【BTW RADIO】日本最大級のミニトマト生産拠点は雇用も生み出す--たねまき常総前田亮斗氏

 テクノロジーを活用して、ビジネスを加速させているプロジェクトや企業の新規事業にフォーカスを当て、ビジネスに役立つ情報をお届けする音声情報番組「BTW(Business Transformation Wave)RADIO」。スペックホルダー 代表取締役社長である大野泰敬氏をパーソナリティに迎え、CNET Japan編集部の加納恵とともに、最新ビジネステクノロジーで課題解決に取り組む企業、人、サービスを紹介する。

 ここでは、音声番組でお話いただいた一部を記事としてお届けする。第2回のゲストとして登場いただいたのは、茨城県に日本最大級のミニトマトの生産拠点を構えるたねまき常総の代表取締役社長兼CEOである前田亮斗氏。ソフトバンクグループの子会社であるたねまき、そしてたねまきが一部出資して設立されたたねまき常総が目指す、テクノロジーを活用し、持続可能な農業の実現、雇用創出による地域活性化への貢献などについて聞いた。

たねまき常総の代表取締役社長兼CEOである前田亮斗氏
たねまき常総の代表取締役社長兼CEOである前田亮斗氏
栽培風景。収量は年間約1000トンを予定している
栽培風景。収量は年間約1000トンを予定している

夜中にロボットが半分収穫し、朝になったら残りの半分を人間が収穫するという仕組みを目指す

加納:たねまき常総は、どのような事業を展開している企業なのでしょうか。

前田氏:ミニトマトを栽培しています。日本だとおそらく最大規模、およそ7ヘクタールの敷地面積でミニトマトを栽培し、販売するところまでを手がけています。

大野氏:たねまきと、たねまき常総という会社があるんでしょうか。

前田氏:そうです。たねまきとたねまき常総の2社がありまして、私はたねまき常総でCEOを務めています。

大野氏:たねまきとたねまき常総は、どのように役割が違うんですか?

前田氏:現状ですと、たねまき常総は茨城県の常総市にある農場で、ミニトマトを栽培して販売するところまでをやっています。たねまきとしては、大規模な農園を全国で少なくとも10カ所以上展開していこうと考えていて、そのための農業経営支援やテクノロジーの研究開発を行っています。たとえば、スマートフォンを従業員が見れば自分がどこにいてどれくらいのスピードで作業すればいいのかわかるようなソフトウェアや、ミニトマトを収穫するロボットを開発しています。

大野氏:たねまき常総はミニトマトを作っていく会社、たねまきはテクノロジーを使って効率的に収穫していく方法やロボットを開発していく会社、という感じでしょうか。

前田氏:そうですね。現状はそのような形で役割を分担しています。

加納:最近はスマート農業のお話を聞く機会も多いですが、他社と比べると、たねまき常総はどういったところに独自性があるのでしょうか?

前田氏:現状はシンプルに、ミニトマトを作って販売しているモノ作りの会社だと捉えてもらっていいと思います。ミニトマトという農産物自体は家庭菜園でも作れるようなコモディティなものですし、日々改善を行っているとはいえ、プロダクト単体のみで圧倒的な差別化要素を築くのは難しいと考えています。それよりはもう少し広く、安定的にプロダクトを供給することや、より品質の高いものを供給することが価値になると思っています。プロダクトだけではなく、営業だとかサプライチェーンも含めて、お客様に安定的に供給していける体制を作っているところが強みです。

栽培しているミニトマト
栽培しているミニトマト

大野氏:たねまきがテクノロジーを駆使しながら実施しているスマート農業は、具体的にはどういったものなんでしょうか。

前田氏:大きく2つ開発していまして、1つは自動化に関する開発です。メインで言うと、ミニトマトの収穫ロボットを作っています。国内外でミニトマトの収穫ロボットを作っているところはほかにもあるのですが、いくつかのパターンがあります。房どりのままブドウのように収穫するロボットを開発しているところ、あるいはオランダなど海外に多いのですが、細長くてプラム型と呼ばれている品種を、ヘタがない状態で収穫するロボットを開発しているところもあります。我々が開発しているのは、日本でいちばん流通しているいわゆる丸形のトマトを、ヘタがついた状態で収穫できるロボットです。ヘタがついた状態で収穫するのは難易度がいちばん高いんですが、頑張っているところです。

 目指している世界観としては、人間が収穫するスピードに追いつくのは難しいのですが、ロボットなので24時間稼働させることが可能です。なので、夜中にロボットが1日の収穫すべき量の半分くらいまでを終わらせてくれていて、朝になったら残りの半分を人間が収穫するといった、そんなところを目指して開発をしています。

 もう1つ開発しているのがソフトウェアのプロダクトで、端的に言うとSaaSのようなものです。従業員はパート社員が大半を占めているんですが、その従業員専用のアプリで、1人1人がスマートフォンを見て、その日の自分がどの位置でどういった作業をしなければならないのかがぱっと見てわかるような仕組みになっています。かなり広い農場なので、この位置でこういう作業をして、どれくらいのスピードでやるといいのかなどが、実績として取れる形になっているんです。SaaSと言ったのは、裏側で従業員1人1人の作業の進捗データが管理者側で見られるような仕組みになっていて、進捗に応じて作業の割り当てを変えたり、進め方を変えたり、作業が終わりそうでなければ人手を追加したり、そういった管理判断を容易にできるような仕組みを開発しています。

大野氏:これまで農業に触れてこなかった人でも従業員専用のアプリを使うことで作業を行いやすくして、さらにアプリケーションがあることで管理者側のマネジメントもしやすくなるという感じでしょうか。

前田氏:はい、そうです。

加納:ロボットと人間が共存しながら働くんですね。

前田氏:まだ開発中の段階なので完成しているわけではないのですが、目指している世界観としてはおっしゃる通り、人とテクノロジーが上手く共存共栄するような形です。さきほどお話した通り、ロボットが人間と同じくらいのスピードで作業できるようになるとか、作業のすべてをロボットなどのテクノロジーが代替できるようになるかというと、それはまだ現場の肌感覚としては難しいと思っています。ただ、人がやらなくてもいいことをテクノロジーが代替したり、人がやるべきことをテクノロジーを用いることでより早く、より楽にしたりはできると考えています。そういった意味で、最適な混ぜ具合で共存できるところを探して実装していくことを目指しています。

大野氏:自動化を進めて、あまり農業に触れてこなかった人でも作業ができるようにし、効率的にマネジメントできるようになると、農業の担い手不足や農業従事者の高齢化などの問題解決にも関わることができそうです。現場の方々のお話を聞くと、やはり今、若い人たちの参入などは少なくなってきているんでしょうか。

前田氏:我々も、今は拠点が1カ所しかないのですべてを把握できているわけではありません。しかし、いろいろな農場さんや同業他社さんに見に来ていただいたり、我々も勉強のため行かせてもらったりしていますが、やはりどこも若者に限らず、人手不足はとても懸念されているポイントです。なので、中長期的には非常に問題になってくると思います。そういった中長期的なところを見据えて、さきほどお話したような開発を行っています。

 いろいろな農場さんや同業他社さんに見に来ていただいて、我々も勉強のため行かせてもらっていますが、やはりどこも若者に限らず、人手不足はとても懸念されているポイントです。なので、中長期的には非常に問題になってくると思います。

大野氏:ミニトマトの栽培拠点は、稼働するとだいたいどれくらいの規模の雇用を創出できる可能性があるのでしょうか。

前田氏:我々の施設に関しては、敷地面積で言うとだいたい7ヘクタールほどで、現在は正社員で20名くらい、パート従業員で160名くらいです。全体で180名くらいの規模で運営しています。

大野氏:かなり大きな規模ですね。これによって地域の活性化にもつながるのではないかと思うのですが、そのあたりの反響はいかがですか?

たねまき常総の外観。敷地面積は約7ヘクタール
たねまき常総の外観。敷地面積は約7ヘクタール

前田氏:雇用を作っていくことは、創業時から大切にしていたポイントです。少し相反するような話になってしまうんですが、雇用を作ると言っても体を使うような仕事ですと、どうしてもたくさん作業ができる、めきめき働けるような方を採用したいというのがどこも本音だと思うのです。そういった観点では、相対的にご高齢の方は採用されにくくなってしまう傾向があるかもしれません。その中で我々が、年齢にとらわれず活躍してもらえる場を作れたことは、近隣の方や自治体の方にも喜んでいただいていると思います。また子育て中の方、短時間で働きたいという方にも働いていただいています。個人の家庭の事情や、働きたい時間に合わせて仕事ができる、ニーズに合った雇用を作れていることもプラスになっていると思います。

大野氏:地域社会の雇用にも今後貢献できる可能性があることは、1つの大きな特徴ですね。

 お話をお聞きしていると、今回のような施設園芸では、重油などのエネルギーが高騰化している中で、エネルギーコストが上がってきてしまうことも問題かと思ったんです。ここはどのように対策されているんでしょうか?

前田氏:我々は従来から施設園芸でよく使われている重油ではなく、LNG(液化天然ガス)を採用しています。しかし構造的にはあまり変わらず、世界情勢の変化からLNGも価格が高騰しているため、対応は経営課題の1つです。

 エネルギー対策のために具体的に何をやっているかと言うと、1つはLNGを使い、トリジェネレーションを行っています。LNGを使ってお湯を沸かし、熱を作るのと同時に電気を発電しているのです。CO2も出ますが、そのCO2をミニトマトの光合成に活用しています。また外壁も、普通は農業用のビニールやフッ素樹脂のフィルムが使われますが、より断熱性の高いポリカーボネートを使って、暖房費が削減できるようにしています。環境制御装置を入れて、センサーを農場の中に張り巡らせ、温度や湿度などのいろいろなデータを取ってコンピューターで自動制御できるような仕組みも整えています。そういったところでしっかりとコントロールし、エネルギーコストが跳ね上がらないようにしています。

加納:LNGを活用して電気を生み出し、CO2の排出も役立てているという、循環型の仕組みができているんですね。

前田氏:そうですね。一般的な農業や施設園芸に比べると、やはり化石燃料の削減などは意識していると思います。また事業継続の観点から、仮に停電して電気が届かなくなっても、LNGのガスさえあれば最低限の設備は動くように設計にしています。環境面からもエネルギー不足の面からも、持続可能性については対応しています。

高騰する肥料等に対する対策は

大野氏:肥料も今、高騰化していると思います。対策はどのようにされているんでしょうか。

前田氏:1つは、さきほどもお話したように環境制御で対策をしています。成り行きでやるのではなく、どのタイミングでどの量を与えるかをコントロールしているのです。もう1つは、廃液のリサイクルですね。水やりをしますが、植物がすべてを吸収するわけではないので、吸収しきれなかった分が廃液として排出されます。その廃液をもう一度殺菌したり、肥料の成分を組み替えたりして、もう一度水やりに活用しています。

大野氏:海外のメーカーの廃液リサイクルの仕組みなどを導入されているということでしょうか。

前田氏:そうです。当社独自のものというわけではなく、海外のものを利用しています。

大野氏:お話を聞くと、設備投資に非常にコストがかかっている印象がありますし、現在はエネルギー費や原材料費も高騰しています。それでもビジネスとして成立している、あるいは成立するような計画でやられていると。

前田氏:もちろんです。出資元の一定の基準の中で収益性を見られ、承認をもらって進めています。たねまき常総はモノを作って販売するシンプルなビジネスで、投資が回収できて利益が出る計画です。しかしそれだけで終わるつもりはなく、生産拠点を横展開していくことや、さきほどお話したロボット、あるいはソフトウェアの仕組みなどを、できればパッケージ化して展開していきたいという思いもあります。実際、今個別にニーズもあるので、そういったところに販売していくことで別のビジネスを立ち上げるやり方もあるかもしれません。もしくは、他の農場で作ったミニトマトやお願いして作ってもらった野菜を仕入れ、それをスーパーマーケットやチェーンの方に販売するなど、いろいろなビジネスが展開できると思っています。さまざまな広がりを見越してはいますが、繰り返すように、自分たちがモノを作って販売するという足元のビジネスでもきちんと回収できる計画にはしています。

大野氏:出口をしっかり抑えているところが重要なポイントなのでしょうか。

前田氏:安定的な供給はポイントの1つです。たとえば、ミニトマトの市場相場ってけっこう波があるんです。春先は路地で栽培するものとハウスで栽培するものが両方たくさん出まして、季節もいいので価格がどんと下がります。一方で、9~11月の秋口は、価格が一気に跳ね上がります。基本的に夏は暑すぎて、ビニールハウスの中が40~50度になってしまうので、ハウス栽培ができないんです。北海道や山の上など、涼しいところでしか栽培できないんですね。それに対して、我々はマーケットが大きい首都圏の近郊で、夏も含めて安定的な出荷を目指しています。この通年供給が、お客様に評価されているところです。

 農業業界の構造的な課題の1つだと思うんですが、販売をしているお客様から、生産をしている方までの距離がすごく遠いんです。要は、サプライチェーンがとても重たい業界なんですね。いろいろな市場や、JAさん、流通業者さん、商社の方など、たくさんのプレイヤーが間に入って、多くはスーパーマーケットを中心とするチェーンストアの店頭に並び、そこで最終消費者のエンドユーザーの方が購入するという構造になっています。我々は基本的に、スーパーマーケットに営業をして、直接取引をしています。なので少なくとも月に1回、スーパーやドラッグストアのバイヤーさんとコミュニケーションする機会があります。そこでいろいろなフィードバックをもらったり、実際に店舗を見せていただいたりして、アドバイスや課題をもらって、商品の開発に活かしています。

 音声情報番組「BTW(Business Transformation Wave)RADIO」では、このお話の続きを配信しています。このあとは音声にてお聞きください。

大野泰敬氏

スペックホルダー 代表取締役社長
朝日インタラクティブ 戦略アドバイザー

事業家兼投資家。ソフトバンクで新規事業などを担当した後、CCCで新規事業に従事。2008年にソフトバンクに復帰し、当時日本初上陸のiPhoneのマーケティングを担当。独立後は、企業の事業戦略、戦術策定、M&A、資金調達などを手がけ、大手企業14社をサポート。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会ITアドバイザー、農林水産省農林水産研究所客員研究員のほか、省庁、自治体などの外部コンサルタントとしても活躍する。著書は「ひとり会社で6億稼ぐ仕事術」「予算獲得率100%の企画のプロが教える必ず通る資料作成」など。

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