競合他社や地域と「共存」の道を選び、SDGsやサステナビリティを重視するゼブラ企業は、ここ数年注目されてきた企業の新しい価値観だ。群れをなし、お互いが協力し合いながら暮らす、ゼブラ=シマウマのような企業は、ユニコーン企業のように決して多くの注目を集めるものではないが、地域に根ざし、周りの人と手を組みながら、事業を遂行する。そんなゼブラ企業をサポートし、社会実装に導いているのがゼブラ アンド カンパニーだ。8月には、ゼブラ企業」が分かるガイドブック「ゼブラ企業カルチャー入門」も発売した。
「日本には数多くのゼブラ企業があり、自分たちがゼブラであることを認識していない会社も多い」と現状を話す、ゼブラ アンド カンパニーの共同創業者/代表取締役で、米国Zebras Uniteの役員理事も務める田淵良敬氏に、ゼブラ企業とはなにか、そしてこれからどんな風に社会を変えていくのかについて聞いた。
――数年前から耳にする機会が多くなったゼブラ企業とは、どういった企業を指すのでしょうか。
社会課題の解決や、持続可能な社会を作ることを重視した取り組みをする企業のことです。特徴の一つとしては、長期的で多様なステークホルダーへの影響を考えた目線で経営を行っていることがあげられます。そのため「起業から3〜5年で上場します」みたいな成長軌跡を描くとは限らないし、そもそも、起業家自身がそういった成長を志向していない可能性もあります。じっくりと事業と向き合いながら、社会にとって良いことを目指す、そういった企業のことを指します。
私自身は元々、まだ日本でインパクト投資という言葉が今ほど普及していなかった頃から海外でインパクト投資(財務リターンとともに、社会的、環境的インパクトも同時に生み出すことを意図する投資)の事業に関わっていました。
スタートアップへの投資というと、どうしても数年という短い期間で会社を伸ばし、事業も大きくすることを考えがちで、インパクト投資の世界でもそれは例外ではありませんでした。ただ、実際、起業家の方と話したり、仕事をしたりすると、成長だけを思い描いていないというか、投資家から見る起業家と実際の起業家の間にものすごくギャップを感じたんです。彼らが目指しているのは、社会的な意義というか、社会の役に立ちたいという思い。上場してイグジットしたいという、とおり一辺倒の感覚とはちょっと違うかなと考えていたときに出会ったのはゼブラ企業のコンセプトでした。
――ゼブラ企業という考え方自体はどこから生まれたものですか。
米国の「Zebras Unite」(ゼブラズユナイト)という組織が生み出したコンセプトになります。Zebras Uniteの創業者は4人いて、全員が女性。彼女たちに会う機会があって、話しを聞いてみると、私自身が抱えていた問題意識とほぼ同じだったんですね。そこで、日本でもこれを展開したいと話して、持ち帰ったのがゼブラ アンド カンパニーのきっかけです。
――実際、スタートアップへの投資もされていますが、ベンチャーキャピタルと異なる点は。
より長期的な視点で取り組んでいる点ですね。短期的に利益を上げることだけを見ているのではなく、どうすれば会社が成長するのか、ステークホルダーとどんな関係を築けるのか、そういったことを起業家と共に考えています。
いわゆる投資家の方たちは、投資に専念しないといけないと思いますが、私たちは投資にとどまらないエコシステムみたいなものを作って行きたいなと思っています。
――投資しているゼブラ企業はどんなところがあるのでしょう。
現在3つの企業に出資していて、うち2つが日本企業、1つが海外の企業になります。日本企業のうちの1つは福島県に拠点を置く、「陽と人(ひとびと)」という会社で、2022年に「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」の地方創生部門を受賞しました。
女性のデリケートゾーンをケアするオイルやミストなどを手掛けるフェムテック領域の企業なのですが、主原材になっているのが、福島県で作られる「あんぽ柿」の製造工程で出てくる柿の皮なんです。福島は果物栽培が盛んで、多くの農家の方がりんごや柿、桃といった果物を栽培しています。あんぽ柿も特産品の1つですが、加工される過程で剥かれる皮は廃棄物になってしまっていた。しかし柿の皮から抽出した成分である「カキタンニン」には天然の消臭、収れん効果があり、活用ができる。そこに着目し作ったのが、トータルケアブランドの「明日わたしは柿の木にのぼる」です。
もともとは捨てていた柿の皮が、農家の方にとっては新たな収益源になる。また、農家の高齢化や働き手不足が進む中で、収穫しきれない柿もあり、そうした柿も無駄にせず、新たな商品生まれ変わらせるという地域の社会課題を解決できる取り組みになっています。
立ち上げたのは、小林さん(陽と人 代表取締役の小林味愛氏)という女性で、震災をきっかけに福島に行くようになって、ご自身の問題意識を醸成しながら起業した形ですね。雇用もしているので、福島へのインパクトも出てくる。かなり長期的なスパンで考えているビジネスになりますが、福島にいたからこそ立ち上げられた事業だと思っています。
一朝一夕には変わらないものですけれど、陽と人のように社会構造にまで踏み込んで、時間をかけて事業を展開していく。そういうビジネスを応援したいと思っています。
――ゼブラ アンド カンパニーの動きは中央省庁や地方自治体の方たちとのつながりも強いと聞きますが。
経済産業省や金融庁、内閣府の方などにお話させていただき、理解していただいていますね。特に相性が良いのは地方自治体で、そこには数多くのゼブラ企業が存在しています。少し前までは地元のユニコーン企業をサポートしようというような政策が多かったのですが、実際にユニコーン企業が地元にいる確率ってかなり低いですよね。
さらに突き詰めていくと、地域の企業には、長期的な目線を持っていたり、従業員や地元の住民など幅広いステークホルダーへの影響を考慮しながら経営されている企業も多くあります。そういう意味ではゼブラ企業のコンセプトは米国で生まれたものですが、日本にはとてもマッチしています。実際、地方の老舗企業の2代目などの後継ぎの方とお話する機会も多いのですが、彼らは起業家ではないのですが、ゼブラ企業のコンセプトを話すと、まさしく自分たちだと言われるケースも多いですね。
そうした人たちのありたい姿を表す言葉がなかったところにゼブラ企業というコンセプトがうまくハマった感じがしています。
――今後、ゼブラ企業を広めていくための施策を教えてください。
いろいろな方とコラボレーションしたり、パートナーシップを組んだりして、多くの方と一緒に広めていきたいと思っています。先程お話した地元の老舗企業みたいなケースもそうですが、地域との相性はかなりよいと思っていて、そういう意味で、地元の金融機関の方にもリーチしていきたい。地銀や信用金庫はどの地域にも必ずあって、ミッションは地域を良くするということですよね。そういう意味で相性はとてもよいかなと思っています。
ゼブラ企業って、ものすごく新しいものをゼロから作り出すみたいな感覚はあまりなくて、どちらかというと、元々あったものの再発見や再発掘かなと思っています。違った角度からスポットライトを当ててみたら、新しいアイデンティティが浮かび上がってきたというのに近いのではないかと。地元の企業を今までとは違ったリフレーミングをすることで、ゼブラ企業というものを生み出せる。そう考えると日本の中にはゼブラ企業がたくさんあるんです。
企業って出資を受けると、株式を手渡して外部の方に株主になってもらうことになり、一度手渡したものを会社の意思だけで簡単に変更することは難しくなります。つまり、容易に後戻りできなくなるということなので、早い段階で、長期的な視点を持ちながらどんな方に株主になってもらうかやどのくらいの意思決定権をお渡しするかなどを考えながら、会社の資本構成や財務計画を考えていく必要があります。
ゼブラ アンド カンパニーでも、こういった今後どういった株主を仲間にしていきたいか、資本や意思決定のあり方を設計することをご支援するZebras Finance Designというサービスを作りました。
私たちは、自ら出資をして株主になるだけでなく、こうしたサービス提供も含めてゼブラ企業をもサポートしていきたいと思っています。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
地味ながら負荷の高い議事録作成作業に衝撃
使って納得「自動議事録作成マシン」の実力