日本の水インフラ問題に立ち向かう「Water 2040」プロジェクト--官民連携で次世代へ

 独自の小規模分散型水循環システムなどの開発を手掛けるWOTA(ウォータ)は、愛媛県、東京都などの複数自治体、日本政策投資銀行、ソフトバンクなどと連携し、「Water 2040」プロジェクトを実施すると発表した。人口減少、上下水道の老朽化の加速により、上下水道財政が大幅に悪化していく2040年までの解決を目指す。

「Water 2040」プロジェクト
「Water 2040」プロジェクト

 WOTAは、水問題の構造的な解決を目指すスタートアップ。2014年に創業し、断水した被災地に自律分散型水循環システム「WOTA BOX」を用いたシャワーを提供したり、「公衆手洗い場」として水循環型ポータブル手洗い機「WOSH」を設置したりと、水問題の解決に乗り出している。

 WOTA 代表取締役CEOの前田瑶介氏は「WOTAは水問題解決のためだけの純粋な会社を作ろうという思いからスタートした。災害時の広域断水など、災害時でも水に困らない日本にしたかった。すでに災害現場で2万人以上の方に使っていただいたが、ここ2~3年で自治体の方から『災害時だけでなく、日常の上下水道問題を一緒にとりくんでくれないか』というありがたい言葉をかけていただいた」と立ち上げから現在までの経緯を説明する。

WOTA 代表取締役CEOの前田瑶介氏
WOTA 代表取締役CEOの前田瑶介氏

 Water 2040は、日本の上下水道財政問題における解決策の一つとなり得る小規模分散型水循環システムを自治体に実装し、実証実験していくというもの。その背景には、日本の逼迫した水道事情がある。

 日本政策投資銀行 常務執行役員の原田文代氏は「人口増に対応するための水源確保として配管、水処理施設を開発してきた日本の水道事業は、2021年度に普及率98.1%を達成。しかし給水人口は2010年をピークに減少し、料金収入は減少している。一方、設備投資額は増加しており、水道を維持するには多額の費用負担が必要になる。水道事業は給水人口減による収入減と建設投資額の増加のバランスをとり、見極めることが大事」と現状を説明する。

日本政策投資銀行 常務執行役員の原田文代氏
日本政策投資銀行 常務執行役員の原田文代氏

 小規模分散型水循環システムは、使った水をその場で処理し、また使える水に戻す再生循環の仕組みを構築。雨水に熱処理、殺菌処理などを加え、飲用水や生活用水として利用するほか、生活排水やトイレ排水も各処理を施して再利用できる。

 小規模分散型水循環システムは、住宅設備として導入し、家単位で使えることがポイント。「現在の水道は浄水場から離れた地域に長い配管を整備して届けているがこの配管コストが高い。配管が長いにもかかわらず配管費用を負担する人口が少ない地域では、収支のバランスが難しい。小規模分散型水循環システムは、配管が必要ない分財政メリットも大きい」(前田氏)と説く。

小規模分散型水循環システムの概要
小規模分散型水循環システムの概要

水で苦労してきた利島村、愛媛県に小規模分散型水循環システム導入

 今回のWater 2040では、東京都利島村に小規模分散型水循環システムに太陽光発電や通信などを組み合わせた、オフブリッド型居住モジュールを設置。加えて愛媛県の3つの市にも、小規模分散型水循環システムを備えた住宅を用意する。

 いずれも、水問題には苦労してきた土地柄とのこと。利島村長の村山将人氏は「利島村は川がなく、雨水のみを活用し、水に苦労してきた島。海水を淡水化するシステムにより水の供給は大幅に改善されたが、高額なランニングコストとメンテナンスが課題になっている。今回の小規模分散型水循環システムでは日常生活にどう利用し、安定供給できるかを検証している。今後は公共施設などにも実装していきたい」とした。

オンラインで登場した利島村長の村山将人氏。利島は円錐形で平地が少なく、住宅供給も難しい環境だという
オンラインで登場した利島村長の村山将人氏。利島は円錐形で平地が少なく、住宅供給も難しい環境だという
小規模分散型水循環システムに太陽光発電や通信などを組み合わせた、オフブリッド型居住モジュール
小規模分散型水循環システムに太陽光発電や通信などを組み合わせた、オフブリッド型居住モジュール

 一方、愛媛県 デジタル変革担当部長(兼)出納局長会計管理者の山名富士氏は「雨が少なく、1日19時間の断水を2カ月続けたこともある。節水意識は高い」と愛媛県について紹介。水道事業については「水道給水区域でないところにも人が住んでおり、そこに住む人たちは自前で水を確保している。住民の高齢化もあり、このやり方には限界がくる」(山名氏)と現状の課題を話した。

愛媛県 デジタル変革担当部長(兼)出納局長会計管理者の山名富士氏
愛媛県 デジタル変革担当部長(兼)出納局長会計管理者の山名富士氏

 すでに8月から小規模分散型水循環システムを1軒の住宅に導入しており、秋には2軒を追加する計画。1年間はデータをとり、そのデータを新たな商品開発につなげる。

 WOTAのビジョンに共感し、共に厳しい局面も乗り越えてきたという、ソフトバンク デジタルトランスフォーメーション本部第一ビジネスエンジニアリング統括部統括部長の河本亮氏は「水質、水量不足、人材不足と多くの課題を持っているのが日本の水インフラ。巨大なため職員によるメンテナンスが必要になるが、職員数は1980年代のピーク時に比べ4割減で、インフラ維持が難しくなっている。維持するためには値上げが必要で、現時点でも地域格差が生まれており、過疎地域と都市部では9倍ほど料金格差が出ており、この動きは拡大していく見込み」と厳しい現状を説明。その上で「WOTAのシステムは非常に合理的で抜本的解決策になり得る。ただ、この課題を解決するのは民間だけでは難しい。地域特有の課題認識を持つ自治体と一緒に推進していく体制が必要になる」(河本氏)とした。

ソフトバンク デジタルトランスフォーメーション本部第一ビジネスエンジニアリング統括部統括部長の河本亮氏
ソフトバンク デジタルトランスフォーメーション本部第一ビジネスエンジニアリング統括部統括部長の河本亮氏
WOTA
プレスリリース

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