利用できるなら、移行の痛みが伴っても構わない。しかし、その痛みがそれほど大きくないことを祈ろう。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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