パナソニック ホールディングス プロダクト解析センターは、顔画像を使った「脳の健康状態推定サービス」を開発した。
脳の健康状態を示す「BHQ(Brain Healthcare Quotient)」を簡単に推定できるのが特徴で、カメラの前に立ち、表情を計測するだけで、従来のMRI計測や、スマートウォッチなどによるバイタル計測に比べ、手軽で、迅速に、低コストで、脳の健康状態を知ることができる。
BHQは、内閣府の革新的研究開発推進プログラム「ImPACT」において、プログラム・マネージャーの山川義徳氏が開発した指標で、脳の健康状態をわかりやすい数値で示すことができる。2018年には、ITU-Tにより国際標準化されている。
脳の灰白質と呼ばれる領域の「神経細胞」の健康状態を指標化したGM-BHQと、脳の白質と呼ばれる領域における「神経線維」の健康状態を指標化したFA-BHQの2種類の指標を組み合わせて、脳の健康状態を指標化している。
一般的に年齢が進むにつれて、BHQ値は低下。また、健常な高齢者に比べて、認知症患者はBHQが低いという結果が出ているという。BHQは、急激に変動するようなものではないが、数カ月単位で計測すると変化があり、平日の家事や休日の外出は脳に良い影響を及ぼし、メタボや休日の休み過ぎは脳に悪い影響を及ぼすため、指数をもとに生活改善につなげることもできる。
今回の「脳の健康状態推定サービス」では、驚いた表情、悲しい表情、笑顔の表情、しかめっ面の4種類のサンプル画像が表示され、それにあわせて同じ表情をし、それを撮影することになる。1枚あたり5秒間ずつ撮影し、静止画とともに、動画として記録したものを分析することになる。表情の変化を解析することで、BHQを推定し、脳の健康状態を数値化する。解析した結果は数秒で表示されるため、1枚目の撮影開始からは、30秒間もかからずに結果を得ることができる。結果は、「同年代と比較して+3点、脳の健康状態が高いと推定される」といったように表示される。表示方法は、今後、よりわかりやすいように変更することも検討しているという。
同社では、認知症患者の表情は乏しくなる傾向があるという状況を捉え、認知症と表情を作る能力との間に何らかの相関関係があるとの仮説をもとに、実証データを収集したり、想定精度の高い閾値を構築したりといった取り組みを進めてきたという。また、MRI計測によって導き出された数値と、4種類の表情をもとに、独自のアルゴリズムで解析した結果に相関関係が確認できたことから、BHQ推定サービスとして開発を進めたという。
今回のサービスで利用しているカメラは一般的なものであるため、将来は、スマホのアプリとして提供し、内蔵カメラで撮影したものからBHQを推定するといった使い方もできる可能性もあるという。また、ドラッグストアなどに設置して、手軽に計測するといった使い方も可能になる。
パナソニックホールディングス 技術部門プロダクト解析センター ユーザビリティソリューション部UX解析課 主幹技師の阿部圭子氏は、「BHQは日々の生活の積み重ねで変化する。体重計で測るのと同じような形でBHQを計測してもらい、それをもとに行動変容を促すほか、生活環境の改善に活用してもらいたい。まずは試験的なサービスとして取り組みを開始したが、利用者の反応を見て、今後の商用化などを検討していきたい」としている。
なお、同技術は、6月28~30日に、東京・有明の東京ビッグサイトで開催される「自治体・公共 Week 2023」に、BHQ株式会社とともに展示する。展示では、約150cmの高さにモニターとカメラを設置し、来場者の表情を撮影。その画像を接続したPCで解析する。また、楽しく脳を活性化させるための顔ヨガ体験のデモも行うという。「展示を通じて、サービス化に向けた手触り感を探りたい」としている。
パナソニック ホールディングスのプロダクト解析センターは、2012年に、旧パナソニック、旧パナソニック電工、旧三洋電機の解析・評価技術のメンバーが集結し、150人体制でスタート。全事業会社を横断的にサポートしている。
プロダクト解析センターでは、コア技術として、電子回路解析、材料分析、電気安全、信頼性、バイオ評価、デバイス創造、EMC、ユーザビリティの8つの解析ソリューションを保有。今回の「脳の健康状態推定サービス」は、ユーザビリティソリューションの取り組みのひとつで、同部門では人間工学、感性工学、心理学、生理学などのヒューマンテクノロジーによって、人のさまざまな側面を科学的に解析。使い心地がいいといった曖昧な感覚を可視化したり、定量化したりすることで、商品づくりを支援。新しいくらしや、価値の創出につなげる活動を行っているという。
「人の動作や筋肉への負担を実測したり、デジタルヒューマンによるPC上でのシミュレーションで、負担感を可視化したりといったことを行っている。また、視線移動を捉えた眼球運動の計測によって、画面の見やすさや使いやすさを導き出したり、把持圧分布などにより、シェーバーや歯ブラシの握り心地を可視化したりといったことも行っている。最近ではモノだけでなく、心豊かなくらしや、よりよいくらしづくりに、これらの技術を活用していく活動が増えている。お客様の気持ちを理解するために、表情解析、視線解析、行動解析、音声解析、心拍解析を活用し、製品を使ってワクワクする驚き、使って楽しい体験価値を見える化している」とした。その上で、「今回の技術は、人を理解する上で核となる脳の健康に注目したものである。人間の感覚や感情、身体への負担など、人のココロとカラダの状態を可視化および定量化するためのユーザビリティ評価技術を、展開、応用することになる」としている。
プロダクト解析センターでは、独自の表情解析技術を蓄積しており、撮影した表情から、その時点での感情を推定する技術を実用化。これを2018年から、「観戦満足度モニタリングサービス」として提供している。具体的には、スポーツ観戦をしている観客席の盛り上がりを、表情をもとに、時列列で変化する様子を見える化することできる。すでに、プロ野球やJリーグ、Bリーグなど、10チーム以上に導入している。
「プロダクト解析センターでは、「こうした人を理解する技術を通して、お客様とともに、一人ひとりの生涯にわたる健康、安全、快適に貢献する取り組みを推進していく」としている。
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