KDDIは7月28日、2024年3月期第1四半期決算を発表。売上高は前年同期比1.4%減の1兆3326億円、営業利益は前年同期比10.3%減の2667億円と、前年度から一転して減収減益の決算となった。
ただ、代表取締役社長の高橋誠氏は、同日に実施された決算説明会で「通期予想に対して想定通り」と話す。その理由は減益要因にあり、主な減益要因の1つが金融事業で会計処理変更による一時的な影響であることと、もう1つの減収要因である楽天モバイルからのローミング収入の減少幅が当初より縮小する見込みだからだ。
実際、KDDIは楽天モバイルと5月に新しいローミング契約を締結。高橋氏は、その影響によって当初通期で600億円規模を予想していたローミング収入の減少幅が「100~200億円規模で改善される」と説明した。まだ楽天モバイル側と詳細部分で議論は続いているというが、第1四半期のペースで進めば400億円程度に減少することが見込まれる。
加えて、政府主導による料金引き下げの影響もようやく落ち着きつつあり、マルチブランド総合ARPU収入も、5Gの契約増やauブランドの月間平均データ利用料増加などによって、前年同期比での減少幅が29億円にまで縮小。100億円規模の減少が続いていた2022年度と比べ大幅な改善が進んだことから、高橋氏は「上期中の反転を目指す」と意気込む様子を見せている。
一方、成長領域に位置付けるビジネスセグメントの「NEXTコア事業」は、IoT関連の好調などによって売り上げ・利益がともに2桁成長を記録するなど、好調を維持。金融事業も顧客基盤が順調に拡大しており、それが「au」の解約率減少にもつながるなど、好循環をもたらしているという。
ただ、今四半期は、楽天モバイルの「楽天最強プラン」やNTTドコモの「irumo」「eximo」など新料金プランが相次いで開始しており、競争は厳しくなっている。だが、高橋氏は、競合他社の新料金プランによる影響は「今の段階では出ていない」と答えており、大きなインパクトは起きていないとの認識を示している。
そのKDDIも、「UQ mobile」ブランドで新料金プランを提供している。高橋氏は、他社の新プランの内容が従来の料金プランから大幅に変わったことで「現場に落とし込むのに若干時間を要した」と話すが、現在はそれも落ち着き好調に推移しているとのこと。中でも、容量が大きい「トクトクプラン」「コミコミプラン」の比率が上がっており、高橋氏は「顧客から好感触を得ていると思っているので、ますます力を入れて販売していく」と答えている。
一方で、大きく落ち込んでいるのが端末販売だ。今四半期のKDDIの端末出荷台数は127万台と、前年同期比で42万台も落ち込んだ。大きく落ち込んだとされる2022年度から一層落ち込んでいる様子がうかがえる。
この点について高橋氏は、為替の影響や政府の端末値引き規制などで高額の端末の流動性が落ちており「少し懸念している」と回答。現在、総務省がいわゆる「1円スマホ」と呼ばれるスマートフォンの大幅値引きを規制する新しいガイドラインの策定を進めており、高橋氏も「転売ヤーの不適切な取引がなくなるのは非常にプラス」と評価する。
一方で、「もう少し(端末の)流動性を上げていかないとARPUのアップにつながらないし、5Gの浸透率にも課題がある」とも話しており、今後も総務省に対し流動性を高めるための施策を要求していく考えを示した。
その端末販売減少を受け、5月には同社の大株主である京セラをはじめとして、国内のスマートフォンメーカーが端末販売不振から相次いで撤退、破綻する事態が起きている。この点について高橋氏は「国内メーカーの採算性が厳しくなっているのは申し訳ないし、残念だと思っている」と回答。つながりが深い京セラとは今後、法人向けの事業で協力を進めていきたいとしている。
通信に関連してもう1つ、6月21日に総務省が新しいプラチナバンドとなる3MHz幅の700MHz帯の割り当て指針を発表しているが、その内容が楽天モバイルに非常に有利なものとなっている。この点についても高橋氏は「隣接しているバンドなので全く出さないのもどうか」と、獲得の検討は進めていると言及しつつも、「偏った選考基準になっているな、というのが率直な印象としてある」とも回答している。
KDDIは今回の決算に合わせる形で、2つの発表を実施している。1つはトヨタ自動車が保有する同社の株式公開買い付けを実施することであり、その金額は2500億円に上るという。
KDDIは、トヨタ自動車系の通信事業者だった日本移動通信(IDO)が前身の1つであることから元々関係が深く、近年ではコネクテッドカーの世界展開などで協力関係にある。2020年にも追加投資をするなど深い関係にあるが、トヨタ自動車側が今後EVやAIなどに取り組むための資金を必要としていることから売却に至ったと見られる。高橋氏によると、売却の申し出はトヨタ自動車側からとのことだ。
ただ、高橋氏は、トヨタ自動車側はこれ以上株式を売却する考えはなく、両社の関係に変化はないとも説明。コネクテッドカーなど共同で取り組んでいる事業は今後もしていくとのことだ。
そしてもう1つは、KDDIが持つケーブルテレビの関連事業を、連結子会社であるケーブルテレビ大手のJCOMに承継することだ。KDDIはケーブルテレビ事業者に対して「ケーブルプラス電話」などの通信関連サービスやソリューションを提供しているが、事業承継によってそれらをJCOMに集中させることとなる。
その理由として高橋氏は、1つにケーブルテレビ事業の効率化を挙げている。JCOMは、2013年にKDDIが、住友商事と共同で買収する形で傘下に収めた。両社はそれ以前から別々で、全国のケーブルテレビ事業者に対してサービスやソリューションを提供する状況が続いており、それらを一本化する狙いが大きいようだ。
そしてもう1つ、JCOMが放送からインターネットへと、成長の軸を移していることも背景にあるとのこと。高橋氏は、ケーブルテレビの事業をJCOMに集中させることでその成長を支える狙いもあると説明している。
他にもKDDIは、5月18日にNTTから取得する形でインターネットイニシアティブ(IIJ)への出資を発表しており、シナジー創出に向けて両社での議論や人材交流などを進めているとのこと。一方で、そのIIJの株式をKDDIに譲渡したNTTが、完全民営化に向け自民党での議論が進められていることに対して、高橋氏は「完全民営化が競争阻害につながる重要な議論なので、しっかり関心をもって見ていきたい」と回答している。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス