楽天グループは5月13日、2023年12月期第1四半期決算を発表。売上高は前年同期比9.3%増の4756億円、営業損益は762億円と、前年同期の1132億円より減少したとはいえ、引き続き楽天モバイルへの先行投資で赤字決算となっている。
そうしたことから、同日に実施された決算説明会に登壇した代表取締役会長兼社長の三木谷浩史も、楽天モバイルを含むモバイルセグメントの動向に重点を置いて説明。同セグメントの業績は、月額0円施策の終了による楽天モバイルのARPU向上などによって、売り上げ、利益ともに改善傾向にあるという。
さらに三木谷氏は、同日に発表した新料金プラン「Rakuten最強プラン」の提供経緯について改めて説明。三木谷氏によると、ユーザーが携帯電話会社を選ぶ上で重視する要素は価格と通信品質であるという調査結果が出たという。また、楽天モバイルは料金の安さで圧倒的な優位性を誇る一方、通信品質では携帯各社のサブブランドをも下回り、非常に低い状況となっている。
そして、楽天モバイルの解約理由も過半数が通信品質を占めており、契約を増やす上で通信品質が最大の課題になっているとの認識を示す。楽天モバイルも基地局整備を積極的に進め、人口カバー率98.4%に達しているが、それでも屋内や繁華街などでのエリアカバー改善を求める声が多かったという。
それを自社でカバーするにはプラチナバンドの割り当てを待つ必要があり、時間がかかることからKDDIとの提携を強化することを選択。三木谷氏は、従来ローミングの対象外となっていた東京23区など大都市部もローミングの対象とすることで、人口カバー率を一気に99.9%にするというのが新プランの狙いである、と説明している。
楽天モバイルの通信品質評価が低い理由として、三木谷氏は、都市部以外のエリアカバー、地下鉄での混雑時の接続性、そしてローミングでKDDI回線から楽天モバイル回線に切り替わる時にやや時間がかかることの3つを挙げている。
Rakuten最強プランの提供でエリア面の満足度を高めるとともに、回線切り替えをよりスムーズにする仕組みを強化することにより、それら品質の問題を改善できるという。当面はKDDIとのローミングで顧客体験を向上させ、その間にプラチナバンドの割り当てと基地局開設、そして米AST SpaceMobileと取り組んでいる衛星通信の活用などの準備を進めていくとのこと。
注目されるのはローミングの継続による費用削減効果だが、2023年度も設備投資額を1000億円削減できるとしており、今後3年間で約3000億円の削減を見込んでいるという。
そのローミングにかかる具体的な費用については、三木谷氏は「守秘義務があり詳しくは言えない」とするが、ローミングの継続により当初計画よりも若干増加するとされている。一方で、それ以外の費用を減らすことにより、営業費用は月間150億円削減するという目標は変えないとしている。
もう1つ、三木谷氏は、楽天モバイルを巡って注目されているプラチナバンドについても言及。行政側での環境整備が必要になるため「私たちの一存ではどうにもならない」と答えるものの、獲得は引き続き視野に入れているとのこと。総務省で割り当て議論が進められている狭帯域700MHz帯と、大手3社が持つ800~900MHz帯の再割り当て、双方の状況を見極めた上での獲得を目指すとしており、今後のプロセス次第ではあるものの「割り当ては秋以降になると思う」と三木谷氏は話している。
三木谷氏は新料金プランに加え、2023年5月から開始予定のワンストップMNPサービス、そして新たに2023年6月から提供予定の、楽天会員であればタップ1つで申し込みができる「ワンクリック開通」など、加入しやすい環境を整えることで、2023年5月10日時点で465万という契約数をさらに大きく伸ばしていきたいと説明。
加えて解約率にも言及し、月額0円施策の終了の影響が落ち着いたことに加え、新料金プランによる通信品質改善が進むことから今後楽天モバイルの解約率を大幅に低下させ、「将来業界水準か、それに迫る所までいけると思っている」と話した。
ただ、ワンクリック開通が利用できるのは当初データ通信の契約のみとなる。その理由について三木谷氏は、行政の指導により音声対応のSIMは本人確認が必要であるため、と説明。楽天グループは「楽天カード」などで本人確認をしているサービスも多いことから、それらを活用することにより音声対応プランでも2カ月遅れる形でワンクリック開通を始めたいとしている。
もう1つの契約拡大の大きなポイントとして、三木谷氏は、引き続き楽天エコシステムとのシナジーを挙げている。楽天モバイルの契約数が、4000万いる楽天市場の月間アクティブユーザーの10%程度に過ぎないことから、それを3、4割といった規模に広げてグループ全体での収益化につなげたいとしている。また、2023年に提供開始した法人向けプランに関しても、90万社ある取引先を中心として法人市場で25%のシェア獲得を目指す方針とのことだ。
インターネットサービスセグメントの業績は、「楽天市場」を主体としたECの国内流通総額が前年同期比12.2%、国内EC売上高も前年同期比12.1%伸びるなど、コロナ禍前と比べても好調に推移しているとのこと。国内のEコマースは海外と比べまだ成長が見込めることから、三木谷氏も、国内EC大手の中でも高い成長率を見せているこの事業の一層の成長に自信を見せている。
ただその一方で、楽天モバイルの「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」に係るコスト負担の一部を楽天市場に移管するなど、モバイルセグメントに属していた事業のいくつかを移行したことで、セグメント業績は増収減益となっている。
楽天モバイルのSPUコストを移した理由について三木谷氏は、「色々な投資家から、楽天モバイルは(楽天グループの)エコシステムに貢献しているが、収益に換算しないのか? という意見をいただいた」と説明した。
また、楽天グループは決算発表と同日に、保有するスーパー大手の西友ホールディングスの株式を、米投資ファンドのKKRに全て売却することを発表している。楽天グループの取締役副社長執行役員である武田和徳氏は、西友ホールディングスへの出資はネットスーパーとO2Oの実現に向けた連携であったと説明。その初期目標は十分達成できた一方、「互いのビジネス環境を評価しつつ資本関係解消となった」とのことで、今後も西友ホールディングスとの協力関係は継続していきたいとしている。
フィンテックセグメントは、主力の楽天カードのほか、「楽天銀行」「楽天証券」などが順調に伸びて増収増益を記録。かねて進められてきた楽天銀行の上場も、4月21日に東京証券取引所プライム市場への上場に至っており、楽天証券ホールディングスの上場についても、一部株式を売却したみずほ証券と相談しながら「最高のタイミングで上場したい」と三木谷氏は話す。しかし、同時に「そんなに長い先ではないかもしれない」とも答えており、早い段階での上場実現を目指している様子を示した。
さらに三木谷氏は、長期ビジョン「Vision 2030」の達成に向けた動向について説明。インターネットサービスセグメントに関しては赤字事業の黒字化を進めて15%の成長率を維持し、400億円の利益創出を見込むとしている。
フィンテックセグメントに関しては、現在15%程度の営業利益率を20%に上げ、330億円、将来的には400億円の利益を達成したいとのこと。そして楽天モバイルに関しては、コンシューマー向け契約回線数が2400万、法人向け契約回線数が700万を実現できると、フィンテックセグメントを上回る収益を実現できるのではないか、と話した。
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