新規事業の立ち上げを支援し、伴走するRelicホールディングスが、2022年に立ち上げたRebootus(Reboo+)(リブータス)は、事業の撤退やピボットといった、踊り場にある事業の行く末を共に考え、その先を指南する。その手法について、Rebootus 代表取締役CEOの太田優輝氏、Relicホールディングス 代表取締役CEO、Founderの北嶋貴朗氏、Relic 取締役CRO Co-Founder兼CAMPFIRE ENjiNE 代表取締役の大丸徹也氏に聞いた。
――設立から約1年が経過したRebootusですが、事業内容について教えてください。
北嶋氏:Relicホールディングスの戦略子会社として、新規事業の再挑戦、再成長といった部分を支援できないかと始めたのがRebootusです。事業性はあるけれど、やめざるを得なくなったり、なかなか思うような成長ができなかったりと、事業を推進していく中にはいろいろなハードルがあります。そのハードルを乗り越え、なんとかリブート(再起動)したいと考えている事業を、私たちが引き受ける役割を担っています。
Relic自体は、イノベーションを民主化するという思いの下、新規事業にチャレンジする数を増やすこと、成功確率を高めることを目的に取り組んできました。それでも新規事業はうまくいかないことがある。私たちはこの8年、多くの新規事業にかかわりながら、良質な多産多死が重要だと考えてきたのです。
事業を作る側、多産はここ最近のブームに乗り、動き出していますが、その一方でうまくいかない事業も出てくる。どうしようかと踊り場を迎えた時に支援してくれる場所がほとんどないのが実情です。ただ、踊り場の先を手掛けるのは、事業を閉じるにしても、譲り渡すにしても本当に大変です。やり方がわからず、手当たり次第にやってしまうと担当者が退職してしまったり、やる気をそいでしまったりと、よくない形で終わってしまうことも多い。同様に閉じるべきタイミングなのに、リビングデッドの状態で続けてしまうこともあります。現状の新規事業は「多死」がうまく回せてないと感じています。
――立ち上げた事業の踊り場の先を見極められれば、より良い新規事業が生まれてくるということですか。
北嶋氏:そうですね。セーフティネットというか、再チャレンジしやすい仕組みを作るのは非常に大事だと思っています。その仕組みが構築できればもっと挑戦者は新規事業に挑戦しやすくなる。そんな思いで立ち上げたのがRebootusです。この運営を誰にお願いしようかと考えた時に、真っ先に思い浮かんだのが太田(Rebootus 代表取締役CEOの太田優輝氏)でした。
太田氏:私は元々DeNAのEC事業本部で新規プロダクトやサービス開発、既存プロダクトの開発、運営の責任者を務めてきました。その後、葬儀、終活領域のスタートアップである「よりそう」で、システム部長を経て、自ら起業し、多くの事業を生み出しました。約4年間取り組んできましたが、振り返って見ると手残りが何もなかった。実際、こういう経験をすると、人に新たなチャレンジは勧めづらいのですが、それは違うなと。この経験をした私だからこそ、応援できると思いました。
――踊り場状態にある新規事業をどうやって、次のステップに導くのですか。
太田氏:それぞれ事業ごとに状況は異なるので、一概にはいえないのですが新規事業は子どものようなもので、皆さん思い入れが強い。そのため、状況が客観視できないケースがあります。それを私たちが客観視して、「集客がだめだと思う」など具体的な分析をさせていただく。ただ、このときに大事なのは、先方のお話をよく聞くこと。手塩をかけて育ててきた事業を頭ごなしにダメ出しされても、納得できませんから、お話をきちんと聞いた上で、判断していくことが大事ですね。「人に優しく、事業に厳しく」という感じでしょうか。
北嶋氏:よくお話を聞くことで、芽のある事業は継承したり、別の企業に引き継いだりと新たなステージへと持っていけます。私たちも何でもクローズすればいいとはもちろん思っていなくて、続けることで成功したり大きな成果につながる可能性があるものは続けることが第一です。事業を閉じるにしても、あらゆる可能性を探した上で今回は……ということになれば、その事業に関わった方たちも納得しやすいですよね。
――継続する事業と閉じる事業をどうやって見極めていくのでしょう。
北嶋氏:定量的、定性的の2つの側面から判断していきます。定量的というのはある程度ルールがあって、ユニットエコノミクスやPLなどの各種KPIから見ていくと継続が厳しいかどうか判断ができます。難しいのは定性的な部分で、それこそ事業ごとに異なる。そのあたりは個別で見て判断していますね。特に人材の部分は個別で見る必要がありますね。
中には、フェーズごとにKPIを設定し、撤退基準を設定してから事業をスタートしている会社もありますが、実際お話を聞いてみると、なかなか次のステップに踏み切れないこともあります。人材の問題もそうですが、ビジネスモデルやマネタイズなど、個別な特殊事情が絡んで、KPIは達成できていなくても、もう少し続ければマネタイズが出きそうなケースもありますし、逆にKPIが実現できていても、リーダーが疲れていて、やめたほうがいいなと思えるケースもあります。
大丸氏:Rebootus設立前にもRelicとして、事業の譲渡やクローズをお手伝いさせていただいてきました。その経験からすると、早期に次の方向性を判断できた事業は再挑戦しやすい傾向にあると思います。
――現時点ですでに事業を引き取られているということですが。
太田氏:複数のSNSやウェブサイトを1つのプロフィールページにまとめられるプロフ作成サービス「Profiee(プロフィー)」と、ユーザー理解を高速化・省力化して事業を成長に導くSaaS「Seevoi」の2つを、Rebootusが引き継ぎました。
北嶋氏:どちらもとてもいいサービスで、Relicとしては筋の良い事業を時間をかけずに手に入れられました。事業はゼロから立ち上げると時間も資金も必要ですが、引き継げば成功確度の高い事業が比較的短い時間で手に入る。もちろんRebootusで持ち続けるよりもほかに譲渡したほうが良いと判断すれば、そこに売却益も入ります。
大丸氏:この取り組みはRelicとしての企業価値向上にもつながっています。数多くの新規事業をサポートしていくなかで、Rebootusのお話をすると「本当にそこまで面倒をみてくれるんだ」と実感していただいています。
北嶋氏:サポートしている数が多いので、その分クローズの経験もあります。事業を閉じるときの苦労がわかっていると立ち上げ方も変わってくる。そこはRelicならではの強みだと感じています。譲渡する前提で事業を立ち上げるなんて誰もやっていませんが、実はそこを意識するとシステムの作り方から利用規約の内容まで大きく変わってくるのです。
――どのあたりに気をつけられているのですか。
太田氏:北嶋がお話した通り、システムと利用規約周りが大きいですね。ただ、ここまで見据えて作っておくと圧倒的に楽ですし、譲渡時にかかる金額も変わってきます。複数件のクローズに関わると、絶対にやっておいたほうがいい方法というのが見えてきますが、これを類型化しようとは誰も思っていなかった。その部分を私たちが知見を貯め、お伝えしていっています。
大丸氏:事業を推進している段階では、最もやりたくない、考えたくないといった部分ですしね。
――相談を受け付けてから譲渡やクローズに至るまでどのくらいの時間がかかりますか。
太田氏:ご相談いただいた事業の方向性は1カ月程度で決めるようにしています。事業の譲渡やクローズに時間がかかるのは当然なのですが、時間がかかればかかるほど、チームの士気も落ちていきますから。
北嶋氏:情報がうまく集まらず、判断に時間がかかってしまうケースもあるにはありますが、それでも最短で動ける準備は常にしていますね。スピードは大事です。
――サポートする企業の方とはどうやってつながっているのですか。
北嶋氏:Relicとしてご相談をいただくケースが多く、その中からRebootusにバトンを渡す感じですね。ただ、最近はRebootus単体でも引き合いをいただいていて、ベンチャーキャピタル、スタートアップスタジオ、大手企業の新規事業プログラムの方などから反応が出てきました。やはりリビングデット問題で悩まれているケースが多いですね。
現時点では事業だけを譲り受けているのですが、中にはチームごと引き受けてくれないかというニーズも出てきましたので、そこも対応していけるといいなと考えています。
太田氏:事業と人はリンクしていますから、チームごと来ていただいたほういいケースもあります。事業だけではなく、チームごと譲り受けられるような選択肢も用意できたらいいなと思っています。事業譲渡やクローズと聞くとネガティブに捉えられがちですが、私個人としてはクローズしないことの弊害を感じることもあります。ネガティブなことではなく、再挑戦するためのステップとしてRebootusを活用していただきたいと思います。
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