電機大手の2022年度(2022年4月~2023年3月)連結業績を見ると、家電事業においては明暗が分かれる格好となった。
好調ぶりを示した筆頭となるのがダイキン工業だ。年間3回の通期見通しの上方修正を経て、2月公表値をさらに上回る実績を達成。売上高、営業利益ともに、過去最高を更新してみせた。
ダイキン工業 代表取締役社長兼CEOの十河政則氏は、「これまでに培ってきた強みを最大限に発揮し、次々とスピーディに施策を打ち立て、その実行に徹底して取り組んだ。実行力は、ダイキン工業独自の企業文化、組織風土によるものである」と、企業体質の強さが好調な業績を生んだことを強調。国内家庭向けエアコン市場全体では、製品供給不足や物価高騰による消費マインドの悪化が見られたが、給気と排気の切り替え換気ができる「うるさらX」などの差別化商品の販売を強化。22.5%のシェアを獲得し、首位を維持した。
グローバルの空調事業でも、コロナ禍やウクライナ情勢による市場変化に対応し、省エネ性や空気質ニーズの高まりを捉えた製品の販売、施工性を向上した新商品の投入、サービスソリューション事業の強化、ライブコマースを活用した新たな販売の拡大のほか、調達と生産のダブルエンジン体制とバックアップ体制の構築による供給力強化への取り組みを開始するなど、積極的な姿勢が功を奏した。2023年度も過去最高を更新し、同社初となる売上高4兆円突破、営業利益4000億円台を目指す計画だ。
三菱電機も空調・家電事業が好調だ。同事業において、2年連続で過去最高の売上高を更新。「例年であれば、空調関係は上期の売上げが大きいが、部品不足などにより、需要に対して製品が出し切れず、機会損失が生まれていた。だが、2022年度第2四半期以降、電子部品の需給状況に改善の動きがあり、欧州、日本、北米向けの空調機器の販売が増加した。2022年度は下期の方が高くなっている」(三菱電機 常務執行役 CFOの増田邦昭氏)と、旺盛な需要を下期に取り込んだことが、過去最高の売上高の更新につながっている。空調・家電事業は2023年度も国内、欧州、北米を中心に全地域での増加を想定。売上高で10%増、営業利益では51%増という高い成長を見込んでいる。
全社では過去最高業績を達成したソニーグループは、テレビを含むエンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)分野においては減速感がみられた。売上高は増収となったものの、営業利益は16%減と前年割れとなった。テレビの需要減速が大きく響いており、「事業環境が厳しいテレビでの固定費削減を進めている。テレビはかなり慎重に見ている」(ソニーグループ 社長 COO兼CFOの十時裕樹氏)とする。同社の全世界におけるテレビの販売台数は年間660万台となり、前年比22%減と大きく縮小している。
実際、テレビ市場全体での減速ぶりは明白だ。国内市場においてもそれは同じで、電子情報技術産業協会(JEITA)が発表した2022年度の薄型テレビの国内年間出荷台数は前年比11%減の468万2000台に留まっている。
だが、デジカメに対する需要が堅調であり、ソニーグループでは、競争力がある商品の市場投入などにより、収益拡大を図っているほか、同社が力を注いでいるヘッドホンも、高付加価値モデルにフォーカスした取り組みを通じて、収益確保につなげる考えだ。
日立製作所も全社業績では、売上高、利益ともに目標をクリアし、増収増益の好調な結果となったが、白物家電事業は厳しい内容となった。同事業を担当する日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)は、コネクティブインダストリーズの生活・エコシステム事業として業績を発表。売上収益は前年比1%減の3923億円、Adjusted EBITAはは45億円減の355億円の減収減益となった。2022年度第1四半期に、上海ロックダウンの影響を受けて、洗濯機を制御する基板を生産できず、日本国内での洗濯機生産ができないという状況が発生するなど厳しい環境に陥った。2022年7月には通期見通しの下方修正を発表していた。だが、売上収益はこの計画を上回る実績を達成。今後は収益回復が鍵になる。
また、2023年度の日立GLSの業績見通しは、国内家電の販売増および構造改革などにより、売上収益は前年比2%増の4000億円、Adjusted EBITAは100億円増の455億円を計画。増収増益を見込んでいる。2023年度の巻き返しが注目される。
パナソニックグループで白物家電を担当するくらしアプライアンス社は、増収減益の業績となった。価格改定やマーケティングコストの削減などに取り組んだが、円安がネガティブインパクトとなったほか、原材料 価格や輸送費の高騰などの外部環境の悪化、世界的なインフレによる需要減少がマイナスに働いた。国内家電は、価格改定などの効果はあったものの、減販影響をカバーしきれずに減益になったという。
2023年度は、国内家電の需要は前年並みと見ているが、国内マーケティングの強化や価格改定を推進。中国を中心に下期から家電需要が緩やかに回復すると予測している。厳しい環境から脱却できるかが注目される。
堺ディスプレイプロダクト(SDP)に関連した特別損益の計上により、巨額の最終赤字となったシャープで、白物家電事業を担当するのがスマートライフだ。「スマートライフは、下期以降に、国内やASEANをはじめとした世界各地での市況悪化の影響を受けたものの、通期では増収となった。とくに、調理家電については、欧米でスマートキッチンなどが伸長したことで、売上げを大幅に伸ばした」(シャープ 代表取締役副社長執行役員の沖津雅浩氏)という。また、洗濯機ではドラム式洗濯乾燥機が前年実績を上回ったという。だが、原材料価格の高騰や、円安の進展によって、国内の白物事業の収益が落ち込み、減益となった。また、8Kエコシステムに含まれるテレビ事業は、市況低迷の影響を受けて減収減益となっている。
2023年度は開示カテゴリーを変更し、白物家電は、スマートライフ&エナジー事業に含まれ、前年比で増収増益を計画している。「白物家電事業は、新規に開発した独自特長商品やソリューションの創出、海外事業の拡大を推進。付加価値商品のシェア拡大、日本および米国におけるスマートキッチンの販売拡大、ASEAN事業の高付加価値化などに取り組む」という。また、ユニバーサルネットワーク事業に含まれるTVシステム事業は、商品力の強化やサプライチェーン改革によって収益性を改善し、シャープ独自のXLEDのグローバル販売の拡大に取り組むという。
これまでは業績悪化の時期にも比較的好調な業績を維持してきたシャープの白物家電事業だが、今回も業績回復を下支えすることができるかが注目される。
各社の決算を見ると、家電事業に関しては、開示カテゴリーに差があるため、一律に比較することは難しいが、明暗が分かれた結果が浮き彫りになった。
業績を伸ばした企業では、コロナ禍でのニーズの変化に柔軟に対応した製品投入や販売施策を展開するとともに、原材料価格や物流費の高騰、半導体や部材不足に対しても積極的な対策に乗り出した企業が多いことがわかる。とくに、価格転嫁への動きは各社ごとに差があり、いち早く取り組んだ企業の業績が好調であることがわかる。経営スピードの差が明暗をわけたといってもよさそうだ。
一方、これまでは課題となっていた原材料価格や物流費の高騰、半導体や部材不足については、部材流通の安定化や調達先の複数化、価格改定の効果などによって、これまでのような大きな影響がなくなってきたのも確かだ。また、国内白物家電事業では、急激な円安影響がネガティブに働いたが、これも体質改善などによって、影響が徐々に減少している。2023年度は、こうしたマイナス要素が緩和されるなかで、国内白物家電の収益改善や成長戦略を実現できるかが鍵になる。
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