ライドシェア解禁論、なぜ急浮上?--「タクシーでは移動の需要に応えきれない」の声も

 「Uber」などに代表される、いわゆるライドシェアサービス。海外では多くの国や地域で普及が進む一方、日本では依然「白タク」行為として禁止されている。だが最近、再びその解禁論が浮上しつつあるようだ。日本でライドシェアが禁止されるに至った背景と、今後の解禁の可能性について考えてみよう。

なぜ日本でライドシェアの禁止が続いているのか

 ライドシェアとは、スマートフォンアプリを通じて、移動したい人と車を運転するドライバーをマッチングして相乗りできるようにするサービスだ。乗客は車に乗せてもらうことで移動ができるし、ドライバーは乗客を乗せることで報酬が得られることから、両者がWin-Winになるという発想の元に生まれたサービスといえる。

 同サービスの草分けとなったのが米ウーバー・テクノロジーズの「Uber」である。Uberはスマートフォンアプリから簡単にライドシェアを手配できるのに加え、ドライバー側もスマートフォンアプリから登録をすることで、隙間時間に移動サービスを提供してお金を稼げる、いわゆるギグワーカーとして手軽に収益を得られることから人気となり、米国などで急速に普及するに至った。

ライドシェアサービスの草分け的存在となる「Uber」。2018年にはソフトバンクグループが出資し、一時は筆頭株主となっていた(その後売却)
ライドシェアサービスの草分け的存在となる「Uber」。2018年にはソフトバンクグループが出資し、一時は筆頭株主となっていた(その後売却)

 しかも、ライドシェアアプリは配車した時点で乗車にかかる料金が分かる“明朗会計”なのも特徴だ。外国でドライバーが無駄に長距離を走って運賃を稼いだり、メーターに細工をして“ぼったくり”をしたりすることもできない。加えて、乗客とドライバーが互いに評価する仕組みも備わっており、評価の低いドライバーが排除されやすくなっている。

 そうしたことから、元々タクシーのサービスの品質が低く、利用者が不満を抱いていた国や地域で高い支持を集めるようになり、現在では移動に欠かせない手段となっている地域が多い。実際Uber以外にも、国や地域によってさまざまなライドシェアサービスが存在しており、代表的な所では米国の「Lyft」や中国の「DiDi」、東南アジアの国々でサービス展開している「Grab」などが挙げられる。

東南アジアで人気の「Grab」はライドシェアサービスで大きな成功を収めたのを機として事業を拡大、現在はフードデリバリーや金融、決済など幅広いサービスを提供している
東南アジアで人気の「Grab」はライドシェアサービスで大きな成功を収めたのを機として事業を拡大、現在はフードデリバリーや金融、決済など幅広いサービスを提供している

 ただその規模が大きくなるにつれ、移動をシェアするというより、タクシーの競合としての意味合いが強いサービスとなっていったのも確かだ。それゆえUberが台頭した2010年代前半には、世界的にライドシェアサービスに対するタクシー事業者との軋轢が生じるようになり、国によってはライドシェアを法律で禁止する動きも強まっていった。

 日本もそうした国の1つと言える。日本では元々、一般のドライバーが営利目的で他の人を運ぶことが、道路運送法によっていわゆる「白タク」行為として禁止されており、ライドシェアサービスを合法的に提供するには法律を変える必要があった。

 だが、日本では元々タクシーのサービス品質が高くライドシェアに対するニーズが海外ほど高くなかったのに加え、海外での急速なライドシェアの普及に危機を覚えたタクシー業界側が、ライドシェアサービスの上陸に猛反発。それに加えて、2015年にウーバー・テクノロジーズが福岡でライドシェアの実証実験「みんなのUber」を実施したものの、国土交通省から道路運送法違反の可能性を指摘され、中止を余儀なくされるといった事業者側の失策もあって、ライドシェア解禁の機運が盛り上がらなかった。

 そうしたことから日本では現状、ライドシェア事業者もライドシェアを諦めてタクシー配車サービスとしての展開を余儀なくされている。実際ウーバー・テクノロジーズは日本においていくつかのタクシー会社と提携し、Uberアプリをタクシー配車アプリとして提供している。またDiDiを運営する滴滴出行も、日本ではソフトバンクとの合弁でタクシー配車サービスを提供している。

中国ではライドシェアサービスを提供する「DiDi」も、ライドシェアが禁止されている日本ではソフトバンクとの合弁により、タクシー配車サービスとして展開している
中国ではライドシェアサービスを提供する「DiDi」も、ライドシェアが禁止されている日本ではソフトバンクとの合弁により、タクシー配車サービスとして展開している

 同様に、法律とタクシー業界の反発によって新しいモビリティサービスが本格提供に至らないケースがあった。それが「AIオンデマンド交通」と呼ばれるものだ。

 同サービスは、スマートフォンで乗車を予約し、指定の場所から乗車・降車ができる、いわば「バスとタクシーの中間的なサービス」だ。AI技術で需要を予測することで効率的な運行ができる点も特徴となっている。

 AIオンデマンド交通は国土交通省が導入に向け取り組みを進めているもので、WILLERとKDDIが合弁で設立したCommunity Mobilityが運営する「mobi」などが事業化に向け事業展開を進めている。だが、こちらも道路運送法第21条に基づき乗合運送許可を得て運用する必要があり、その期間は原則1年以下と定められていることから長期間のサービス提供は実現できていない。また、一部地域ではタクシー業界の猛反発によって、事業の延期を余儀なくされたケースもある。

WILLERとKDDIが合弁で展開しているAIオンデマンド交通サービスの「mobi」も、法規制とタクシー業界の反発によって本格的なサービス展開が進められない状況が続いている
WILLERとKDDIが合弁で展開しているAIオンデマンド交通サービスの「mobi」も、法規制とタクシー業界の反発によって本格的なサービス展開が進められない状況が続いている

現行のタクシーでは「移動の需要に応えられない」が明白に

 そうした状況にもかかわらず、なぜ最近になって再びライドシェア解禁論が出てきているのかといえば、その理由はタクシー側にある。

 コロナ禍で大幅に需要が減少したタクシーだが、コロナ禍が徐々に明けるとともに人流が回復して移動のニーズが拡大しているのに加え、円安の影響もあって海外からの渡航者が増え、インバウンド需要も再び盛り上がりつつあることから、再びその需要が高まってきている。

 だがその一方で、少子高齢化による労働人口の減少などからタクシードライバーが不足しており、需要が高まっているにもかかわらずタクシー会社側がその需要を満たせなくなっているのだ。その状況は少子高齢化の影響が大きい地方ほど深刻で、筆者も過去に地方でタクシーを呼んだところ、ドライバーがおらず配車にかなりの時間を要したという経験をしたことが何度かある。

 需要と供給のミスマッチの結果として懸念されるのが、海外からの観光客をターゲットとした、外国人による海外製ライドシェアアプリを使った白タク行為の横行だ。このことはコロナ禍以前から問題視されていたものだが、国としてインバウンドに力を入れており、今後一層外国人観光客の増加が見込まれるなか、タクシー不足が外国人観光客の不満を呼んで違法なライドシェアの増加へとつながる可能性は否定できない。

 タクシー会社側が高まる需要に応えられない以上、違法行為を増やすことなく高まる移動の需要に応える最適解となり得る唯一の策がライドシェアの解禁であることから、再びライドシェア解禁論が盛り上がりつつある訳だ。

 政府側にもライドシェア解禁に関心を高める動きが出てきているようで、2023年8月19日には菅義偉前首相が講演でライドシェアの解禁に向けた議論に意欲を示したとの報道がなされている。

 もちろんライドシェアを解禁するとなれば、日本では利便性より最重要視される安全の確保を主体とした法整備のあり方に加え、「Uber Eats」などのフードデリバリーサービスでも関心を呼んだ、ギグワーカーに関するさまざまな問題も浮上するだけに一筋縄ではいかないだろう。

 だが、ライドシェアに猛反発してきたタクシー業界側が需要に応えられないことが明白となり、そのことが日本の観光政策に大きな影響を与えつつある以上、ライドシェアの導入に向けた議論の再開は避けられないのではないだろうか。

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